10歳 徴兵
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では8話目お楽しみください。
イツキの10歳の誕生日の早朝、ドゥクス邸の屋敷前にはドゥクス氏と師匠、それに屋敷の使用人が勢ぞろいしていた。
「永い間お世話になりました」
「こちらも得る物がありましたからお互い様ですよ。第2の故郷としていつでも帰ってきてください」
魔法陣の研究書を作ったので家に帰ることとした。
今はドゥクス氏や師匠と別れを済ませているところだ。
「わしももう老い先短い。今生の別れになるかもしれん。その上で言わせてくれ。永く生きるんじゃぞ」
「そう簡単に死ぬわけには参りません。師匠と研究した魔法陣で永遠に生きていきますよ」
そんな不老不死の魔法は魔法陣にはないが、冗談としては通じた。
師匠は笑うとイツキの肩を叩くと別れの言葉を紡ぐ。
「元気でな」
「はい」
永い間ドゥクス邸でお世話になったため、執事さんメイドさんとも家族の付き合いだ。
「アンキラさん、ケッラリウスさん、セルウィトルさん、クストスさん、皆さん。お世話になりました。」
「あの客室はイツキ様の物として用意しておくよう主人から言われております。いつ戻られても歓迎させていただきますよ。」
関わりあいの深かったアンキラさんからそんな言葉が聞けた。
「では、またお会いしましょう」
そう言ってイツキは足元に魔法陣を展開した。
魔法陣の効果は発射速度上昇。
イツキがジャンプすると瞬く間に空へ飛び出した。
「そうは言っても、すぐに会うことになるだろうけどね」
ドゥクスは執務室の机の上にある魔王軍から届いた命令書を思い浮かべた。
天空に舞い上がったイツキが次に展開したのは速度上昇の魔法陣。
魔法陣の効果でイツキはまだ朝という時間に実家に帰ってきていた。
イツキは家のドアの前に立つ。
3,4年前に家を飛び出してから一度も帰ってきていなかった。
どんな顔をして母親に会えばいいのかわからなかった。
そもそも、イツキとして認識されるだろうか。
そんなことを考えていると家の扉が開いた。
「あ、イツキ?イツキよね!」
そう言ってウルラはイツキに飛びつき、腕と翼でイツキを抱きしめた。
「ただいま、お母さん」
ウルラの抱く力が強まった。
泣き声も聞こえた。
イツキは心苦しかった。
自由奔放に生きていくことがこんなに母親に負担をかけていたのかと後悔した。
「お母さん。もう一緒だから。だから泣かないで」
「……そうね。泣いていても仕方がないわね」
「そうだ、帰ってきてそうそうだけどおじいちゃん達にも帰ってきたことを知らせないと」
「……そうね。今日はイツキの誕生日だから何か用意してくれてるかもね」
そうして2人は祖父母のもとに飛んでいく。
祖父母の家でまず会ったのは祖父アーディンだった。
「おお?イツキ!イツキだろう!よく来たな」
アーディンにもやっぱり抱きつかれた。
「ようやく魔法陣の技術を習得できたので、帰ってこれました」
「そうか。そういえば今日は誕生日じゃないか?」
「はい、10歳になりました」
「10歳か。これはお祝いをしなければならないな」
そういうと調理場で何か作業を始めた。
その後、応対してくれたのは祖母アラウダだった。
「忙しないねぇ。イツキ、お帰りなさい。」
やっぱり、アラウダからも抱きつかれた。
ただし、他の二人みたいに力いっぱいではなく優しくだ。
「ただいま、おばあちゃん」
「人間と共同で研究してたっていうじゃないか。辛くなかったかい?」
「研究に行き詰った時は辛かったですが、それ以外は快適でしたよ。あ、おばあちゃんに会えないのも辛かったです」
イツキはそうおべっかを使った。
「そうかいそうかい。あの後ウルラったら、イツキはいつ帰ってくるんだっておじいさんに何度も聞きに来てねぇ。見てられなかったよ」
そう言う話を聞くと、心配をかけたことに責任を感じる。
その後も祖母と母の会話は続く。
「お母さん、それは言わないでよ。あんなに長くイツキが留守にするなんて思わなかったんだから」
「でも、無事に帰ってこられてよかったよ。なにやら人間の動きが不穏らしいからね」
「そうなんですか?」
初耳だった。
「何やら南の方で動いてるらしくてね。おかげで砂糖が手に入らないから餡子を食いっぱぐれる始末さ」
「また戦争になるんでしょうか?」
ウルラは心配した。
戦争になれば若い者は兵士として戦場に立つことになる。
イツキの父親ドーヴァが行く可能性もあるのだ。
「さてね。手を出しているのは海賊だって向こうは言ってるみたいだけど、前の戦争の時も戦争前はそんな感じの小競り合いから始まったもんさ。時間の問題さね。それよりイツキ、新しい魔法を覚えてきたんだろう。ちょっと見せてくれないかい?」
お願いされたので簡単な魔法陣を出す。
「はい、おばあちゃん。まずは小さな光の魔法陣です」
イツキは手のひらに小さな魔法陣を展開して明かりを作りだす。
「ほう、これが魔法陣かい」
「はい。本当は紙とかに書いて魔力を流して使うんです。こうやって使うのは小さな明かりを想像できなくても魔法陣は想像できるという魔法使いの使い方ですね。例として見せましたが、これは効率が悪くて使いものにならないものですね」
「そんなものを学ぶために何年も留守にしていたのかい?」
そんな物のために孫の可愛い姿が長く見られないなんてとアラウダは嘆く。
「ああ、魔法陣すべてが使い物にならないんじゃないんです。例えば飛ぶときに魔法陣を使って速度を上げることができます。帰ってくるときはロングムオラの街を早朝に発ち昼前にこちらに到着しましたから、かなりの速さだったんじゃないかと思います」
その効果にアラウダは驚いた。
「西端よりも西のロングムオラからその早さとは、恐れ入ったね。わしらも使える物なのかい?」
「魔法陣を想像して魔力で再現しなければいけませんからなかなか難しいかと思います。もちろん無理とは言いませんが」
「そうかい。気遣ってくれてありがとうね」
そうこうしていると、祖父の料理が完成した。
蒸しあがったそれは小麦の生地で何かを包んだもので、真中から上は渦を巻くようになっている。
横から見ると日本限定で大人気の某RPGの最初に出てくるスライム状の物体そっくりだ。
かぶりつくとなかから肉汁が飛び出してくる。
その脂味と細かくもシャキシャキとした何かの食感に大満足である。
「おじいちゃん、おいしかったです。中は何を入れていたんですか?」
「豚肉とたけのこ、キャベツに香りづけのニンニクだ。甘い方が良かったか?」
イツキとしては甘い方が好みだったが、ここは大人の対応をする。
「こっちの方がいいです。おかわり!」
「おうよ。ちょっと待っとけ」
こうしてお腹を満たしたイツキは晩くならないうちに母親とともに家に帰った。
自分の部屋でベットに座るとその小ささを感慨深く思う。
(これで寝るとしたら足宙ぶらりんになっちゃうかな?)
などと考えていた。
実際に寝てみると踵は出るものの特に問題なかった。
それから今後のことについて考えていた。
(エルフの魔法は極めた。魔法陣も極めた。次は何をしようか。天狗の魔法はどうだろうか。エルフと違うのか。もしくは魔法は置いておいて体力をつけることに重点を置くか。鬼の特訓とかすごそうだ。でもお母さんは置いていけないな。とりあえず杖を持って村の中をランニングから始めようか……ハイポートか)
ハイポートとは銃を持ったランニングである。
銃の重さはおよそ4キロ。
作ってもらった杖の重さは測定不能、おそらく銃よりも重い。
もはや訓練というよりレンジャー訓練と言った方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると玄関付近で言い争う声がした。
1人は母のウルラだ。
「でも村の人を置いていけないわ!」
「あいつらはお前を生贄にしようとするだけだ。今この村から出ていけば召集されることはない」
「でも代わりに誰かが戦争に行くのでしょう?あなたが死んだら私が耐えられないわ!」
「お前以外の誰にあの子を育てられるというんだ!」
(あ、名前忘れたけど父親だ)
ちなみに父親の名前はドーヴァである。
うるさくて眠れもしないのでイツキは仲裁に行くことにした。
「お父さん、どうしたの」
「イツキか。今魔王からの通達が届けられてな。飛行魔法に秀でたものを召集するというものだったから母さんを説得していたところだ。お前からもいってやってくれ。逃げようと!」
「でも、それじゃあこの村からは誰が行くことになるの?」
「エルフは魔法に秀でた種族。飛行魔法も全員多少は使える。さぁ、早く支度を!」
「そうですね。魔王国本土までになるので入念な旅支度をお勧めしますよ」
最後の声は女性の声で家の外から聞こえた。
イツキが外をのぞき見ると革の鎧を付け槍を持った4人の獣人(豚、狼、兎、猫)と1人の赤髪白衣の女の子がいた。
「村中がこの家が生贄になることを望んでおりましたよ。嫌われたものですねぇ。ただ混血というだけなのに」
「何者だ!」
「申し遅れました。私、魔王軍に籍を置いております、サトリ=ウォルンタース13世と申します。以後お見知りおきを」
魔王軍と聞いてドーヴァは膝を突いた。
「もう来たのか……すまない、ウルラ」
「いいえ、これも運命だったのよ。イツキをよろしくね」
そうやって別れを惜しむ2人にサトリが声をかける。
「湿っぽいところすいません、そのイツキさんも徴兵の対象です。必ず連れてくるようにとスンムス将軍から命令が下っております」
「なっ!」
「イツキもですって!?」
「はい。特別に令状もございます」
そう言ってサトリは2枚の令状を見せる。
1枚は飛行に優れたものを召集する魔王代理筆頭将軍ナーウィス=ロンガの令状。
もう1枚はイツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥスを召集するからドゥクス・ペッリー=スンムス将軍のもとへ出頭するようにとの令状。
イツキはドゥクス氏の令状を確認した。
これでイツキは少なくともドゥクス氏と再会せざるを得ないわけだ。
「翌朝参ります。お母さんはどうします?」
「さすがにロングムオラの街まで1日は難しいわ。何日かかるかしら」
「それなら船で一緒に行きましょう。それに目的地はロングムオラではなくネブラの港になりますので迷われても困りますからね」
サトリはウルラに船旅を提案した。
(ネブラの港……行ったことがないな)
「……ネブラの港とはいったいどこなんでしょうか?」
「ロングムオラのある島の南にある港です。奥行きのある穏やかな内海を持つ南海貿易の拠点です」
(具体的な位置は閣下に訊けばいいか)
「では、準備がありますのでお引き取りいただければと思います」
「明日の夜明け、太陽が完全に上ったぐらいで迎えに来ます。それまでに別れはすませてくださいね」
そういってサトリは戻っていった。
家の入口ではドーヴァが泣き崩れていた。
無力感で打ちひしがれているのだろう。
ウルラはドーヴァを何とか立たせるとオプシトゥス本家の屋敷に連れて行った。
イツキが準備するものはそれこそ杖くらいなものだ。
それ以外はドゥクス邸に置かれているものを持っていく予定だ。
一方でウルラは背中に翼があるため、服は祖父アーディンのお手製だ。
ウルラはそれを残さず麻袋の中に入れていく。
そのうち家の中にある布類をすべて入れていく
さらには食器や調理道具、薬や工具と家具以外すべて持っていくのではないかと思うくらいに袋に詰めていく。
麻袋は5つほどになっていた。
「お母さん、そんなに持っていかなくてもいいんじゃないの?向こうで用意してくれると思うよ」
「そんなことわからないじゃない。それにここに戻れないかもしれないじゃない。何か残すと次の人に迷惑でしょう?」
「それはそうかもしれないけど……その袋2つは持てるかもしれないけどその数は無理だよ」
「大丈夫よ。兵士さんに持ってもらえばいいんだから」
(わたしの母ながらいい性格をしている)
そうした用意は夜半まで続いた。
翌朝、夜明けとともに祖父母に挨拶に行く。
「いいかい!高さを落とすんじゃないよ!人間の矢が飛んでくるからね!」
そんな祖母アラウダの戦訓を聞くことウルラは聞くこととなった。
一方、イツキは祖父アーディンにネブラの港について訊いていた。
「確かにノウェム島の中だが、並みの魔法使いじゃ2、3日かかるぞ」
「そうですか。定期船とか出てるんですか?」
「そこまで詳しくないが、ネブラの港は行ったことがある。おれもついていこう」
「よろしくお願いします」
「なに、港だけあって魚がうまいからな。そのついでと思えばいい」
祖父母の家でイツキとウルラは別れることとなった。
イツキは空路で、ウルラは船でネブラを目指すこととなった。
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