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10歳 ポートヘッドランド観光

評価とブックマークありがとうございます。

これを励みに頑張っていきたいと思います。

他の方も評価、ブックマーク、感想、レビュー、活動報告へのコメントなどいただければ幸いです。

では34話目お楽しみください。


 ディリを出港して7日後、船はついに魔王国本土ポートヘッドランドへと到達することになった。

 午前中に着いたので、上陸許可は1日だけだ。

 それでも事前に兵士たちから情報を得ていたイツキの母ウルラとアモルは迷わず高級な宿を確保した。

 埠頭には相変わらず大人数の記者と思われる方がいた。


(相変わらず仕事熱心だね)


 一方で変わったのは、埠頭に集まった人に向けて兵士さんが手を振ることが見られたことだ。

 話を聞くと、家族が顔を見せに来てくれたとのこと。

 確かに集まった人の中には魔王国の旗を振っている人も少なくない。

 心配しなくても1ヶ月後には帰るのにと言っていたが、1か月って長いとイツキは思った。

 そんな人混みを上から見下ろしながらホテルの前でウルラ達と合流した。

 ホテルは赤い屋根に赤いレンガ造りのところ。

 兵士さんによれば、ここポートヘッドランドは鉄の町。

 周囲の山から鉄鉱石を取ってくるものだから、赤さび色の町になったそうだ。

 ここで採られた鉄鉱石は南に運ばれるとのこと。

 イツキたちと一緒である。

 そんなところなので、屋台街などはなく、大型のショッピングセンターがあるくらいだった。

 そこで何か買うのはなんだか趣がないので、港近くのカフェ&レストランに行くことになった。

 イツキが頼んだのはホットドックとフィッシュアンドチップス、あとサラダだ。

 どれもまあまあ、という感じで昼食を終えた。

 その後、熱中したのはホテル近くにあったパターゴルフだ。

 ボールにディンプルはないのだが、木の球をパターで打って穴に入れる競技。

 イツキがクラブを持ち手の端を持ち、垂直にして傾斜を確認すると、皆がそれを真似する様になった。

 また、イツキが地面に寝そべって芝を読むと、それも真似された。

 Cの字になっているコースを無理やりショートカットする者もいた。

 そんな中で1位になったのはウルラだった。

 目がいいので芝が読みやすかったのかは知らないが、吸い込まれるようにカップにボールが入っていっていた。

 2位はアモルで3位はイツキ、4位は同率でアウィスとウェスだった。

 時間が余ったので一応ショッピングセンターも見に行く。

 中は大きな倉庫を思わせる広さで、高い棚には所狭しと商品が並んでいた。

 そんな中で、イツキが欲しいものを見つけた。

 飲んだことのないブランドのコーヒー豆だった。

 それを1キロずつ確保し、他のものも見ていく。

 しかし、他には見る物もなく、ホテルに戻った。

 ホテルは上から見ると三角形になっており、中庭にパラソルとテーブル、椅子が置いてあった。

 どうせだからお茶でも飲もうと5人でお茶にする。


「やっと魔王国本土に到着したけど、各自感想を一言」


 ウルラの問いに各自が答える。


「長かったなってだけかな?あと、みんなや提督と会えてよかった」


 イツキがそう答えると、ウルラはつまらなそうだ。


「じゃあ、前の人が答えたことは禁止ね」


 ウルラの無茶ぶりが始まった。


「えーと、魔方陣が使えるようになってよかった」


 これはアウィス。


「えっと、ディリの町で服を買ってもらった時がうれしかったです」


 これはウェス。


「魔法の研究することもできたし、おいしい物もいっぱい食べられた。あとは、訓練が軽いことを願うだけかな?」

「だめですよちゃんと訓練しないと!訓練しないと死んじゃいますからね!」


 アモルの反応にイツキが答える。


「そう言えば兵士としてここに来たんでしたね。すっかり旅行気分でした」

「まあ、船の中がゆるみきってるからね。提督も貫禄ないし、しょうがないんじゃない?」


 ウェスとアウィスが言う。


「確かに威厳はないかもしれないけど、水の魔法は天下一品ですからね。侮っちゃいけませんよ」

「侮るなんて言ってないわよ。ただ、親しみやすい提督でよかったって話なんだから」


 イツキの注意にアウィスが答える。


「それから、海賊討伐もあったな。1か月ほど前だから忘れていたぞ。」

「ああ、忘れてました。何か勲章を頂けることになったんですよね」

「まあ、一人を除いてだけどな」


 アモルとウェスの視線がウルラに向く。

 ウルラの機嫌が少し悪くなった。


「確かに、私がやったのはアウィスちゃんの護衛だけだけどちゃんと仕事したもの。何か言われる筋合いはないわ」

「護衛も立派な仕事です。それに万が一の対応も任せてましたから」

「なによそれ、私が墜ちるって言いたいの?」

「万が一にも墜ちたら助けられるように対応したってことです。天狗は魔法を使ったら倒れるなんて言われてるんですから、万が一のことも考えてですよ」


 ウルラの言葉をイツキがフォローしたが、アウィスからも弾が飛んできた。


「ところでウェスは怖くなかった?人を切るのは初めてだったでしょう?」

「殺さないとこっちが殺されると思うと自然と体が動きました。ズバッといきましたね。後はスパスパやってましたよ」

「以外と頼もしい。アモルさんはどうだったんですか?」

「沈没との戦いだったよ。物陰から一撃ってのは得意なんだが、時間制限つきだと焦ってしまってな。最後は影に隠れるのは影渡りの時だけだったぞ」


 ウェスとアモルさんの戦いの1風景だった。


「イツキはどうだったの?」

「わたしは、まずはとにかく敵の船の側面に大穴を開けないといけませんでしたから、魔力は最大限使ってました。でも、1列になってて良かったです。横を向けばほぼ命中してましたから。あとは、船に乗ってる人が勝手に武装を放棄してくれてたので一人ずつ仕留めていきましたよ」

「敵もかわいそうね。対処法がほぼないじゃない」

「強力な魔法使いでもいれば別なんですけどね。わたしのアウトレンジから攻撃できる人は珍しいと思いますけど……」

「確かに、イツキの射程外から攻撃するのは至難の業だ。格闘戦はどうだ?経験あるか?」

「おじいちゃんと少しやったくらいですね。それもかなり小さい頃だったので、かなり鈍ってると思います」

「じゃあ、訓練でそこを補うのね」

「そうですね。そこは成長したい点です」


 アウィスに振られた話だが、アモルさんもちょっと食いついてきた。

 そんな事を話していたら、夕食の時間だった。

 夕食はローストビーフがあったので、それをサラダとともにいただく。

 主食はパンだがバターが付いてきた。

 なんでも酪農は盛んな地域らしい。

 夕食を終えたらお風呂に入って就寝だ。

 翌朝は紅茶とチーズトーストを頂く。

 チーズはおいしかった。

 朝食を食べ終わったらチェックアウト、船に戻る。

 やっぱり埠頭は人でいっぱいだった。

 出港時のスケジュール通り、ラジオ体操にストレッチした後、食堂で新聞を読む。


 〈海賊対処の成果か? 消費者物価指数低下〉

 〈貿易船戻る 製造業復活へ〉

 〈製造業株 一斉に上昇へ〉

 〈東南アジア貿易再開 一番船入港〉


「やっと自分たちから目がそれましたね」

「いつまでも飯の種にならないことはできないさ」


 お隣はいつもいる竜人さん。


「でも、自分たちも関係ありそうですね、この『海賊対処の成果か?』って」

「まあ、いい嫌がらせだったんだろうが、引き際を誤ったな」

「欲をかきすぎてわたし達にやられちゃいましたからね」

「勝てる戦いしかやっちゃいけないのにな」


 そんな会話をしながら新聞を読む。


 〈魔王国政府は10月17日の定例会見において、消費者物価指数が先月と比較して10%以上下がっていることを明らかにした。その陰には9月17日に海賊を破ったことも影響しているだろう。一時は海賊に怯えていた東南アジアからの貿易船も増加し、北東のタウンズウィルでは木材を乗せた船が到着、製紙工場の再開が見込まれる。南東のシドニーには石炭の他石油も運ばれてきており石油製品の製造も近く行われるものとしている。南西のパースには石炭の他に金銀銅等の鉱石も運ばれてきており、近日中に貴金属やアルミニウムの生産が開始される運びとなっている。〉


「意外と手広くやってたんですね」

「まあ、こんな体制になったのは魔王様が復活してからだから、本当にごく最近はって感じだけどな」


 また後ろから兵士さんが現れる。


「魔王様がいろいろ口を出して今のようになったんですかね?」

「さあ、詳しくは知らないが、次のパースにある鉄道は魔王様の発明だそうだ」


(鉄道ってレールの上に電車乗せるやつだろうか?そう言えば魔車って聞いたことがあるな)


「鉄道って、見たころあります?」

「ああ、鉄を長く伸ばしたもの2本の間に黒い牽引車と客車があってな。なかなか面白かったよ」

「魔車ってやつですか?」

「そうだよ、よく知ってるな」


 兵士さんはちょっと驚いた。

 遠く離れた小島にいる人が本土の様子なんて知ってるはずないと思ったのだろう。


「歌で聴いたもので。それで魔王城まで行くんですか」

「そうらしい。ヴェパル提督も受賞式ってやつで乗って行くんだと。俺らは里帰りだな」


 なかなか知識チートしてるじゃないですか魔王様。

 ご尊顔拝見させていただ……けるのかなぁ?


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