10歳 テレビとラジオ
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では36話目お楽しみください。
イツキは鉄道が動く前に利用規約に目を通していた。
利用規約には当たり前のことが書いてあった。
利用するには切符が必要だとか(イツキ達は持っていないが)汚しちゃだめだとか。
特筆すべきなのは、水と炭酸水は室内でも飲んでいいこと(サービスで頼んだら持ってきてくれるらしい)、11号車に食堂車があって1等室の人間に優先権があること、シャワーが12号車にあるが使うにはシャワー券を購入する必要があること。
そんなところだろうか。
ウェスの持っていたパンフレットには、まず大陸横断鉄道を作った魔王様の偉大さから書いてあった。
興味深い点が2点あって1つ目は、魔王が魔力を回転エネルギーに変えることを発明したということである。
イツキは魔力を間接的に回転エネルギーにする方法は思いついていた。
水車に水を垂らせば回転するだろうし、風車に風を当てれば回転するだろう。
ただ、魔力を流しただけで回転する力が出ることにイツキは驚いていた。
2つ目は沿線を積極的に緑化したということである。
イツキの記憶が確かならば、オーストラリア大陸の中央部から西側は砂漠と塩湖がおおかったはずだ。
そんなところを緑化したのだから、すさまじい執念と言わざるを得ない。
実際は駅の前にも田園が広がるという日本の農村風景を作りたかっただけかもしれないが、それは本人に聞いてみないとわからないことだ。
そして、ページの最後のほうにはパースからシドニーかメルボルン行のパンフレットだったのだろう、観光地案内が載っていた。
読み終わる頃になると遠くからカランカランという鐘の音がして鉄道が出発した。
「うーん、何か本でも買ってくるんでしたね」
あまりに暇すぎる上にカタンカタンという規則的なレールと車輪の鳴らす音に眠気がする。
「食堂に新聞が置いてあるかもしれませんよ」
確かにウェスの言う通りだ。
公共スペースに新聞が置いてあるかもしれない。
とりあえず食堂に行ってみることにした。
11号車に行くまでには複数の3等車を通ることになる。
これも片側通路式でドアはなくカーテンで仕切られていた。
それを見るだけで自分たちがいかに恵まれているか分かるものだ。
食堂車には新聞が置いてあった。
来たついでにコーヒーを頼む。
すぐ出てきたことを考えるとこのコーヒーは作り置きか十分に蒸らしていない。
その時点で不合格だった。
とりあえず泥水を飲みながら新聞に目を通す。
1番大きな記事は戦艦レヴィアタンがパースに入港する予定というもの。
海軍のエースが見られるかもということで大きく伝えられていた。
次に大きなものは誘拐についての問題だった。
政府が北部での子供の誘拐についてコメントを出したという記事で、うわさについて肯定し、背後に海賊の影も見えるとしている。
これに対応して、レヴィアタン以外の戦艦を当該海域に配置することにし、ダーウィンを行動拠点とすることを決定していた。
続いて経済欄で今後の魔王国の成長戦略が載っていた。
魔王としては、工業化を図りつつも砂漠の緑化等農業分野の促進を目標としていた。
(まあ、魔力さえあれば土地を浮かして丸洗いなんかもできるからね)
また、軍需についても言及し、毎年1隻は大型船を、数隻は小型船を購入したいとしていた。
ついでに、天気予報は天気予定になっていた。
(天候操作使える人がいるからね、仕方がないよね)
ちなみに、この鉄道の走っている範囲は雨が降らないようにしてくれるらしい。
ありがたい話である。
そうこうするうちに田園地帯へとはいって行った。
田んぼではないが、小麦畑が広がる美しい光景だ。
ちょうど刈り取るか刈り取らないかという季節のようで、まちまちである。
農業関係でいえば、こんなことが新聞に書いてあった。
小麦に変えて水田で稲作を行う方針としたいということである。
水の少ないこの地では難しいかもしれないが、雨をコントロールできるのだ。
案外、水田が広がるかもしれないとイツキは思った。
田園風景を見た後、新聞を見ると驚くべきことがあった。
イツキはいてもたってもいられなくなり、ヴェパル提督の部屋に掛け込むのだった。
「どなたかな?」
展望室の扉をノックすると男の人が出てきた。
「イツキです。イツキ・ロクス・ウリギノスス・エト・ウィルグルティス=オプシトゥス」
「『杖持ち』さんね。入ってもらってください」
奥から提督の声がして中に入れた。
「今日の下船と乗車はありがとうございました。それで、どういった要件ですか?」
「この部屋にテレビとラジオがあると聞いたので見に来ました」
新聞にはテレビ欄とラジオ欄があったのだ。
「ああ、棚の上ですよ」
そう言って提督が指した方向をみると、防水性がありそうなラジオ(?)と薄型のモニターがあった。
提督がテレビの電源ボタンを押すと、ニュース番組をやっていた。
「これって魔法具なんですか?魔法使いが個人で受信することも可能ですか?」
「可能ですよ。やってみます?」
「やってみます!」
そうしてテレビ受信のための修行が始まった。
まずはラジオからだ。
「600キロヘルツの伝送波を感じ取るんです」
ということなので、自分がアンテナになったつもりで電波を探す。
途中でテルミンのような音がしたと思ったら声が聞こえてきた。
やっぱりなんかのニュース番組だった。
次はテレビに挑戦だ。
「テレビは映像の波と音声の波と2つありますから。がんばってください」
ということなので、改めてアンテナになった気分で電波を探す。
ザザッという音とともに映像が現れた。
1つはこれでキープ。
もうひとつの波を探す。
するとやっぱりテルミンのような音がしたと思ったら声が聞こえてきた。
二つ重ねるとテレビの受信完了だ。
壁も投影しても問題はなさそうだった。
「ありがとうございます。提督」
「また何かあったら遠慮なく来てくださいね」
「はい」
そうして展望室を出たイツキは部屋に戻った。
「やけに遅かったじゃない。心配したのよ。またコーヒーでも飲んでたの?」
「ここのコーヒーは駄目だね。紅茶にするよ」
アウィスはまだコーヒーを飲んでいるのかと呆れた顔をした。
「あと新聞もあったから読んできたよ」
「何か面白い記事はあった?」
「アウィスが好きそうなものはなかったよ」
アウィスは堅苦しいことは苦手なので、以前あった上司にしたい人ランキングの3位に提督が鳴ったことを伝えた時は楽しそうにしていた。
(あえて誘拐の話をする必要もないかな)
「そう。でも、なんでこんなに時間がかかったのよ?」
「ちょっと提督のところに寄っていてね。でも収穫はあったよ」
「何か新しい魔法でも教えてもらってきたの?」
だんだんとイツキの行動パターンが読めてきているアウィスである。
「テレビの魔法とラジオの魔法です」
「テレビ?ラジオ?」
「見てもらった方が早いでしょうね」
ということで、テレビを壁に投影する。
ちょうどニュースの時間なのかスーツ姿の男性キャスターが一人机に座っていた。
「11時になりました。今日これまでに入っているニュースをご紹介しましょう。」
そういうとキャスターの横に3項目ニュースが紹介される。
〈レヴィアタン、パース入港〉
〈北部の誘拐解決へ 警察海軍総動員〉
〈インドシナ半島 戦闘激化〉
「北東アジアまで航海していた戦艦レヴィアタンがパースに入港しました。埠頭は歓迎のために多くの人で埋め尽くされていました。司令官のヴェパル中将ら勲章受章者は甲板から降りると列車に乗り込みました。列車は臨時ダイヤで運行される予定で、魔王城への到着は11月8日の予定となっています」
そのニュースの際ヴェパル提督の映像が流れた。
端にチラッとだけアモルさんとアウィスが見えた。
「いま私映ってなかった?」
「映ってたよ。ちょっとだけだけどね」
「すごくない?」
「すごさでいえばもっと大きく映ってたアモルさんの方が上だけどね」
「むー」
そんなやり取りをすると昼食の用意ができたことを車掌から告げられて食べに行った。
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