10歳 魔王陛下との昼食会
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では41話目お楽しみください。
メイドさんに案内された食堂は豪華だった。
でっかい赤い絨毯に壁には絵画が数点。
長く延びた机は片側に10名ほど座れるのではと思えるくらい長い。
そんな机の真ん中に席が2つ向かい合っている。
つまり魔王と1対1で話すということだ。
(どんな人だろうな。変なことを言って粛正するとか言われないといいけど……)
そんなイツキの懸念を知ってか知らずか魔王が到着した。
白いズボンに白い上着、上着の裏地は赤、Yシャツに赤いスカーフが巻かれていた。
顔は金髪の西洋人顔だが、特徴的なのは背中にある6対12枚の黒い翼だ。
「やあ、待たせてすまなかった」
「いえ、わたしも今来たところですので……」
「そうか。では、座ってくれ。昼食としよう」
そう言って魔王が座ったのを見てイツキも座る。
「まずは自己紹介からか。俺の名前はサタン・ルシファー・イブリース・ロキ=プルガトリウム。以前は小野寺雅という名前だった。君は?」
いきなり前世の名前が出てきた。
良い人そうだ。
「イツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥスです。以前は東郷樹という名前でした」
「やはり前世の記憶持ちだったか。俺は高校でいじめにあって自殺しようとしたところを死神に助けられたんだが、お前はどうだ?」
(死神さんは手広いな)
「わたしも似たようなものです。いじめではありませんでしたが、戦闘機のパイロットになれそうもなかったので自殺をしに富士の樹海へいき、そこで死神に転生させてもらいました」
「確かに自殺前に死神に出会うというところは似ているな。それで、どんな能力をもらったんだ?俺は知りたいことがわかる能力と魔力増強だったんだが」
(知りたいことが分かるってのもすごいことだな。かなり重い使命を課せられたんじゃないかな?)
「わたしは飛行魔法とその他魔法の適正、経験値上昇です」
「なるほどな、経験値上昇は聞いてからうらやましくなってくるな。それで、どんな目標を設定されたんだ?俺はこの大陸を緑豊かな大地とすることだったんだが」
「欲をかきすぎて、世界征服をすることになりました」
それを言うと魔王はかわいそうな者でも見るようにイツキを見た。
「それは気の毒なことだ」
そこで少し話が途切れたのでヴェパル提督の懸念を話してみる。
「ところで陛下、こちらに来られたのはいつなのですか?以前から部下だったものが陛下の変貌ぶりに困惑しておりますよ」
「こっちに来たのは10年前のことになる。しかし、それはまずいな」
「以前の魔王はどうなさっているのですか?」
「俺の中にいる。ちょっと変わってやろうか」
そう言うと、魔王の雰囲気が変わる。
目がつりあがって怖い感じになる。
「それで、困惑した部下というのは誰なのだ?」
「ヴェパル提督になります」
「ああ、人魚のヴェパルか。元気そうだったな。この大陸を支配する前に海戦をやった際、船に穴をあけて沈没させていたのがヴェパルだ。想像もつくまい」
今ではにこにこ朗らかなヴェパル提督がそんなことをしていたなんて想像がつかない。
「そんな過去があったとは知りませんでした。まるで一兵卒ですね」
「俺の統治時代は人を殺さねば階級を上げなかったからな。絶好の機会と張り切ったに違いない」
「何かお伝えすることはございますか?」
「我はいるから心配するなと言っておけ」
「かしこまりました。」
そう言うと、また魔王の雰囲気が変わる。
今度は温和になる。
「あまり表に出ないから出た時は抑えるのに困るな。それで、イツキは空軍に入りに来たということでいいのか?」
「はい。前世で叶えられなかった夢を叶えたいと思っています」
「できれば手元に置いておきたいが、夢を盾に取られると弱いところだな。俺の妻になるつもりはないか?」
ロンガ将軍との話に出てきた展開になってきた。
「元が男なので男と結ばれるつもりはありません。しかし、養子として娘となるのでよろしければ否はありません。次期魔王ということになればやる気も起きます。なにしろ目標は世界征服ですからね」
「そうか。階級を上げれば姫将軍……なんだかエロい感じがするな」
ちょっと目つきがエロい気がする。
「妄想がたくましいのは別にいいですが、変な眼で見られても困ります」
「それもそうだな。その点に関しては了解した。養子とすることと王位継承権第1位とすることとしよう」
(ありがたいことだが、他に継承権を持つ人がいて権力闘争になったりしないものだろうか?)
「閣下は妻やお子様は居られないのですか?」
「前の魔王の時に人間の奴隷に産ませた子が何人かいるが、継承権は取り上げる」
(何をしているかわからないが、突然継承権を取り上げられるなんてかわいそうに……)
「ところで、これから飛行隊は海軍航空隊として訓練した後、空軍省として独立させる予定だ。お前の他にも3人功績をたてたものがいるが、4人は大尉となり他の者は少尉となる予定だ。そこに何か希望はあるか?」
「質問に質問で返して申し訳ないのですが、陛下は空軍をどのように使うつもりですか?」
「基本的にはスクランブル対応だ。劣勢のところに速やかに赴き、敵を倒して帰投する。そんなイメージだが?」
戦争をしたことのない日本人らしい意見であるだが、イツキの目標にはそぐわない。
「閣下は目標がこの地を緑豊かにするという目標だからそれでもいいかもしれませんが、わたしの目標は世界征服なのですよ。もっと積極的にいかないといけません」
積極的と言っても、今の魔王は前魔王のように前線に立って軍を進めるということはできなかった。
「ではどうするのだ?」
「人間が空軍を組織するまでは空軍は地上攻撃を主な任務とします。知識チートなのですから火薬や爆弾、車もお作りでしょう?」
イツキは知識チートを持ったらどうするかということを勘で予測した。
「確かに作ってはいるが……」
予想は的中した。後は現代戦術に合わせていくだけだ。
「爆弾は魔法の袋に入れて投下して攻撃します。そうして敵の地上部隊がいなくなった後に車を使って高速で進軍するのです。現状、インドシナ半島まで人間に侵攻されているのですから、それを押し返します。ガンジス河の辺りはチベット山脈と海に挟まれた地上のチョークポイントです。まずここを取りましょう」
そう力説すると魔王はうんざりした。
「そういう作戦の話はいい。欲しい物や用意する物があれば言ってくれ。」
「では、雷管付きの爆弾とそれを入れる魔法の袋、陸軍用に兵員輸送車両とそれを乗せられる揚陸艇をお願いします」
「簡単に言ってくれる。わかった、用意させよう」
「ありがとうございます」
イツキは深々とお辞儀をした。
「何か将軍と話しているようだったぞ。前世はどのような人間だったのだ?」
「防衛大学校に1年在籍しておりました」
「なるほど、軍人の卵だったわけだ。」
魔王は納得した。
「そういえば、魔王様に聞きたいことがありました」
「なんだ、申してみよ」
「テレビの音楽番組でラテン語の曲ばかり作っているのはなぜですか?」
「かっこよくないか、ラテン語って?キリエエレイソンとかな」
あまり感覚がわからなくてイツキは首をかしげる。
「わかりませんが、どんな意味なんですか?」
「主よ憐れみ給えって意味だ。魔王がそんな曲を作っていると知れたら大問題だな」
「でも同じ宗教を信仰していると融和の策にもなるかもしれませんよ」
「同じ宗教と言っても悪魔を頂点にはできないだろう?」
「堕天する前は天使だったんだから大丈夫ですよ」
そんな話をしながら昼食会は終了した。
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