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10歳 勲章授与式

評価とブックマークありがとうございます。

これを励みに頑張っていきたいと思います。

他の方も評価、ブックマーク、感想、レビュー、活動報告へのコメントなどいただければ幸いです。

では40話目お楽しみください。

 到着した玉座の間は高くそして広い。

 赤い絨毯は幅20メートルくらいあるだろうか。

 そこに立てるのは主賓と魔王様、宰相だけのようだ。

 赤い絨毯の外側、片側には将軍たちが、もう片側には官僚たちが列をなす。

 その絨毯を3分の2ほど進み、少し高い位置にある玉座のすぐ近くまで進んだ。

 そこで提督は人魚なので両膝をついた感じになるのだが、艦長さんに倣って左ひざをつき頭を上げる。


「魔王陛下が入られます。」


 その言葉に将軍たちも官僚たちも玉座に対して礼をし、それを維持する。

 そして魔王が一人男を連れて入ってくる。

 魔王は玉座に座り、男はその左側に立った。


「面を上げよ」


 その言葉に将軍たちも官僚たちも顔を上げる。

 提督はそのままだ。


「これより先の海賊討伐における戦功が大であった者に対する勲章の授与式を始める。ヴェパル=リートゥス海軍中将!」

「はい!」


(呼ばれたら短く返事をするのか)


 提督は5段ほどの階段の上にある玉座の前まで行くと魔王様に一礼、男の人に一礼し1歩引いた。


「魔王国王はヴェパル=リートゥス海軍中将に旭日大綬章を授与する。魔王城においてみずから名を署し

璽をおさせる。新魔王暦10年11月3日。魔王国宰相サピエンス=カンケラリウス」


 男の人は宰相のようだ。

 宰相が賞状を差し出すと提督は受け取った。

 ちょうど魔王様の前で受け取る格好だ。

 そして提督が首を差し出すと勲章がかけられる。

 ロンガ将軍が拍手を始めると、玉座の間は大きな拍手に包まれた。

 そして、提督が戻って膝(?)をつくとシーンとなった。


「ナウタ=テュンヌス海軍大佐」

「はい!」


 艦長も玉座の前まで行くと魔王様に一礼、宰相に一礼して一歩右に寄る。


「魔王国王はナウタ=テュンヌス海軍大佐に旭日重光章を授与する。魔王城において璽をおさせる。新魔王暦10年11月3日。魔王国宰相サピエンス=カンケラリウス」


 宰相が賞状を差し出すと艦長は受け取った。

 またもやちょうど魔王様の前で受け取る格好だ。

 そして艦長が首を差し出すと勲章がかけられ、拍手が始まる。

 艦長が戻って膝をつくとシーンとなった。


(そういうパターンなのだろうな)


 同じことはアモルの時も行われた。

 アモルはがちがちに緊張していたが……。

 やがてイツキの番になる


「イツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥス海軍少尉候補生」

「はい!」


 杖を持ち、落ち着いて玉座への階段を上る。

 魔王様はこちらの格好に気付いたのかちょっと驚いている。

 魔王様の前に来て一礼、宰相に向かって一礼する。


「魔王国王はイツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥス海軍少尉候補生に旭日重光章を授与する。魔王城において璽をおさせる。新魔王暦10年11月3日。魔王国宰相サピエンス=カンケラリウス」


 杖を小脇に抱えて賞状を受け取る。

 首を差し出すと勲章がかけられる。

 勲章は真ん中が赤、そこから金と白の放射模様で太陽を表しているのだが、妙に刺々しい。

 イツキも列に戻って片膝をつく。

 そこで、魔王様は宰相に小さく声をかけた。


「本日は特別に陛下よりお言葉がある。」


 さらに魔王様は声をかける。


「イツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥス海軍少尉候補生、その杖と服装について閣下が詳細を知りたいとのことだ。直答を許す。答えよ!」

「この杖は私が5歳の時に祖父よりいただいたものです。素材や形状はわたしが決めました。服装についてはドゥクス・ペッリー=スンムス将軍の家で作っていただいたものになります。意匠についてはわたしが決めました」


 魔王はさらに質問があるようで宰相に話をする。


「タカマチ・ナノハとフェイト・テスタロッサという名に聞き覚えはあるか?」

「高町なのははわたしの目標としている魔法使いの名前です。フェイト・テスタロッサはその友人です」


 魔王はさらに宰相に何か言っている。


「イツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥス海軍少尉候補生は昼食会へ参加すること。以上である」


 そう言って魔王と宰相は出て行ってしまった。

 玉座の間の中は安堵感が漂うが、主賓たちは違っていた。


「イツキ!あなた何かやったんでしょ!」

「心外なですね。私がデザインした杖と服が珍しかっただけでしょう」

「それだけで呼ばれるとも思えませんが……」


 アウィスの問いに答えるイツキだが、提督からも疑問視されていた。


「そんなところでいつまでも話をするな。とりあえず俺の執務室へ行こう」


 ロンガ将軍からの提案で、ひとまず執務室に戻ることになった。

 執務室の応接スペースに7人で座ると質問が始まった。


「それで、呼ばれた理由はあの質問にあると思うが、思いつくことはあるか?」


 イツキは困った表情をする。


「思いつくことはありすぎて困ってしまいますね」

「ありすぎるというのは?」


 更にロンガ将軍は踏み込む。

 イツキは依然航海中に話したことを思い出した。


「以前、ヴェパル提督は魔王様がやさしくなったというような話をされていましたね」

「はい。確かにそんな話を旅の途中にしたと記憶しています」

「そこで、一つの仮定が生まれます。魔王様は別の人格ができたのではないかと」


 座っている全員が驚く。


「まさかそんな!では、元の魔王様はいったいどちらへ?」


 ヴェパル提督は少々取り乱した。


「消えたか、今の魔王とともにあるのか、はっきりとしたことは言えません。そこも聞いてこようかと」


 ロンガ将軍は話を戻そうとする。


「それで、魔王様が別人格になった話と呼ばれた理由の間にはどんな整合性があるのだ?」

「今の魔王様の人格は別の世界から来たものと考えられます。私の人格と同じ世界から」


 この話にも座っている全員が驚く。


「なんと。自分が別世界から来た人だというのか?」

「別世界の記憶もありますし、間違いないかと。あと、質問された高町なのはとフェイト・テスタロッサはわたしの世界にある物語の登場人物です。それを知っているということは同じ世界から来た可能性が高いということが言えると思います」

「にわかには信じられん。だが、どうする?」


 イツキには質問の意図がわからなかった。


「どうするとは?」

「異世界で同郷の人間を見かけたのだ。手元に置きたくなるのが心情だろう。ことによれば妃になれとでも言い出すかも知れんぞ」


 妻になるなんて元男のイツキには考えつかない……というより嫌悪感が強かった。


「そんなことを言われても困ってしまいますね。ただ、わたしの夢からすればそれもまた1つの道なのかもしれませんね」

「夢とは?」

「世界征服です」


 あまりの大言壮語にロンガ将軍は吹き出した。


「わっはっは、それはまた大層な夢だな。では、妃より継承権第1位の姫にしてもらえばいいだろう。魔王様が逝去なされた後はお前の天下だ」


 確かに自分が頑張って領土拡大した後、王として君臨することになると世界征服になるだろう。


「そうですね。いい案をありがとうございます」

「なに、礼には及ばない。こちらも面白い話を聞けたからな」


 そう言ってロンガ将軍は深く腰をかけた。

 次はアウィス達に質問される。


「あんまり別の世界から来たって言われても信じられないけど、イツキの魔法がすごいのは、元の世界でもそうだったからなの?」


 アウィスが訊いてくる。


「魔法についてはこの世界に来てからの技術だよ。お手本として物語の登場人物がいたのは運が良かったけどね」


「イツキさんの世界では、亜人はどんな処遇だったのですか?」


 ウェスが訊いてくる


「実は、わたしの世界には亜人はいないんだ。人間ばっかり。かく言う私も人間だったんだ」


「それなのに海賊討伐では人間の海賊を殺しつくしていたではないか。同族殺しとは思わなかったのか?」


 アモルさんも訊いてくる。


「悪人は遅かれ早かれ裁かれないといけませんし、それに同族という感覚が薄いんですよね。なんか害虫を駆除するような感覚でやってました」


 そんな話をしていると、1人のメイドさんがやってきた。


「イツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥス海軍少尉候補生はこちらにおられますか?」


 席を立ち手を上げる


「わたしがイツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥス海軍少尉候補生です」

「昼食の準備が整いましたので、案内させていただきます。」

「ということらしいから、ちょっと行ってくるね」


 そうアウィス達に言ってメイドさんに着いていく。


(さて、何が飛び出すやら)


 イツキは魔王との面会を楽しみにしていた。


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