12歳 離間工作
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では61話目お楽しみください。
ガンジス川の流れは長く、そして永く人々の繁栄に貢献してきた。
人々はその水を使い、生活し、田畑を潤し、繁栄してきた。
なぜこんなことを言っているのかといえば、捕獲した奴隷が多すぎたのだ。
「いっぱいいたわね。捕まえ甲斐があったわ」
「そうですね。陸軍の人もびっくりしてましたもんね」
アウィスとウェスはそう言う。
ダッカの周辺だけでも1万人の奴隷を集めた。
そのうち1500名ほどは、エーヤワディー川付近の農作業に使ってもらおうとチャイティーヨー山に送り出した。
これで陸軍は1人当たり8~9人の奴隷を監視しなければならなくなった。
第1戦闘攻撃団も監視に参加しているのだが、このまま奴隷を増やしても監視しきれないというのが実情だった。
(このままでは領土拡張など夢でしかない)
ということで盛りに盛って陸軍に10万人規模の兵力増強を依頼した。
また、ガンジス川の上流にも拠点を作ることをお願いした。
陸路で来るのは大変だろうとダッカに港を建設し、海軍の船が直接入ってこられるようにした。
(陸路はきつかったから、船で来られるならその方がいいだろう)
それから、情報収集にも努めていった。
奴隷からこの地の統治状況を訊くのだ。
「アモルさん、よろしくお願いします」
「うん、任された」
アモルの誘惑、暗示といった魔法を使って奴隷から訊き出した。
この辺りはハイデラバード王国なる国が支配している地域だったらしい。
そして税は7公3民、兵役もある。
反逆者を出したらその村を滅ぼしただの、かなり厳しく支配しているらしい。
(民は生かさず殺さずとは誰の言葉だっただろうか?国王と民衆の間に楔は打てそうだな)
侵略者が近くにいるのに厳しい統治はおざなりな対応だ。
そこで離間工作として5公5民、兵役なしの条件で魔王国に従属しないかということを各地の村で大声で言って回った。
担当したのは翼などの生えていない人間にも親しみが持てる外見のイツキとウェス。
「魔王国と友達になりませんかー?」
「今なら税が5公5民、兵役なしの好条件ですよー!」
さらに、米や小麦、パンといった食料品を配って回り、魔王国は怖くないですよというアピールをした。
「はい、おばあちゃん。生活は苦しいかもしれないけど頑張ってね」
「ありがとうよ」
そんな工作を続けているとハイデラバード王国は激怒し、配った食料品をすべて没収。
更に悪魔のいうことに耳を貸すなという声明まで発表した。
それでも挫けず、離間工作をやっていると、魔王国と友好的になる人々も出てきた。
表向きはハイデラバード王国に従っているものの、魔王国とも友好的な関係を結びたいという人が出てきたのだ。
そうした人がハイデラバード王国に害されるかもしれない。
そんな危機感を持ったイツキはナベリウスに状況報告を書いて空中輸送師団のメンバーに書簡を渡し、警戒管制隊の小隊を送ってもらうように依頼した。
空軍の反応は早かった。
その2日後には警戒管制隊の小隊が到着したのだ。
「イツキちゃん、久しぶり!」
母ウルラの小隊だった。
「今はこんないい所に住んでるのね」
「今使われていない部屋も多いですので、使っている人がいなければ自由にしてもらっていいですよ」
「ありがとう、イツキちゃん」
ということで母との面会だった。
小隊は6名、2名の分隊を3交代で監視任務にあたってもらった。
年が明けてから海路で陸軍の兵士が送られてきた。
最初に来たのは戦艦レヴィアタン。
懐かしい姿にイツキは涙しそうになった。
運んできてくれたのは陸軍600名ほど。
ヴェパル提督がやっぱり船を指揮していたので話を聞くと、陸軍は増員要求には賛成したようで、これからピストン輸送だそうだ。ジャカルタに兵を集結させているそうで、往復40日かかるそうだ。
もちろん他の船も使ってくれているので、8日ごとに600名が運ばれてくるのだとか。
ということで、兵士を下ろしたらすぐに出港してしまった。
補給は空中輸送師団に任せて海上で補給するんだとか。
大変だなあと思っていたらもっと大変なことが起こった。
それは3月の終わり、冬蒔き米が収穫できて食料庫もいっぱいになった時だ。
イツキはウルラからの通信を受けた。
「どうかしましたか、おかあさん」
「今、ハイデラバードの兵隊さんが徴税に回ってるんだけど、どうにもおかしな動きをしてね」
「おかしな動きですか?」
「1つの村に留まってるの。おかしいと思わない?」
確かに徴税に回っていて1か所に留まるということは考えにくい。
「どこの村ですか?」
「カルカッタ村よ」
そこは離間工作で魔王国に友好的だった村だった。
イツキは第1攻撃戦闘団を結集、カルカッタ村へ急行した。
村では、無理やり徴税が行われていた。
米の入った袋を奪う金属鎧の兵士と蹴り飛ばされる村人。
どう考えても普通の事態ではなかった。
そこでイツキは倒れている村長さんを見つけた。
「村長さん!大丈夫ですか?一体どうしてこんなことに?」
「わしらは魔王国とともに生きる。ハイデラバードへくれてやる米は一粒たりともないと言ったらこのざまじゃ。村人を助けてやってくれ」
そう言うと村長さんは気を失った。
呼吸をしていることから、幸い命に別条はなさそうだ。
イツキは無理やり米袋を奪っている兵士の元に行く。
「指揮官は誰だ?」
「ああ、ガキが!邪魔するんじゃねえよ!」
そう言って蹴ってきたので、足首を掴む。
「もう一度聞く、指揮官は誰だ?」
その言葉と同時に足首をねじると兵士は空中で1回転して地面にたたきつけられた。
「げふぉあ!」
兵士は倒れ込んでうめき声を上げる。
答えてくれないので、うつ伏せにして腕を後ろで折りたたむ。
ハンマーロックという関節技だ。
「がああああああああ」
その悲鳴を聞き、兵士が集まってくる。
「何の騒ぎだ!」
そう問われたので、関節技を止めて立ち正対する。
「指揮官は誰だ?」
「俺だ」
何と2人目で当たりだ。
「この村から徴税を指示したのはお前か?」
「当然だ。俺は国王から徴税権を貰っているからな」
「それにしては無理やりすぎないかな?」
「おとなしく税を渡さないからだ。当然のこと」
「おとなしく帰るという選択肢は?」
「笑止千万!徴税するために来て空荷で帰る奴がいるものか!」
イツキは穏便に済ますのを止めた。
どうあっても兵士たちは徴税するのだろう。
「覚えておくといい。魔族は仲間を見捨てない。魔族の友となった者たちも同じです!死んであの世で悔い改めなさい!」
その言葉と同時に杖を振るうと、指揮官が炎の渦に包まれる。
渦が消えると溶けた金属と骨しか残っていなかった。
「こうなりたい人間は反抗するといい。同じく、骨しか残らない様にしてあげましょう」
そう言って前に1歩出ると兵士たちは1歩下がる。
もう1歩出ると今度は2歩下がった。
更に前に出ると兵士たちは逃げだした。
その後は第1戦闘攻撃団で怪我人の手当てを行った。
この村の行く末を皆案じているようだった。
村長さんもそのうち気が付いた。
「いったいどうなりました?」
「指揮官を倒したらみんな逃げて行きましたよ」
「そうですか。これで王国に弓を引くものになってしまいましたな」
「その替わりに魔王国の庇護があります。兵を置かせていただきたいのですが、何人ぐらいおけるでしょうか?」
「命の恩人の頼みじゃ。1,000人でも2,000人でも受け入れさせていただきます」
ということだったので、当面は戦闘攻撃隊をローテーションで駐屯させ、ダッカ城から2,000人の兵員移動とカルカッタに築城することを陸軍に進言した。
すると暇だったのかハルファス将軍がすぐにきて築城してくれた。
四角い城で4方に門があり、2,000名を収容できる。
1週間後にはカルカッタに2,000名が到着。
戦争の足音は着実に近づいていた。
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