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10歳 提督とお話

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では23話目お楽しみください。

 ゲムマ島を出港したら、相変わらずのトレーニング生活だ。

 とりあえず、思いついたが吉日ということで出港したその日に探知した者を四角で囲むように改造し、その脇に距離も表示するようにした。

 特に距離は今まで大体でやっていたのだが、それではいけないと一念発起。

 ランニング中に提督にあったので巻き尺か船の設計図を頼んだら学校の体育で使うような巻き尺を貸してもらえた。

 船尾楼から船首楼まで巻き尺を通して、なんだなんだと騒ぎを起こしながら距離を測っていった。

 その甲斐あって、具体的な直線距離については表示できるようになったのだ。

 並行して、ウェスによる魔法教室、アモルによる魔法教室が行われ、ウェスの魔法については5人全員が習得し、アモルの魔法についてはまだ生命エネルギーの探知に手間取っているようだった。

 ゲムマ島を出港して4日。

 現在、船はタイトンの港に停泊している。

 イツキは入港時に行われる積載作業を今日は船尾楼から楽しげに見ていた。

 母ウルラはゲムマ島に入港した時は大はしゃぎをしていたので、今回もそうなるかと思いきや、宿題を出されたために、それに没頭していた。

 今はアウィスとウェスとともにアモル教官の元、生命探知及びレーダー作成の魔法を習っていた。

 イツキが船尾楼から荷積みの作業を見ていたら飛んでくる人影(水槽付き)があった。

 提督である。


「ヴェパル提督、ご機嫌麗しゅうございます」

「いつも通りで構いませんよ。今日は外出されないんですか?」


 相変わらずフレンドリーだが、上官としての貫録に欠けるところがあった。


「いつも引っ張り回すおかあさんが今日は勉強中ですから。それに、荷積み作業は楽しいので見てて飽きません」

「そうですか。『杖持ち』さんの魔法には期待しているんです。何やら変なことを今やろうとしているでしょう?」


(どこから情報が漏れたんだろう……って巻き尺使って変なことしてたらそう思うよね)


「提督にはお見通しでしたか。今同部屋のものが学んでいるのはサキュバスの生命探知魔法です。攻撃する相手がどこにいるのかが分かれば攻撃もしやすいでしょう?」

「そうですね。後は攻撃が当たればいいのですが?」

「当たるか当らないかではなく、当てることが必要ですね。例えばハーピーが石を落とすことを考えると、一番命中しやすいのは、船の移動に合わせて上空を並走しているときです。そして、1つの石ではなく複数の石をばらまくように落とせば目測を誤らない限りは命中するでしょう」

「小さな石では威力が小さいと思いますが?」

「では大きな石を大量に落としましょう。1人1つの大きな石を持てるとして、それが20人集まり、一斉に落とせば命中するでしょう」

「それには大量の大きな石が必要ですね。用意できるでしょうか?」

「補給は補給の専門のものがいるでしょう。わたし達が考えるべきは、今あるものでいかに目の前にいる敵を倒すかです」

「今用意できますか?」


 そう問われたので、バレーボールサイズの石を魔法で作りだした。


「少なくとも私は可能です」

「すごいですね。全く予見できませんでした」


 提督はそう言うが驚きはしなかった。

 ふと気になったことがあるので質問させてもらう


「……提督は魔王様にお会いになったことはありますか?」

「はい。何度かお会いしました」

「どんな方なのですか、魔王様は」

「昔、もっと西の方まで侵攻していた時の魔王様は苛烈な方でした。一度敵となれば容赦なく殺すか奴隷として酷使しました。奴隷として獣人を売り買いしていた町では、占領後自分たちがその苦しみを味わえという様に人間すべてを奴隷にして酷使しました。人間の奴隷を奴隷兵として最前線に立たせ消耗していくさまを楽しんでいたとも聞いたことがあります。ただ、復活された魔王様は変わられたと思います。以前であれば、復活した後、すぐに戦力を糾合し侵攻していたでしょう。しかし、魔王様は人の幸せを考えるようになりました。砂漠に草を生やし、その後、食料となる草を植えました。魔王国本土は東が栄え、西は貧しいのですが、その貧しさを何とかしようと輸送路を作って東西の往来を便利にしました。以前の魔王様では考えられないことです」


(封印の効果かなんなのかわからないけど別人のようになったのか)


「封印から解かれると人が変わったようになっていたということですね。姿かたちはどうなのですか?」

「以前とお変わりなくと言いたいところなのですが、お召し物の好みが変わられたと聞いています。以前は血で濡れても構わない様に赤いお召し物を好まれていましたが、復活されてからは白いお召し物を好んでいると聞いたことがあります。ワイシャツなるものを着ているので、今魔王国内ではそれを模した服が人気だとか」


(……魔王って日本からの転生者なのか?他にワイシャツなんて使うところないだろうし)


「わたしも魔王様に会えるでしょうか?」

「空軍の計画は魔王様肝入りなので、結成式で見ることはできると思います。会話はできないと思いますが」

「そうですよね……制服とかあるんですか?」

「海軍所属の時は青いまだら模様の服を着てもらいますよ。空軍になった時はグレーのまだら模様にしたいと言ってたと記憶してます」


(もしも転生者なら私の衣装で何か気付くかもと思ったけど……いやいや、コスプレしてますってばれたらそれはそれで問題か?)


「質問に答えていただきありがとうございます。わたしからお聞きしたい事項は以上なのですが、提督から何かありますか?」

「この辺りで人間の海賊に襲われたっていう人がいるんです。もし、海賊にあったらどうします?」


(ゲリラ戦なら厄介だが、船に乗っているなら話は別だ)


「人間のですか。海賊ということはどこかの国の後ろ盾なくということですか?」

「いえ、裏にはどこかの国があると思って構いません。そして、我々が空軍を組織しようとしていることを悟られることも避けなければなりません」

「そうなると、まずは逃げることを考えなければいけませんね。騎獣を船の陰に隠しながら全力で逃げるんです」

「……もし逃げ切れないときはどうしますか?」


(この船に追いつけるとも思えないけど……)


「少人数での攻撃であれば、空軍という発想にならないかもしれません。たまたま船に飛べる人が乗っていたということにしてくれるかもしれません」

「攻撃できる人をご存知ですか?」

「わたしなどいかがでしょうか?手前味噌ではありますが、優秀だ、天才だと言われております」

「では、そんな時にはお願いしましょうか」

「はい。喜んで攻撃をさせていただきます」

「貴重な意見、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ魔王様のお話、ありがとうございました」




 そんな会話をした翌日、船首楼の中では混乱が起こっていた。


「マストから報告!1時の方向より船舶が接近!数不明!」

「どこの船だ!」

「船尾に国旗なし!海賊船と思われます!」

「何だと!」


 そこでヴェパルは指示を出す。


「騎獣を左舷に、船陰に隠します」

「海賊への対処はどうされますか?」

「ひとまずは左舷に回頭し逃走を試みます」

「航路を外れますがよろしいでしょうか?」

「最終的に目的地につければ問題ありません。水や食料は余るように積んでいるでしょう?」

「はい、3日分余分に積載しております」

「では、航路を変更します。最悪ルソン島の北岸にでも停泊しましょう」

「逃げ切れなかった場合はどうしましょう?」

「今優秀な飛行魔法使いが乗船していますので、最悪対処をしてもらいましょう」


お読みいただきありがとうございます。

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