10歳 戦闘前ブリーフィング
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では24話目お楽しみください。
戦艦レヴィアタンは海賊との戦闘を回避するために東に大きく針路をとった。
すると速力の差で一時は海賊を引き離した。
そこで航路を戻そうとすると、再度海賊が接近してくる。
そしてまた針路を東にとる。
海賊を振り切り、航路を戻そうとする。
再度海賊が接近してくる。
それの繰り返しであった。
針路が予定よりも東に進んでいく。
このままではルソン島に上陸できない。
そういった思いが船員たちを包む。
特別輸送艦隊司令のヴェパルは当初予定寄港地だったカブサオから寄港予定地を変更。
マケダ海峡を通りレガスピの港を目指すこととする。
マケダ海峡は非常に狭く、海賊との交戦が予想された。
そこでヴェパルはルソン島南カマリネス州マズノウ島の北で海賊を討伐することとした。
タイトンの港を出港して6日、その間に母ウルラとアウィス、ウェスは生命探知の魔法を覚えていた。
そして暇を見つけると、トレーニングして体を鍛えていた。
そんなイツキ達は今食堂に集められていた。
乗船した時と同じように椅子が置かれており、前にフェアリーやピクシー、後ろにハーピーなど翼がある人が座っていた。
兵士さんがピリピリムードだった。
食堂が人で埋め尽くされると、演壇脇にいる兵士が魔法を使って大声で話し始めた。
「これより臨時のブリーフィングを行う!詳細はヴェパル提督から話される!心して聞くように!」
少し経つと「提督が入られます!」との声が聞こえた。
「一同、起立!」
ざっという音とともに皆が起立する。
するとヴェパル提督が浅い水槽に入って、男の人に台車を押してもらいながら食堂に入ってきた。
スロープを上がり、壇上の中央に押してもらっていた。
「一同、礼!」
お辞儀の角度はやっぱり45度くらいですませた。
「休ませてあげてください」
提督がそう言うと脇にいる兵士から、
「一同、着席!」
と声がかかった。
椅子に座ると提督が話し始める。
「現在本艦はおよそ20隻の海賊の追跡を受けています。出港して2日目からでしたので、執拗な追跡といってよいでしょう。どこかの国の軍人が関わっていると思われます。」
そんなことになっていたのかと周囲がざわめく。
知っていたのは騎獣に乗っていた人とその知り合いくらいだった。
「これから向かうマケダ海峡は一番短いところでほぼ8キロ、間違いなく交戦するでしょう。その前に航空戦力で一気に叩きます。あなた方の初陣です。しかし、大規模な航空戦力を見せて敵の生き残りに情報を持ちかえられると厄介です。小規模の航空戦力で敵を撃滅します。必ず敵を全員殺す、生きて帰さないということを比喩ではなく実際に行える人は手を上げてください」
そう言われたので手を上げる。
一番に挙げたので注目された。
「『杖持ち』さん、あなたはどうやって敵を全滅させるのでしょうか?」
その問いかけに起立して答える。
「はい、提督。生命探知の魔法はご存知でしょうか?」
「はい。サキュバスが人を見つけるのに使う魔法と聞いています」
「その通りです。その魔法は生きているものを探し、死んでいるものは探知から外れます。その魔法があれば、生き残りを探すことは容易いことかと思います」
「では、攻撃についてはどうしますか?」
「まず、大天狗に先頭集団を潰してもらいます。その後はわたしがロックバレットの呪文で船の側面に穴をあけ沈没させます。最後に生き残りを始末しましょう」
「この提案について意見のある者の挙手を求めます。はい、そこのサキュバスの方」
「生命探知を使うっていっても、効果範囲は限られている。20隻の船団がどのようなものかはわからないが、探知に時間がかかるのではないか?」
確かにアモルも効果範囲が100メートル程度と言っていた。
「通常の生命探知の魔法の効果範囲はおっしゃる通りです。ただ、わたしの場合は可視範囲であれば探知が可能です。それに私の仲間は皆生命探知の魔法は使えます。その点は心配いりません」
「では、次に、そこの天狗の方」
「大天狗に先頭を潰させるという話だが、天狗は魔法を使うと行動が難しくなる。その点はどうお考えかな?」
確かにアウィスも魔法を使えば倒れていた。
「わたしのルームメイトの大天狗は魔法を使っても行動は可能です。嵐を作ってこの船に戻るくらいは造作もないでしょう」
「では、次にそこの黒い翼の方」
「側面に穴をあけるとなると低空で侵入することになる。矢の射程範囲に入って怪我をすることはないか?そのために回復魔法要員が必要ではないかな?」
遠距離攻撃といえば矢だがどれくらい飛ぶものかな?
「矢の射程範囲はどれくらいのものでしょうか?」
「もし相手にイチイの木を使った長弓を使うものがいれば、その射程は500メートルを超えるだろう」
(弓矢って500メートルも飛ぶものなのか)
「それでしたら、1キロ離れて攻撃をします。教えていただきありがとうございます。」
「では、次に……後ろの鬼の方」
「小規模の航空戦力と言われているが、どの程度を考えているのか?」
「わたしを含めルームメイト5人を考えています」
「では次に、そこの竜人の方」
「正直な話、『杖持ち』にすべて手柄を取られるのは鼻持ちならない。何か貢献できることはないだろうか?」
(本当に正直だ)
「では、大天狗に魔法を使ってもらったら船に戻ってもらいます。その後で船を発てば残党狩りにはちょうどいいと思いますよ」
「しかし、それではせっかく小規模にした意味が無くなります」
そう言うのは提督だ。
「では、わたしのルームメイトの大天狗が帰還したら船を海賊の方に向けましょう。船から降りて残党狩りをしているように見えれば提督の心配も少しは無くなるでしょう」
「それだと近づいた際に騎獣が見えてしまいます。多くの騎獣がいれば何事かと勘繰られてもおかしくありません」
「では、騎獣は狭いですが甲板や積載スペースに入れるようにしましょう。食料も残り少ないでしょうし、それに飛んでいるよりはましでしょう?」
「それはそうですが……では、他に質問のある方」
「よろしいでしょうか?」
そういって訊ねたのは演壇脇にいる兵士さんだった。
「はい、どうぞ」
「では、本艦の移動について訊ねたい。マストから海賊船が見えたら君らは出発するのだろう?その後の船の動きはどうすればよいか?」
「マストから見える位置を維持しながら移動をしてください。大天狗が帰還したら回頭して残党狩りです。」
「では、他に質問のある方?よろしいですか?ではブリーフィングは終了です。お疲れさまでした」
「一同、起立!」
またもざっという音とともに皆が起立する。
「一同、礼」
また45度くらいの礼をする。
「提督が退出されます」
そう兵士さんが言うと、台車を押してきた男の人が戻ってきてヴェパルさんを退場させていった。
隣のアウィスに声をかける。
「アウィス。一番槍はアウィスです。失敗してもフォローはしますが、なるべく多くの船を沈めてください」
「まっかせて!」
ウェスにも声をかける。
「ウェス。ウェスは長距離攻撃がないから残党狩りをよろしくね。スパッと切っちゃっていいから」
「はい」
そうして部屋に戻るとすでにウルラとアモルが戻ってきていた。
ウルラに声をかける。
「お母さん。お母さんは魔法を売った後のアウィスを無事に船まで連れて帰るのが仕事ね」
「イツキ、怪我しないようにね」
アモルにも声をかける
「アモルさん。アモルさんは残党狩りに参加です。生命探知で敵を見つけて倒しましょう」
「わかった。無理はするなよ」
「わかっています。わたしは船首楼に待機します。海賊が発見されたらお知らせしますので甲板に集合してください」
わたし達の戦争が始まる。
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