10歳 船上生活
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では17話目お楽しみください。
「何でも質問答えちゃおうゲーム!ルール説明!箱の中に手を入れて1枚紙を引きます。その中に書かれた質問に10秒以内に答えないと罰則があります!」
イツキの母ウルラの考えたゲームはまともな神経なら衰弱しそうなゲームだった。
アモルとウェスの2人が疲れた表情を見せるのも無理もない。
子供として、親の蛮行に申し訳ない気持ちになった。
「それでは、まずはイツキちゃんからどうぞ!」
そう言われて差し出された箱の中に手を入れ、折りたたまれた紙を一つ取り出す。
「さぁ、イツキちゃん、どんな質問だった?」
「誰だろうね、『愛している女性のタイプは?』なんて入れた人は?」
船首楼の上でイツキはたそがれる。
「しょうがないわ。あれは事故だったのよ」
「そうです。あんなに紙が入った中であれを引くなんて、事故に他なりません」
アウィスとウェスが慰めてくれていた。
イツキは最初に引いた質問に答えられなかった。
前世が男だったことも影響しているだろう。
自分がアウィスを、アウィス達をその瞬間性的に意識してしまっていた。
そのことを消し去ろうと甲板に出て海風に当たっている。
(108の鐘が鳴ると煩悩も消え去るって本当かな。だとしたら、この船の鐘でも108回鳴らすかな。それともこういうのは運動で発散する方がいいのかな?)
沈んでしまうとどうにも調子が出なかった。
別のことを考えようとイツキは周囲を見回した。
後ろに目をやれば、3本マストに横帆をそれぞれ5枚使った様子は壮観だ。
魔王軍の船には縦帆がない。
最高の気象条件を魔法で提供できるからだ。
逆風や凪などは全く想定していなかった。
もう少し周囲に目をやると騎獣に乗った人達が船と並走している。
ドラゴンやグリフォン、ヒポグリフにペガサスと多種多様だ。
(空さえ飛べればよかっただけなのになぁ。それがこの大所帯。人生はわからないね)
イツキはしみじみとそう思った。
気分も少し良くなったので部屋に戻ろうとする。
「2人とも心配かけたね」
「私もあんな質問が来たら答えに窮するわ」
「そうです。気にしないでください」
「ありがとう」
そうして3人で部屋に戻った。
部屋に戻ると、母ウルラはニコニコして待っていた。
「イツキちゃんに合った罰を考えたわ」
そう言うと力強く言い放つ。
「イツキちゃんは3段ベットの1番上で寝ること!」
1番上が一番狭かった。
試しに寝てみたらやはり狭かった。
2段目にも寝てみたが、さほど変わらなかった。
「そんなことでいいんですか?」
「寝るスペースは大事なことよ。2段目はウェスちゃんね。あとは話し合って決めましょう」
と、ウルラ、アウィス、アモルの3人で話し合いが行われることになった。
イツキは甲板で走り込みをしようとドゥクスから借りた指輪つけて杖を持ち甲板に出た。
するといろんな人種の人がランニングをしていた。イツキもその中に加わる。
「杖持ち、お前ちっちゃいな。ちゃんと飯食ってるか?」
最初にイツキにそんな言葉をかけたのは竜人族の人だった。
だが、返答する間もなく、駆けていってしまう。
それから次第に『杖持ち』と声をかけられるようになった。
「杖持ち、落とすと危ないんだからもう少し内側走れや」
「杖持ち、へばったからって杖ついて老人の様に歩くんじゃないぞ」
「杖持ち、って呼んでみただけ」
何度も『杖持ち』と呼ばれたが、そこに侮蔑の感情はない。
ただ単に他の人と違う特徴を見つけただけ。
どうやら『杖持ち』ってあだ名になったらしい。
「お水をどうぞ、『杖持ち』さん」
そこには仮設の机の上に水の入った木製のカップを用意して、ランニングしている人に水を渡している女性がいた。
(……って提督じゃないか。こんなところで何をやってるんだ)
気にはなったが、気にせず水を受け取って走り続け、次の周に木製のカップを返した。
「頑張ってください」
と応援された。
更に走るとさすがにへばってくる。
提督の所で一休みする。
「もっと走らないと強くなれませんよ」
「ちょっと、休憩……インターバル……1分で……」
「わかりました。1分経ったら教えますね」
そうして1分後
「はい、スタート!」
その合図とともに再スタートする。
「もうへばったのか、『杖持ち』?」
「頑張れよ『杖持ち』」
「提督とお近づきになれるなんて、うらやましいぞ『杖持ち』」
そんなことを言われながら、午前のランニングを終えた。
「またそんなことしてたの!?」
昼食の時、アウィスに驚かれた。
昼食は玄米、葉物野菜のソテー、白身魚のムニエル、トマトとナスのスープだ
「なになに、何してたの?」
ウルラは興味津々だ。
「ネブラの港でちょっと困ったことになってロングムオラに滞在することになったんです。私の羽団扇を作りなおしてもらっている間、イツキはずっと走り込みをしてたんです。まともに食事もとってなかったし」
アウィスが心配そうな目でこちらを見てくる。
「しょうがないよ、食欲がなかったんだから。それに、ジュースは貰ってました。今日は食べられるんだからいいでしょ?鍛えられたってことだよ」
「それはそうかもしれないけど」
しぶしぶ、アウィスは引き下がる。
「午後も走るの?」
アウィスが気にかけてくれていた。
「その予定。アウィスも走る?」
「そうしようかな、やることないし」
「じゃあ、私も走ります」
そう言って手を上げるウェス。
見るからに線の細いウェスの参加にイツキは心配になった。
「苦しい戦いになるけど、大丈夫?」
「はい、頑張ります」
そして午後、3人でランニングを開始すると、杖の分動きが鈍いイツキが最初に遅れだした。
「だらしないわよ」
「そんなこと言っても、この杖が重すぎるんですよ」
言い訳がましかった。
そのうちアウィスとウェスに見はなされ、置いていかれた。
「気にするなよ『杖持ち』」
「今辛くてもいつか報われるぞ『杖持ち』」
「今頑張らなくていつ頑張るんだ『杖持ち』」
そんな言葉を走りながらかけてくる他の人達。
そんな中、背中をタッチされた。
アウィスだった。
「これで1周ね。何周遅れになるかしら?」
「では、お先に失礼します」
そう言ってアウィスとウェスが追い抜いていく。
イツキはちょっと悔しかったが、言い訳をすることにした。
(この杖が重いからこんなことになっているだけで、杖がなければ勝てるんだから)
そんなことを考えながらイツキは杖ハイポートを続けた。
途中でまた、水を配っていた提督さんに応援されたり、疲れてきたら1分インターバルを取ったりしたが、夕食の時間まで走ることができた。
「ということで、成長を感じました」
夕食の時その話をしたら、ウルラに心配された。
「そんなに鍛えなくても大丈夫よ。無理しないで」
「大丈夫ですよウルラさん、明日の午前中は起き上がれないでしょうから」
そんなことを言うのは、ドゥクス邸の時のトレーニングを見ているアウィスだ。
「それは、明日になってみないと何とも……」
「まあ、私とウェスも似たような状態になるかもしれないけど」
そんなことをアウィスが言うとウェスは怯えた。
「ええ!?私、どうなっちゃうんですか?」
「経験者がいるんだから聞けばいいわ。イツキ、どうなったの?」
「体中が痛くて、特に足が痛かったかな。動こうとしても痛みが邪魔するし、力も入らないしって状態になるよ」
「なんてことに誘うんですか、アウィスさん」
「ごめんごめん。でも、イツキがこうして生活してるってことはそれほどでもないってことよ」
「本当にそうだといいのですが……」
不安になるウェスだった。
翌日、アウィスとウェスは軽い筋肉痛だったが動けた。
一方で、イツキは重い筋肉痛で体が動かせなかったので、アウィスに魔法で食堂まで運んでもらい朝食を取ることになった。
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