10歳 遠話とミリト豚
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では19話目お楽しみください。
ウェスは魔法を教えるのは初めてだ。
なので、あまり説明がうまくはなかった。
「イメージは自分と相手を線でつなげて相手の近くに線が行ったらバッと大きくする感じです。後は、その音を丸めこむようにして特定の人だけに聞こえるようにします」
それを聞くとイツキは船首楼の上から下りてウェスの場所と線でつながるように意識した。
そして、線の先にメガホンが付いているように意識して声を発する。
「……きこえますか……きこえますか……ウェスさん……イツキです……今……あなたの……心に……直接……呼びかけています」
「聞こえてますけど、何が悪いのか途切れ途切れな感じがします」
ウェスの元には声が届いたらしい。
「こういうネタなので気にしないでください」
「あ、今度ははっきり聞こえました。大丈夫です。ただ、アウィスさんにも聞こえてます」
「じゃあ、ちょっと変えてみるから待ってて」
今度はメガホンではなく、吹きガラスで膨らんだガラスをイメージした。
「……きこえますか……きこえますか……ウェスさん……イツキです……今……あなたの……心に……直接……呼びかけています」
「聞こえてます。まじめにやってください」
「アウィスに聞こえた様子は?」
「いえ、ないと思います。何をしゃべってるんだーって言ってますから」
「そうですか。ありがとう」
そう返すと、今度は2本の線をイメージする。対象はアウィスとウェスに増やした。
「ウェス、アウィス、聞こえてる?」
「はい。アウィスさんも聞こえてるみたいです。」
「そうですか。報告ありがとう」
そう言って船首楼の上に戻る。
「アウィスは下に下りて私に話せるようにしよう。ウェスは船の中を歩いてもらえる?10分ぐらいで帰ってきてほしい」
「わかったわ」
「わかりました」
2人は船首楼から下に下りていく。
(ウェスは移動していても使えると言っていた。つまり、位置がわからなくても通信が可能ということだ。ということは、位置を対象とせず人を対象とすることが必要になるのだろう)
1分ぐらい経ち、イツキは魔法を使おうとする。
ウェスの姿を想像し、それを球体で囲みそこに音を発生させる、そんなイメージだ。
「ウェスー、どこにいるの?」
そう呼びかけると応答があった
「今食堂に来ています。イツキさんやりましたね。こんなに簡単に魔法を覚えるなんて」
「ウェスの教え方がいいからだよ。もう戻ってきてもいいよ」
「はい」
それから少し経ってウェスとアウィスは帰ってきた。
「難しいよこれ。なんでそんなに簡単にできちゃうわけ?」
「日ごろからイメージしているだけです。感覚で撃つ魔法使いのアウィスには難しいかもしれませんね」
「なんか腹が立つわ」
(ちょっと挑発的だったかな?これで拗ねないといいけど……)
イツキは少し後悔した。
ただ、イツキの心配は杞憂だった。
ウェスからいろんなイメージを教えてもらっていた。
船首楼を上ったり下りたりしながら試行錯誤していると、1人に対しては会話が可能になったようだ。
「アウィスさん、聞こえてますよ。大丈夫です」
そんな独り言をウェスがしていた。
その後、イツキが積み込み作業を見物しているとアウィスの声が聞こえてきた。
「聞こえてる?嘘じゃない?」
「聞こえてますよ。大丈夫です。」
アウィスとウェスの声が聞こえるということは魔法を覚えたのだろう。
アウィスは船首楼に駆けあがってくるとウィスに抱きついた。
「使えるようになったよ。ありがとう」
アウィスはちょっと泣いていた。
(……アウィスって結構泣き虫?)
イツキはそんなことを考えていた。
魔法の習得を頑張っていると、お昼近くになっていた。
「遅れないように早めに出発しましょう」
場所を知っているウェスを先頭に3人で飛んでいく。
レストランは町の中心部に居を構える白亜の神殿の様だった。
雨の日や嵐のときは大変だろうけど、キッチンに調理器具や調味料を置くための壁があるだけで、他の3方向は石柱で囲われていた。
天井は低いがパルテノン神殿の様だ。
到着した時にはすでに母ウルラとアモルが席に座って話をしていた。
「おまたせしました」
ウェスの声にイツキとアウィスも応じて頭を下げる。
「まだ予約した時間じゃないから大丈夫よ」
「じゃあなんでここで座ってるんですか?」
「ちょっと休憩ね。いいアクセサリーのお店を見つけたのよ。食事が終わったら買い物に行きましょう」
(ここまで人を振り回すというか、引っ張り回すというか、そんな母親だとは思ってもみなかった)
「すいません、アモルさん。うちの母につきあってもらって」
「いや、私もいい装飾品がないか探していたんだ。丁度よかったよ」
(アモルさんは大人だなぁ)
「ところで、高級レストランと聞いたんですが、どんなものが出てくるんですか?」
「ミリト豚のフルコースよ。ミリト豚って知らない?」
「お母さんも村から出たことないんだから知らないでしょう?」
ウルラはペロッと舌を出した。
「実は仲良くなった兵士さんからミリト豚は最高だって聞いてね。食べたいって言ったらこのお店を紹介してくれたの。外観が特徴的だからすぐわかったわ」
「……浮気はだめですよ」
「変なこと言わないでよ。私はドーヴァ一筋なんだから」
そんなことを言っていると僕らの分のお冷も届けられたので席に着く。
すると店員さんが黒板とイーゼルを持ってきた。
「こちらが本日のコースメニューとなります」
そう言って黒板を見せてくる。
三枚肉の角煮、生ハムと夏野菜のサラダ、テールスープ、ポークステーキ、ゲムマそば、南国フルーツ盛り合わせと贅を尽くした感じだ。
店員さんが黒板とイーゼルを片づけると1品目、三枚肉の角煮が出てきた。
三枚肉とは皮、赤身と脂身が3層になっているものだ。
角煮は元は正方形だったのだろうが、食べやすいように3つに切られていた。
「では、皆さん、ご唱和を。いただきます」
『いただきます』
ウルラの掛け声で始まった食事。
三枚肉は簡単に言えばとても美味しかった。
口に入れた瞬間脂身が解けた。
口の中にラードの風味が広がるが、不快ではなく特有の脂味を感じさせてくれる。
赤身は程よく醤油やみりん、酒からなるタレを吸っていて噛めば噛むほど味が出てくる。
皮はプヨンプヨンしてコラーゲンが豊富そうだ。
皮にも油が多くついており、それが旨味となる。
1品目にして圧巻の料理だった。
皆、3切れの三枚肉を食べると、その後味を残したいのか黙ってしまった。
そうして時間が経つこと数分、次のサラダがやってきた。
ミニトマトとコーンが1口サイズにちぎったレタスの器の中に入っており、それを1周生ハムで巻いた1品。
口に入れると、まず生ハムの塩味が口に広がる。
噛めばレタスのシャキシャキした歯ごたえ。
レタスの器が崩れるとコーンの甘さがやってくる。
最後にミニトマトを噛みつぶすと、コーンとはまた別の甘みと酸味が口に広がった。
「美味しいわね」
料理の腕でも競争しようとしていたのか、ウルラは悔しそうに言う。
周りの4人は肯くだけだった。
3皿目はテールスープ。
豚の尻尾が入った僅かに黄色がかったスープだ。
豚の尻尾がメインだと思いがちだが、メインはスープの中にある。
魚介、そして豚の骨付き肉で取れた出汁は、程よい旨味と塩味、脂味を演出する。
あっさりとしているが、それでいてとても奥が深いスープだ。
スープを飲み干すと皆黙って次の皿を待った。
次はポークステーキ。
まずその厚さに圧倒される。
厚さ2センチはあろうかというロース肉だ。
切ると中までちゃんと火が通っている。
口の中に入れると程よい脂味と豚肉の味に思わず笑みがこぼれる。
付け合わせはナス、ズッキーニ、ピーマンのローストだ。
旬のものを使っているため、それぞれがとても美味しい。
油を使っていないローストで、程よく口の中がさっぱりする。
5品目はゲムマそば。
テールスープの出汁に少し醤油を加え、小麦の麺を入れたものだ。
面の上には三枚肉と骨付き肉も乗っており、これでもかというくらいミリト豚を堪能するメニューだった。
最後にフルーツ。
カットされたマンゴー、パイナップル、パパイヤが出てきた。
マンゴーは口に入れた瞬間に融け、強い甘み感じ、パイナップルは甘みと酸味、シャクシャクとした食感を楽しみ、パパイヤはさっぱりで爽やかな風味を楽しんだ。
「いやあ、食べたね。正直ここまでとは思ってもみなかった」
アモルさんが口を開く。
「高級って着くだけあるわね」
これはアウィスの言。
「完敗だわ」
これはウルラの言。
(勝負しようとしなくていいです。程よく美味しいものを作ってくれればそれでいいです)
「結構量があったと思いますが食べきりましたね」
「それだけ美味しかったんだよ。後は昼寝ができれば最高だね」
「私もお腹いっぱいで、ちょっと苦しいです」
そんなことをイツキとウェスで話しているとウルラが話を遮る。
「だめよ。これから珊瑚のアクセサリーを買いに行くんだから」
ホテルで一休みするまでにはもう少しかかるのだった。
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