10歳 ストレッチとラジオ体操
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では28話目お楽しみください。
レガスピから次のダバオまでの航海は7日間を予定していた。
やっぱりトレーニングの日々を過ごしていた。
アウィスやウェスと走っていると『杖持ち』ではなく『1,000人殺し』と言われるようになった。
体力がついてきたのか、筋肉痛で動けなくなることも減り、また、ランニング中の休憩も回数が減った。
ここで次の段階に移行することにした。
柔軟性を身に付けるのだ。
ということで、ランニングもできない夕暮れ以降にアウィスとともにトレーニングルームに行った
中はランニングマシーンのないフィットネスジムの様な所で、半分にはウェイトトレーニング用の器具が、もう半分は何も置かず、鏡張りでダンスやヨガができるようになっていた。
現在はヴァンパイアの皆さんがウェイトトレーニング中だ。
イツキは何も置かれていないスペースを誰もいなかったので貸し切ると、体の柔らかさを調べ始めた。
まず、座って足を開けるだけ開いた。
真横とまではいかないが、150度くらいはいっただろう。
次に手を広げて、身体を前に倒す。
前方の鏡を見ると、結構体は前に倒れていた。
「アウィス、ちょっと体押してください」
「身体ってどこよ?」
「肩に体重をかけてもらえればいいです」
アウィスが体重をかけるともっと体が倒れる。
背中や腰、股関節の筋肉が伸びるのを感じた。
「いいです。伸びを感じます」
「じゃあ、もう少し強くいくわね」
「ちょっ、まっ、いたい、痛いです」
せっかく開脚してるので、太ももを揺らし、足先が左右に振れるようにする。
その後、内腿を軽くたたいてマッサージしたら、身体を大きく回す。
右回し、左回しと交互に行い偏らないよう心掛ける。
次に膝を曲げ、両足の裏をつけると股関節の方に引きつけ、膝を上下させる。
そしてアウィスにまた肩を押してもらう。
「いいですね。やっぱり伸びを感じます」
「どうする?もうちょっと強くいく?」
「遠慮します」
次は片足を曲げ、反対側の手でその足の外側を掴む。
右足を伸ばしたら左手で、左足を伸ばしたら右手で掴む。
そして、肩を後ろの方に引く。
「ああ、なんか肩甲骨の辺りが伸びてます」
翼のあるアウィスにもやってもらった
「なんか凝りが解消しそうよね」
どうせだから長座体前屈も行う。
「アウィス。今こそ全力で押す時です」
「了解!」
かなりの力で押してもらった。
結果は何とか足の指がつかめるくらいだった。
座った状態から仰向けに寝ると足を上げた。
鏡を見ると身体と足が直角になっていた。
足を戻すと手を伸ばし、ゆっくり体を起こす。
そこからうつ伏せになると、膝を曲げ、足首をつかみ、そして引く。
それが終わったら立って腕の運動。
左手を右に伸ばし、右腕で左ひじを押さえ、伸ばしたりゆるめたりすること数回。
逆もまた数回する。
次に背中で手を組むようにする。
まず右手を上から背中に回し、左手をしたから背中に回し手を組む。
次は逆に左手を上から背中に回し、右手をしたから背中に回し手を組む。
最後に、腕の力を抜き、腰の回転で腕を回す横回転と観覧車のように回す縦回転だ。
そこでふと前世のことを思い出した。
(ラジオ体操も取り入れればいいんじゃないか?)
6年間とはいえ毎日夏休みはやったのだ、なんとか思い出す。
(たーったたたたたたたーったたたたたた、腕を前から上に上げて背伸びの運動 たんたんたんたんたんたん手足の運動たんたんたらったららったたんたたたんたたたんたんたたんたたんたたんたたんたたん……)
そんな感じでラジオ体操第1を思い出した。
続いてラジオ体操第2。
(たーたたたーたーたたたーたったったったんたーたたー、たーたたたーたーたたたーたったっ全身をゆする運動、たったったったったったんたったったったっ腕と足を曲げ伸ばす運動 どーんどどーんどどーんどどーんどどーんどどーんどどーんどどーん……)
音がイメージできて来たら思い出してきた。
第二の最初は小ジャンプ、次はがに股になって両手でガッツポーズ懐かしいな。
イツキはラジオ体操第2を思い出した。
とりあえずはそこで終わりだ。
「アウィス、付き合ってくれてありがとう」
「別にいいわ。でも最後の動きは何なの?」
「昔どこかで作られた音と一緒にする体操だよ」
そうして部屋に戻るとウルラは御冠だった。
「こんな遅くにどこ行ってたのよ。心配するじゃない!」
「ごめんなさい。トレーニングルームに行ってました。あ、そうだ、顔の広いおかあさんなら知ってるかもしれません。楽譜がかける人を知ってはいませんか?」
「楽譜が書ける人?セイレーンのアミアさんならいつもハープを弾いてるから書けるかもしれないけど、今日はもう寝なさい」
翌朝、朝食後にアミアさんに会うことができた。
セイレーンはウルラと同じく腕と翼を持つ種族だ。
特徴的なのは鳥の足。
靴を履く人はあまりいないとされている種族だ。
「アミアさんってセイレーンなんですよね。楽譜は書けますか?」
「何か曲を思いついたんだね。同じ船に乗っている誼だ。ただで書いてあげよう」
「本当ですか、ありがとうございます。あと、その曲を録音したりすることはできますか?」
「そういう魔法具は聞いたことがないね。そこに行って弾くのじゃ駄目なのか?」
「毎日やろうとしてるので、来ていただくのも手間だと思いまして。」
「それなら、魔法具の方がいいだろうね。じゃあ曲を書くから口ずさんでくれるかな?」
イツキはラジオ体操第1と第2を口ずさんだ。
何度か繰り返すことになったが、楽譜が出来上がる。
「変な曲だね。何に使うんだい?」
「身体を動かすのに使います。録音の魔法具について目途がついたら演奏もお願いして構いませんか?」
「むしろそっちが本番だよ。早く目途が立つのを期待しているよ」
午前中は作曲に費やしたため、ランニングは午後からだった。
「どうしたんですか『杖持ち』さん、午前中は見られなかったようですけど?」
そう言いながら水を渡してくるヴェパル提督。
「曲を書いてもらっていたんです」
「『杖持ち』さんって作曲の才能まであったんですか?」
「いや、古い曲を書いてもらっただけです。それより提督、録音する魔法具をご存じありませんか?」
「録音の魔法具なら私のコレクションの一つですけど、欲しいですか?」
「是非!」
「では、お譲りしましょう。そんなに長くないですよね?」
「大体6分半と言ったところでしょうか」
「なら大丈夫ですね。今お持ちしますね」
そう言って船首楼の方へ走っていってしまった。
机と水が残っていたので、給水係を務めることにする。
「今日は走らねえのか『杖持ち』」
「今度は何をやるんだ『杖持ち』」
「何で提督じゃねえんだよ『杖持ち』」
そんなことを言われつつも待つこと数分、提督が2つの魔法具を手にこちらにやってきた。
どちらもICレコーダーの様な形をしている。
「両方とも中の宝珠に音を記録するものなんですが、こちらは全方向、こちらは前方のみとなっています。どちらにします?」
「前方のみでお願いします」
「はい、どうぞ。あ、もう片方を置いてくるのでもう少しここにいてもらえますか」
「わかりました」
そうして魔法具を手に入れたイツキは早速アミアのもとを訪れていた。
「魔法具が手に入ったので、録音をお願いします」
「どこで録音する?部屋だとちょっと狭い」
「食堂を使わせてもらいましょう」
そうして食堂に行くと何人か人がいたので協力してもらうことにする。
まず食堂の机と椅子を移動させ中央にスペースを作った。
そして、1人は録音係として残ってもらい、食堂に誰も入らないようにと周りの通路の警備にあたってもらった。
そして録音を始めた。
翌朝、トレーニングルームにはイツキの姿があった。
手には昨日もらった魔法具(聞いてみたら音が小さかったので音の出るところに拡声の魔法陣を張っている)を持っていた。
周りにはウェイトトレーニング中の鬼達が何が始まるのかと気にしていた。
イツキが魔法具を発動させて床に置くと、魔法具からハープの音が聞こえてきた。
とーんとととっととととーんとととっととと
『腕を前から上に上げて背伸びの運動』
魔法具からイツキの声がすると同時にイツキもしゃべっていた。
そうしてラジオ体操第1、第2と続ける。
体操が終わったら見ていた鬼から質問が来た。
「なんか珍妙な踊りみたいだったが、何か効果があるのか?」
「これは準備運動です。やっておくと怪我をしにくくなります」
「そんな効果があるのか。ちょっと教えてくれないか」
そうして、イツキから鬼達に伝播したラジオ体操は、朝、甲板上で行われるようになった。
ついでに運動後のストレッチも広めたので、夕方ランニングを終えた人がトレーニングルームでストレッチする姿も増えて行った。
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