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今日も今日とて平和なヴァリウス王国の王都の城下。だがしかし今日は少し不穏な雰囲気。
「そういえばユイの側を付かず離れずの人がいるんですけど………」
「は?どんなやつだ?」
「黒目黒髪黒尽くめの男です。……ストーカーですか?ユイは男にもモテるんですね」
「男にまでモテてたまるか」
「おや、女にはモテていると認めるんですね」
「………後宮持ってる男がモテないとかいっても信憑性ないだろ」
「確かに。
で、あれなんですか?」
「俺の護衛の隠密だ。おいクロ!」
ガサッ
「はいはーーい!お呼びとあらば、いつでもどこでも参上だ、ゼ☆」
二人のいる頭上の樹の枝から逆さまに登場した黒ずくめの男は、キラッと変なポーズをとっていた。
「うわぁ、キモ」
「有能な部下だが、………否定はできないな」
「ひどいですねー!あ、でもセレスティア姫、あんたは好きですよ。破天荒で陛下と同じぐらい面白いですから」
「………気持ち悪い」
「大丈夫か、セレスティア。お前は病弱だからこいつの魔力にあてられたんだな。少し休もう」
さっと崩れ落ちかける女(本名はセレスティア)を抱える男(本名はユークリッド)。セレスティアの顔色は蒼白で、ユークリッドも本当に心配しているようだ。
「…はい。ありがとうございます、ユークリッド陛下」
「何なにー!?ちょっと待ってくださいよー!小芝居止めて。セレスティア姫俺より魔力高いんだから、当てられるわけないでしょう!ひどいなあ」
むくりと起き上がり、離れる二人。
「ち、バレたか」
「やっぱりこの小芝居鳥肌たちます。ゾワッてしましたよ。あなた猫被りすぎです」
「お前もだろ。てか二の腕擦りながら言うな。これが後宮では好評なんだよ」
「…世の中の乙女の気持ちが分からない」
「枯れてんな」
「あなたに言われたくない。たくさん奥さんがいるのに未だ誰とも夫婦じゃないんですから。奥手なんですか?ああ、相手が受け入れてくれるか不安?そんな心配があるときは!この、最強の媚薬を使うとよいでしょう。お値段は、通常白金貨1枚(100万円)のところを―――」
「営業始めるな。しかも昼間っから媚薬とか素面で叫ぶな」
拳骨投下。
「痛い……(涙目)」
「うわぁ…可憐な姫君に暴力を振るう国王………嗜虐嗜好の暴君ですね」
「なっ」
「相手は女性なんですよ?あなた騎士の教育を受けていますよね。習いませんでしたか?女性には親切に(レディーファースト)、と」
「もっとやれ〜!」
「それにセレスティア姫は病弱だとのこと。悪化させるおつも―――」
拳骨投下×2
「痛い…(涙目)」
「い゛っ…陛下力強すぎですって!」
「消し炭にされたいのか」
「ちょ、陛下、ちょ待って。それ本気」
「ああ。己の所業を悔いろ」
「ちょ、セレスティア姫助けて、…一人でバリア張ってるし!」
「城下ではナナシ、と呼んで」
「はーい、承りました〜……ってそんなことしてる場合っ!ぎゃああああぁぁぁぁ」
こんがり焼き上がった隠密は、セレスティアが美味しくいただいたとか。
「人肉は固くて不味いから食べないよ。特にクロは筋肉質そうだし」
「かってに殺さないで!生きてるから!」
「チッ、やりそこなったか」
今日はここまでです