10歳 シルフの魔法
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では18話目お楽しみください。
イツキは午前中は筋肉痛で休み、午後はランニングをするという生活リズムで過ごしていた。
杖を持ってみたいという人もいて、持ったときに、
「結構ずっしりくるな」
と驚かれたりもした。
航海の途中、夕食にカレーが出る時があった。
(この世界で海軍カレーを食べることになるとは……)
とちょっと複雑なイツキだった。
カレーはおいしかった。
そんな船上生活を始めて4日後、船はゲムマ島についていた。
ちなみにゲムマ島は沖縄に当たる
イツキは船首楼から荷物の詰め込み作業を見ていた。
真中のマストの脇にクレーン用の柱が立っている。
ジブは左舷側に倒れていた。
クレーン先から伸びたワイヤーに荷物を固定すると、甲板上で4人がウインチを巻き上げ、留める。
荷物が十分な高さまで来たら、これまた甲板上で4人がウィンチを巻き上げてジブを立てる。
ジブが立ったらクレーン周囲にある大きな歯車を回転させてクレーンを旋回させる。
甲板の真ん中にある穴の上まで荷物が来たら、ウインチを留める力を緩めゆっくりワイヤーを下ろして荷物を収納していく。
この戦艦レヴィアタンは中は6階層、船首や船尾の楼を含めると7階層になっている。
中央部はすべて積み荷を入れるスペースになっており、一番下に荷物を積み終えると、次はその上の層、そこも埋まるとその次の層というように荷物が収納されていた。ちなみに母ウルラが持ってきた荷物は徴兵に来た兵士とサトリに持っていくのを拒否され泣く泣く調理器具や工具の類を捨てることになり、最終的に手荷物の衣服のみとなっていた。
「ねぇ、遊びに行かないの?」
アウィスが訊ねてくる。
港に到着したため、乗員には上陸の許可が下りていた。
「もう少し見てるよ。面白いよ」
「そんなもののどこが楽しいのよ。お昼は外で食べるんだから、それまでには堪能しきりなさいよ」
上陸の許可が出たことにより、乗っている人の数がかなり変わったことで用意しなければならない昼食の量が不明となった。
そのため、外で食べる者は事前に申告するよう、上からは命が下されていた。
イツキ達は親睦をもっと深めようと5人でお昼を摂ることになっていた。
ちなみに出港は明日なので、外泊する者についても事前に申告するようにと言われていたため、イツキ達5人も申告していた。
積み込み作業を眺めていると、ウェスが文字通り飛んできた。
「取れました。お昼は超高級レストラン、宿泊はフォンス城前のホテルです。」
「お母さんもよくやるよねえ」
イツキの母ウルラとアモル、ウェスは乗船が許可されるとすぐに外出し、レストランと外泊用のホテルを予約しに行っていた。
ちなみにフォンス城は今の首里城に当たる。
「お城の前なんて1等地じゃない!高かったんじゃないの?」
「はい。1部屋1泊で100サタナスでしたよ。夕食は別途払わなきゃいけないみたいです。」
あまりに高価なのでアウィスは驚嘆した。
「そんなお金どこから手に入れたのよ?」
「実はウルラさんのお父さんが世界樹の枝でお金を稼いでたらしくて、選別に金貨をもらっていたんです。」
イツキの祖父アーディンはドゥクスから世界樹の枝集めを依頼され、その成功報酬として多くの金貨を受け取っていたのだった。
イツキにはネブラの港での食べ歩きが思い出された。
「おじいちゃん……それなら自分で払ってよ」
イツキはぽつりとつぶやいた。
そうして、3人で積み込み作業を見る。
「これって楽しいの?」
「わたしは面白いと思うけど、アウィスはだめ?」
「何が面白いのかさっぱりだわ」
(こう、機械が動く様子を楽しむというのは男のロマンの様なものなのだろうか)
「ウェスはどう?楽しくない?」
「うーん、よくわかりませんけど、見続けても飽きると思います」
イツキとは意見が合わない2人だった。
どういう話をすればよいものかとイツキが思い悩んでいると、ふと疑問が思い付いた。
「そうだ、シルフの魔法ってどういうのなの?」
「シルフの魔法は基本的には飛ぶことです」
「飛ぶだけなの?」
訊いた後でイツキは後悔した。
(責めるような言い方になっちゃったな)
ウェスも申し訳なさそうに答える。
「だけではありませんけど、あまり種類はないですね」
(あまりということは多少は種類があるのか)
イツキは気になって更に訊いていく。
「どんな魔法があるの?」
「例えば切る魔法です」
「切る魔法?」
(どの程度の強さなんだろう?)
「どんなものを切ってたの?生活に活用してたりした?」
「はい。木を切ったり、薪を割ったりしました」
イツキは以前アウィスが岩を裂いたところを思い出した。
(あれくらいの力がかかるのだろうか?)
「木を切る……どれくらいの太さの木を切ってたの?」
「両手で抱けるかだけないかくらいのものです。倒す方向にななめに切らないといけないのが難しかったですね」
腕を伸ばした時の指先の間が身長とほぼ同じということを考えると、円周の長さが身長と同じ程度だということになる。
ウェスの身長が低いため150センチと考えると、木の太さは47,8センチということになる。
「アウィス、肘から指先くらいの太さの木を魔法で切ったことはある?」
「それより少し細いけど小さいときにやったことがあるわ。切り出してもらった木を立ててズバッとやるのよ」
「それで木が滑り落ちたことってある?」
「いいえ、パッカーンってどこかに飛んでいってたわ」
それを聞いて、イツキはウェスの魔法の切断力について気になった。
「スパッと切れた?」
「スパッとも切れました。ただ、それだと木が滑って危ないと言われたので切れ味は悪くしてました。最後はメキメキって木が倒れるんですよね。ちょっと懐かしいな」
通常、木を切るときは切り倒す方向に三角の切り込みを入れ、その後ろから切って倒すものだ。
だが、ウェスはそれをせず、切り倒す方向にななめに切ることで伐採をしていた。
「他に何か切った事はある?」
「料理の時に野菜を切ったことがあります。」
「何をどう切ったの?」
「春キャベツを千切りにしてほしいと母から言われたので、魔法でサッと切りました」
(千切りなのに、サッと?)
イツキは疑問に思ったのでさらに深く訊いてみることにした。
「千切りって包丁でザクザク細く切っていくと思うんだけど、ウェスはどうやったの?」
「包丁を束ねて振りおろす感じです。力が強すぎるとまな板が痛むので結構気を付けてました」
「切ったキャベツの幅は?」
「2ミリくらいでしょうか。やった時はうまくなったって誉められました。」
イツキは当然風で切断する魔法も習得している。
複数の風の刃で同時に切り裂くこともできる。ただ、それで千切りを作れるかといえば難しかった。
それを太さ2ミリで切るなんて想像もしていなかった。
「魔力の消耗は?」
「特別多いわけじゃないですよ。なんなら今度使ってみましょうか?」
「その時はお願いするね」
そんな魔法を行使しても魔力の消耗は少ないというウェス。
イツキには信じられなかった。
手元に何か食べ物があったら試しに千切りにしていただろう。
「他にはどんな魔法があるの?」
「あとは、声を届ける魔法かな。大声だとみんなに聞こえちゃうので、友達のところにだけ音が発生するようにしてました」
(電話の様なものだろうか、コードはないけど)
「それって友達が移動していたらどうなるの?」
「それでも会話できてましたよ」
「それって3人でおしゃべりとかできるの?」
「ちょっと消耗しますけどできますよ」
情報伝達は戦場の要だ。
その手段として、その魔法は気になった。
「その魔法ってシルフだけ使えるの?他の人でも使えない?」
「風に適正を持っている人であれば使えると思いますよ」
イツキは小さくガッツポーズをした。
「その魔法、教えてください。アウィスも一緒に」
「私も!?」
「はい。喜んで」
そうしてウィスの魔法教室が開催された。
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