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今日も今日とて平和なヴァリウス王国の王都の城下……ではなく、王都の外れにある森の奥。
「あ、ユイ。こんにちは」
「……慌てたりしないんだな」
「ある意味馴れた光景ですからね」
『見慣れた光景』とはつまり、レア食材な魔物と戦うユークリッドのことだ。彼はそのときいつも、火魔法を使わないで殺したり、食材として使えないぐらい損傷させないよう細心の注意を払っているのだ。
…この場合、レア食材となる魔物は暗殺者に置き換わるのだが。
「加勢した方がよろしいですか?」
「ああ、頼む。俺じゃ殺しかねない。ヒースに殺さないように頼まれているんだ」
「一人だけ残したら、情報源としては十分でしょうに」
暗殺者の人数は50人弱はいるだろう。
「これ、暗殺というより襲撃ですよね。クロはいないんですか?」
「残念だが今日はあいつ月一の休みなんだよ」
「よりによってなんでそんな日に」
セレスティアははあとため息を着いて、背中に背負っていたレイピアを抜いた。
「ユイ、あなたそろそろ本気出したらいかがです?ドラゴンを倒せるSSクラスの冒険者、この程度どうってことないのは既知の話でしょう」
「……剣が壊れるから本気は嫌なんだよな…」
「うわぁバカ力。終わったら良い鍛冶屋を紹介してあげますよ。偏屈な人ですけど腕は良いので」
「じゃあ、頼んだ!」
二人は互いに背を預け、ユークリッドが風を切ってかける。それはまるで風そのものになったかと思うほどに早い。
セレスティアもそれと同等の攻撃を発揮する。セレスティアの剣は、小さな一撃で相手を動けなくさせていく。
「よし、終わりましたね」
「助かった」
全て倒し終えた頃には一分が経っていただろうか。これがSSクラスの実力である。
「報酬は今度王家秘蔵の酒を」
「………お前が見返りなしに何かするはずがないと思っていたが、それかッ…」
「労働には対価が必要でしょう?」
「…分かった。今度持ってこよう」
ユークリッドはひとつため息をついて、暗殺者たちを簀巻きにし始める。
「城まで持っていくの、手伝いましょうか?」
「大丈夫だ。空間魔法で牢にぶちこんでおく」
「出た、空間魔法。王族の血族に稀にしか出ないやつですよね」
「出た、って…なにがだ。確かに空間魔法と時魔法はうちの血族にしか出ないらしいが」
「ふーん。時魔法もやっぱりそうなんですね。……これ、クロがいたらどうだったんでしょう」
「多少手間取ったかもしれないが、捕縛ぐらいしていると思うぞ」
「……そうは見えないけれど有能なんですね」
「毎日俺を煩わせる前に暗殺者を捕縛しているからな」
「わぉ。全く見えませんよ。普通に毎日陛下と遊んでるじゃないですか」
クロの有能さが露見した。
「よし、じゃあまたな」
「はい。機会があれば」
ユークリッドが空間魔法で作った通路に暗殺者たちを投げ入れるのを眺めながらセレスティアは返した。
有難うございました