10歳 プールと新聞
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では27話目お楽しみください。
プールは最高だった。
船がだんだん南下してきたため、暑いのだ。
季節は晩夏と言ったところか。
イツキは紺のワンピース水着で浮かんだり泳いだりしていた。
着いてきたのはウェスだ。
ウェスは緑色のワンピース水着だった。
犬かきのような泳ぎしかできなかったので、けのびとバタ足、クロールを教えてあげた。
特にバタ足を教えるときはビート板なんてものはないから、イツキが手を取って支えてあげた。
「水の中は気持ちがいいですね」
そんなことをウェスは言う。
「故郷のセプテントリオ島では泳がなかったの?」
「そんなことしたら風邪ひいちゃいますよ」
「そんなに寒いところなの?」
「夏は涼しいくらいです。今日みたいに暑い日は初めてです」
「船に戻ったらこんなこと出来ないから今のうちにいっぱい遊ぼう」
「はい」
だが、遊べてない人もいた。
アウィスである。
アウィスはホルターネックの黒いビキニを着ていた。
そして、泳ごうとしたのだが、翼が重くて沈むのだ。
アウィスは泳ぐことは諦めた。
そんなアウィスはビーチパラソルの下でビーチチェアに座ってジュースを飲んでいた。
イツキの母ウルラとアモルも水着は着ているが、同様にビーチチェアに座ってジュースを飲んでいた。
「おかあさんもアモルさんも水着着たんだからプールに入ればいいのに」
「翼が濡れるのは死活問題なのよ」
「男が釣れるのは水の中じゃなく水際だ!」
ウルラとアモルはそんなことを言っていた。
なので、ウェスと2人で遊ぶことにするがちょくちょく邪魔が入った。
水をかけ合って遊んでいると、アウィスから突風の魔法が放たれ、プールの水が巻き上げられてびしょびしょになったりした。
また、女性2人で遊んでいたので声をかけてこようとする男もいた。
その男の人はアモルさんの餌食になったのだが……。
そんなハプニングもあったが、十分に楽しむことができた。
プールから上がるとタオルで体を拭いて着替え、水着を返却した。
そして、部屋に戻ってシャワーを浴び、1階に戻ったらレストランで夕食だ。
昨日と同じくバイキング形式だったので、今日は別のメニューを食べようと思う。
鶏肉と芋、にんじん、玉ねぎの入った煮込み料理、北京ダックの様な皮を焼いたもの、春巻き、焼きそば、ナタデココとなった。
煮込み料理は醤油と酢で味付けされておりちょっとむせた。
北京ダックの様な焼き物は豚と判明、パリパリで美味しかった。
春巻きは中にひき肉やセロリが入っているものにチリソースを付けて食べた。
焼きそばはソースではなく醤油味、あっさりしていておいしく頂きました。
ナタデココはプヨンプヨンで、シロップ掛けじゃないのでほのかに甘くてこれも美味しかった。
食後にコーヒーを飲む。
味は喫茶店で飲んだものよりはるかに劣るが飲めないわけじゃない。
どうせなら紅茶にすればよかったかもと思うと、アウィスから、
「よくそんなもの飲めるわね。苦くないの?」
と言われてしまった。
「美味しいものは美味しいんだけど、これは失敗したかも。お茶にすればよかった」
そんなことを言ったらアウィスは勝ち誇った表情を浮かべた。
イツキはコーヒーを、他の4人は紅茶を飲むと部屋に戻る。
食事が終わったら、お風呂だ。
もう他の4人の裸を見ても何も感じなくなっている時点で前世が男と言うのは崩壊しているのかもしれないと思った。
そう思うと、来世男じゃなくなるかもしれませんよという死神の言葉はあんまり気にしなくてもいいような気がしてきた。
ただ、ここまで来たのだ。
今世の幸せのために頑張ろうじゃないかと気持ちを入れ直した。
お風呂から出るとみんなでバスローブを着て就寝だ。
そこでふと思い出す。
「アモルさん、以前に言っていた、集団戦で1人が生体探知に成功したら他の人にもわかるようにする魔法ってどうなりました?」
「ああ、ウルラと作っているぞ。もう少しかかりそうだ。」
「そうですか。無理をしないでくださいね」
「当然だ。身体を壊しては元も子もないからな」
ということなので、魔法の完成を願いつつ寝ることになった。
翌朝、起きたら身支度を整えて朝食を摂る。
朝食もバイキング形式だったので、トーストとコーンスープ、ソーセージと軽めにした。
食後はコーヒーではなく紅茶にした。
アウィスは自分が淹れたわけでもないのに自慢げだ。
そうして朝食を終えるとチェックアウトし、船まで飛んでいく。
自分たちの部屋に戻ると、1か月も過ごしていないのに、なんだか帰ってきたという気分になった。
そして、鐘が鳴り出港する。
出港の際は甲板は忙しくなるので、午後になったらランニングだ。
イツキはアウィスとウェスとともに甲板でランニングをしようと外に出た。
相変わらず多くの人がランニングをしていた。
「よお、『1,000人殺し』。今日もランニングか?」
ランニング中の鬼の男からそう言われる。
「『1000人殺し』?」
「なんだ、知らないのか?食堂に新聞があるから見てこいよ」
ということなので、ランニング前に食堂に行く。
アウィスとウェスも一緒だ。
食堂に着くと、大勢が1つのテーブルに集まっていた。
イツキ達を見ると竜人の男が叫び出した。
「『1,000人殺し』の御一行様だ!」
そんなあだ名は聞いたことがなかった。
「いつの間に『杖持ち』から『1,000人殺し』に変わったんですかね?」
「いいから読んでみろって」
そう言われてクリップ留めされた紙束を見る。
複数の新聞を集めたものだった。
トップニュースは海賊討伐だった。
〈東南アジアの海賊討滅 驚異の1,000人殺し〉
〈南シナ海の海賊討伐 海軍にエース誕生か!?〉
〈海賊を全滅 海軍史に残る快挙〉
〈海軍奇跡の無血勝利 貢献者に旭日章も!?〉
「新聞なんてあったんですね」
ちょっと現実逃避した。
「驚くところはそこじゃないでしょ」
アウィスに言われて1枚の新聞記事を見る。
〈魔王国軍海軍省は新魔王暦10年9月17日ルソン島東の海上で海賊と交戦、これを撃破したとの報告が戦艦レヴィアタンからもたらされたことを発表した。報道官談話によると、海賊は20隻からなる大艦隊を率いていたものの海軍の敵ではなく、全艦を撃沈したとのこと。関係者筋の話では、戦闘後周辺に生命反応もなかったことから海賊を全滅させたとの認識をしているとのことだった。戦艦レヴィアタンに乗船している特別輸送艦隊司令官ヴェパル海軍中将は遠話取材に応じ、報道官談話を肯定し次のように述べた。「部下からの進言で小規模の飛行魔法使い隊による長距離攻撃を採用した。攻撃により敵海上戦力が皆無となった後に戦艦は突撃し残党を討伐した。」とのことである。また、攻撃をした魔法使いについては「4人で1,024人分の耳を持ってきたことからその戦功大であることは間違いない。小官としては相応の勲章とともに特進も検討すべきと考えている」としている。これについて軍事専門家であるぺリトゥス氏は以下の様に述べている。「海軍省発表によれば海賊は20隻の船団ということでしたが、以前からの目撃報道により海賊船は小規模なガレー船との見方が強まっていました。1隻に約60名、多くても100名程度が乗っていたのではないでしょうか。そうなると、約1,200名、最大でも2000名のうち、1,000人分以上の耳を集めたのはとんでもないことだと考えます。海戦の場合、船に巻き込まれたり、投げ出されて溺死すると沈んでしまいますので、そう言ったことも考えるとまさに殺しつくしたと言えると思います。」この海戦に参加した4人と言うのは公表されていない。魔王新報では引き続き調査を行うこととする。〉
自分たちの行動が文章になるとは思ってもいなかった。
ただ、名前は伏せてもらっているので、良しとしようと思った。
「何ですかこれ?」
竜人が答える。
「ゴシップって奴だよ。あと、最後のはストーカーします宣言」
「嫌ですね。これだからマスコミという奴は……。まぁ、名前が出てないので限定的でしょうが……」
「甘いな『杖持ち』、この船に乗ってるってのはわかってるんだぜ。寄港地に取材が殺到するに決まってるだろうが!」
「そうか、そんな手がありましたね」
(姿形もわからない英雄、だから寄港して上陸する人を片っ端から取材するのか……周りに迷惑が掛かっちゃうな)
「だからこんな通達も出るわけだ」
いつの間にか近くにいた兵士さんが1枚の紙を見せてくれた。
今日付けで出された通達だ。
〈新魔王暦10年9月17日の海賊との戦闘に関する取材対応について(通達)
標題の件について、報道対応する者を特別輸送艦隊司令官及び報道部報道官以上の者とする。
上記以外のものが報道対応した場合については、軍法会議の上処分を決定する。
以上。〉
これで取材をお断りする口実ができたわけだ。
その通達が掲示板に張られると、イツキは提督に感謝した。
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