10歳 旅支度
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では9話目お楽しみください。
「一言あってもよかったんじゃありませんか?明らかに私の出発前に通達出したでしょう?」
ドゥクス邸に到着したイツキは勝手知ったるなんとやら、執務室に入るとドゥクスを問い詰めた。
「親心って奴だよ。言えば君はネブラで待つって言い出しかねなかったからね。母親を安心させるのも子供の務めだよ」
「それについてはわかりました。それで、私を呼びだしたのはなぜですか?」
「今魔王が飛行に優れたものを召集しているのは知っているね?」
「はい。それで母が兵役に行くことになりましたから」
「実は魔王は空軍を組織したいと思っている。私はその中核に君を据えたいと思ってね。ただ召集の最低年齢は15才なんだ。君はまだ10歳になったばかりだよね」
イツキは首肯する。
「でも、義勇兵ということであれば年齢制限はないんだ。君には義勇兵として空軍の中核をなすことを期待しているよ。筆頭将軍のロンガ卿は机を並べて学んだ仲なんだ。同じ海軍閥だしこの推薦書さえあれば無下に扱われたりはしないだろう」
「そこまで用意されてるとは……微力を尽くします」
いつきは諦めて推薦書を受け取る。
「よろしく頼むよ。母親は自分が守るって気概に期待したいね。部屋に荷物を用意しているから受け取っていってね」
「何から何まで、ありがとうございます」
そう言ってイツキはドゥクスの執務室を出ると自室とされた客室を訪れる。
ベットの脇には茶色いトランクが置いてあった。
トランクは妙に軽く、開けてみると何も入っていなかった。
「それでは、採寸いたしましょう」
いつの間にか背後にいたメイドのアンキラがそういうと、大勢女性が部屋に入ってきた。
女性たちは私を取り囲むと色々なところに巻き尺を当てて測っていた。
「何か希望はございますか?」
そうアンキラに問われ、イツキは悩む。
(某魔砲少女のカラーは白と青だったはずだけど、再現しようか、どうしようか)
「アンキラさん、白とか青って高価な布地じゃないですか?」
「特に高価というわけではありませんよ。そういった色が好みですか?」
「ちょっと思うところがあるので、何か書くものを用意してください」
「かしこまりました」
そう言ってアンキラさんは部屋を出ると紙とインク、ペンを持ってやってきた。
そうこうしているうちに採寸が終わり開放される。
私はイメージを図に説明していった。
「まず、黒い首元までの半袖のインナー。靴下も黒にしてください。」
「はい。絹製にしますか?」
「綿でも亜麻でもいいですよ。次に白いワンピース。肩から下げて鎖骨の辺りから膝まで来るぐらい大きくしてください。また、腰を中心として放射模様のように青を使います。体の右前、右、右後ろ、左前、左、左後ろを青にしてください。放射の太さは白5に対して青2になるような感じでお願いします。裾には飾りとして白い正3角形を付けてください。白い部分には5つ、青い部分には2つお願いしますね」
「はい」
「最後に上着ですね。メインカラーは白。丈は腰の辺りまででカラー同じくらいまで延ばしてください。肩の位置で身幅ほどにして端はM字型にしてください。三角形の胸当てを付けたいので、カラーで見えないように内側にボタンを付けてください。前に小さな赤いボタンを3つ、一番上がカラーの下端を固定するようにしてください。あとボタンホールも赤くしてください。身頃は縁取りを青で5センチくらいお願いします。カラーと胸当ては縁は白で2センチ、その次に青の2センチほどのラインでお願いします。袖ぐりも青で2センチほど縁取ってください。袖は中指の付け根くらいまでにして袖端から手首まで青にしてください。あと胸元に赤いリボンをつけますので幅5センチくらいの布でリボンを作ってください。着ける時簡単なようにリボンは紐にくっつけて首の後ろで結べるようにしてください。具体的にはこんな感じです」
そう言って絵にして見せる。
「少し袖が長くありませんか?」
通常は手首を覆うくらいがちょうどいいとされている。
ちょっと長くして、いわゆる萌袖とされるのは手のひら半分ほどの位置までだ。
それと比較して、中指の付け根までというのは長い。
「成長するでしょうから大丈夫です」
イツキは将来的に萌袖になればよいと思っていた。
「それでは靴も大きめに作りましょうか?」
「そうですね。少し大きく、色は白。動きやすいよう踵は低くお願いします。靴底と上の革の間に青いラインを入れてください。ハイカットにしますが正面に切り込みを入れて履きやすくします。履いた後はベルトで固定しますのでそのようにお願いします。ベルトは金色もしくは黄色でお願いします。何か質問はありますか?」
「服の裏地はどうしますか?」
「基本は白いもので、上着のそでだけ青でお願いします。あと、袖には黄色いラインが2本入るようにしてください。他に何かありますか?」
「……では作ってから考えますか」
そのアンキラさんの声で皆が動き出した。
翌日、亜麻製の靴下とインナーが仮縫い状態で届けられた。
靴下は伸縮素材を使っているのか問題なく履けた。
だがインナーは成長を見越して大きく作ろうという方針だったために大きく作ってもらったのだが、さすがにダボダボすぎだった。
しかしもっと大きな問題があった。
下半身の下着がショーツだったのだ。
今まで通りふんどしがいいという私と不格好なものは作れないという女性。
とりあえず下着の上の下着としてスパッツを提案してみた。
(パンツじゃないから恥ずかしくない?)
その次に2人の靴屋さんがやってきた。
足型を作るのだ。
今までは裸足もしくは布で包む位しかやっていなかったがついに靴をはく時が来るのだ。
いすに座って靴屋さんの持ってきた台の上に両足を乗っけると1人が足をじっくり観察しつつ木型を削っていく。
もう1人はお盆の上にベルトを並べ始めた。
「ベルトで固定なんて作ったこともないから革屋で借りてこられるだけ借りてきたんだ。気にいったのはあるか?」
問題は穴のあいたベルトばっかりなことだ。
「穴のあいてないベルトはないんですか?」
「ベルトは専門外だが、そこにあるのと大差のないものばかりだったな」
「では、研究してください。穴のあいてないベルトを作りましょう」
そう言って靴屋さんは帰した。
その翌日、今度は上着が仮縫い状態で届けられた。
これまた亜麻製の上着はほぼ完ぺきだった。
青や黄色のラインはリボンが縫い付けられている。
ヒラヒラして華やかな感じだ。
左胸の内側には内ポケットもあり、至れり尽くせりだ。
ただ惜しかったのはリボンの紐の長さが長すぎたためカラーが大きくてもはみ出てしまったことと胸当てのボタンを付けたり外したりが難しいということだった。
前者は紐の長さを調節して終了だが後者はどうしようか悩みどころだった。
「こう、押すと留って引っ張ると外れるような技術はないかな?」
「ああ、スナップボタンですね。ではそちらでご用意させていただきます」
聞いたことが無い言葉だったが試作2号には着けてくれるというので期待しておくことにした。
その翌日はワンピースが仮縫い状態で届けられた。
ワンピースそれ自体は全く問題はなかった。
ただ、コルセットとパニエはいただけない。
それに問題は胸元がどうなるかだ。
それは他の服を待って合わせなければならなかったので、ワンピースを作っている女性チームは一休みとなった。
また、その日は下着の2回目の調整もあった。
ショーツについては譲られることなく、新たにスパッツが作られていた。
膝上3分丈のスパッツは靴下でも使われた伸縮素材が使われているのか、ぴったりフィット。
運動するのには問題ない性能を発揮していた。
インナーについてもダボダボから少しレベルアップし、実用レベルにこぎつけた。
成長すればぴったりフィットすると願いたい。
その次の日は上着の2回目の調整だ。
リボンの紐は少々長いがカラーで十分に隠れる程度だった。
また胸当てのボタンも思い通りの物がついていた。
パチリ、カチリという音を聞きながら胸当ての付け外しを行うが、問題はなかった。
ここに魔砲少女コスプレセットが仮縫い状態だが完成した。
早速着て、鏡を覗き込んだ。
こだわりのあった首元は黒いインナー、上着の胸当てがはっきりと見えた。
本懐である。
イツキは仮縫いから本縫いにするよう指示を出した。
さて、ここに至ってまだ見通しが立っていないのは靴だ。
それをアンキラさんに相談する多少状況を知っていた。
「留めるベルトの見通しが立っていないらしいですよ」
これについては研究の成果待ちだということで特に口出しはしなかった。
翌日、部屋に1つのトランクが届けられた。
体の半分ほどもあるトランクを開けると5セットほどインナーとショーツ、スパッツが入っていた。
「これからできたものはそちらに入れて用意させていただきます」
旅行前に思いっきり甘やかされていた。
後日、ワンピースと上着が2つずつ入るとトランクはいっぱいになった。
その頃になると靴についても変化があった。
「革職人が穴のないベルトを開発したそうです」
その連絡から5日後、靴のテストを行うこととなった。
足首より上まで包まれるハイカット、しかし正面に切り込みを入れたため履き辛さはない。
ベルトで金具に通してキュッと締め付けると、丁度良いフィット感だ。
部屋の中を歩いてみるが、特に問題はなさそうだ。
靴を脱ごうとしてちょっとトラブル。
ベルトが緩まないのだ。
「このベルトはどうやって外すんですか?」
「ちょっとコツがいるからな。覚えとけよ」
そういうとベルトの先を逆方向に引っ張った。
すると片側だけ金具と靴の間に隙間ができる。
その状態で金具を支えベルトの先を引っ張り出す。
次にもう片側も持ち上げベルトを引っ張り出すと靴を脱ぐことができた。
靴を脱いで眺めてみる。
青いラインは靴底とその上をつなげる部分に塗られている。
白い靴にはよく映えた。
それはベルトもそうだ。
足の甲の上を横断する黄色いベルトもよく映える。
履いて泥だらけにするにはもったいないとイツキは思った。
「ではこれで進めてください」
その2日後、完成した靴が届けられた。
すでに屋敷に到着してから2週間ほど経っていた。
翌朝、ドゥクス邸の前にはドゥクス氏やアンキラ他使用人が並んで見送りをしてくれた。
「推薦書は忘れてないかい?」
「はい。トランクの中に入れました」
「そっか。なるべくなら肌身離さずがいいんだけど、その格好じゃあ仕方がないよね。ネブラの港で少し待つことになるだろう。これで海の幸を味わうといいよ」
そう言って小さな巾着袋を渡してくる。
中を見ると、金色の硬貨が数枚入っていた。
「空軍の件、忘れてないだろうね?よろしく頼むよ」
「はい。微力を尽くします」
「では、これにて失礼させていただきます」
祖父アーディンの声にドゥクスは肯くと、
「ネブラの港までよろしく頼むよ」
と手を振る。
イツキはドゥクスや他の使用人の人たちに手を振ると空へと旅立った。
遅れて祖父アーディンも飛び立つとイツキを先導してネブラの港へ向かった。