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10歳 天狗の魔法

初めて感想をいただきました。

ありがとうございます。

これを励みに頑張っていきたいと思います。

他の方も評価、ブックマーク、感想、レビュー、活動報告へのコメントなどいただければ幸いです。

では12話目お楽しみください。

 イツキはアウィスに言われた31号室の前に立つとコンコンとノックをした。

 ほどなくしてアウィスが出てくる。


「いらっしゃい。4階と比べると駄目かもしれないけど、海がきれいよ」


 そう言って窓際のテーブルに案内され、イツキは席に着いた。

 アウィスは急須でお茶を入れると湯のみに入れて持ってきてくれた。


「ありがとう。ここからでもいい眺めだね。あの山っていつも煙が出ているのかな?」

「見るたびに煙が出ているって話よ。うちの方じゃ煙が出たら大騒ぎなのに」


(うちの方でも富士山とか箱根の山が噴火したら絶対大騒ぎになるよ)


「確かに。うちの近くの山も煙なんか上がったことが無いから新鮮だよね」

「そうね。で、話を替えるけど魔法陣って何?一体いつそんな技術が作られたの?」


 やはり魔法陣が気になっていたらしい。


「技術の歴史は知らないけど、わたしが研究を手伝ったのは4年前からだったかな」

「4年!?一体どこで?」

「ロングムオラのドゥクス閣下の家で」

「ロングムオラで!?」


(ロングムオラで研究していたことがそんなに驚くことになるのだろうか)


「はっきり訊くけど使い物になるの?」

「魔法陣を使うときはイメージが大事です。それができないと使い物にならないでしょう。ただ、魔法に魔法陣を重ねて使うことができるので使いこなせれば有用ですね」

「昨日の夕食の時、あなた氷水を出す魔法と魔法陣両方使ってたわよね?どんな違いがあるの?」

「魔力の使い方でしょうか。直接注ぐときはドバッととは言いませんが、氷水出ろと意識して使うんです。対して魔法陣は、この魔法陣を作成・維持しようという意識になるわけです」

「魔法陣を意識するね……難しいわ。普通の魔法みたいにバーンとできたらいいのに」

「アウィスさんは魔法をどの様に使うんですか?」


 アウィスが魔法陣に興味があるのと同様にイツキも天狗の魔法について興味があった。


「こう手のひらを向けるでしょ。そうしたら何かが方から手のひらを通って外に出てドーンと木に穴が開くの」

「それはまたアバウトですね。でも下手に理屈をこねるよりそっちの方がいいのかもしれませんね。あ、あと天狗といえば扇だと思うんですがどう使うんですか?」

「ああ、羽団扇のことね。そっちも似たような感じ。羽団扇を振るったら何かが羽団扇を通して出て風が起こるの」

「見させていただいてもいいですか?」

「いいわよ。ついでにあなたの杖も見せてもらえる?」

「はい」


 そうして二人は得物を交換した。

 イツキは羽団扇を調べていく。

 すると、羽団扇は高度な魔道具であるとわかった。

 まず持ち手はイツキの杖と同様に世界樹の様な大樹、霊樹のものということがわかった。

 また、羽根も何の羽根かはわからないが風の属性を効率よく増幅することに長けていた。


「アウィスさん、この材料はどうされたんですか?」

「ご先祖様から受け継いだからよくは知らない。ただ羽根はご先祖様が大往生した時に貰ったそうよ」

「非常に興味深いです。わたしの杖はどうですか?」

「重い。あと先の部分刃物になってない?」

「はい。触ると切れますよ」

「危ないよ!」


 そう言ってアウィスは杖を戻してくる。


「ちょっと実験してみませんか?」

「実験?」

「はい。互いの道具が使えるのかどうかです」


 ということで港に着た。

 船も停泊しているものが多く、変なことをしなければ大丈夫だろう。


「では私からいきますよ」

 そう言って羽団扇を振り上げる。

 イメージは竜巻だ。

 振り上げた羽団扇を振りおろすと意図せず魔道具に魔力が流れ込む。

 危ないと感じたイツキは魔力を遮断した。

 結局魔法は未完成で終わり、ただ強風が吹くだけとなった。


「よくこんな道具使えますね?」

「え、でも使いやすくていいんだけどな」


 アウィスは心外そうだ。


「わたしの意図を無視して魔力を奪おうとしてきましたよ」

「あ、そう言うところはあるかも。一撃必殺で後はバタッて感じでね」


(私の杖よりよっぽど危ないでしょう)


「わかりました。わたしの魔法具はいかがですか?」

「ちょっとまってねー」


 そう言うと杖を右に構え、左に払った。すると50メートルほど先にある岩礁の上だけに竜巻が発生した。


「これはすごいね。あんなに小さな範囲に竜巻ができるなんて信じられない」

「制御はすごいですよ。初期魔法をたくさん使うと実感できると思います」

「どれどれ?」


 そう言うとアウィスは集中して不可視の刃をコントロールした。

 対象は先ほどと同じ岩礁だ。

 まず1つ、次に2つ同時、次は3つ同時というようにコントロールし、結局20発同時までいった。


「うわ、岩に傷跡が無数に」

「いや、この杖使いやすくって楽しいわね。ずっと交換しない?」

「だめです!」

「次は魔道具なしでやりましょう」


 イツキがアウィスに提案する。


「いいわね!受けて立つわ」


 アウィスは闘志をみなぎらせた。


「では、やっぱりあの岩を標的にしましょうか?」

「丁度いいしね。お先にどうぞ」

「では遠慮なく」


 そう言うとイツキは小炎弾を20ほど呼び出して1発ずつ岩に当てていった。

 そして当てながら小炎弾をさらに召喚し補充する。

 1分間で100発ほど炎弾を浴びた岩は少し赤熱していた。


「すごいね。そんなことができるなんて、どんな訓練したの?」

「おじいちゃんがしごいてくれてね」

「ふーん、じゃあ次は私ね」


 そう言うとアウィスは集中して岩を見つめる。

 そして右手を手を上げチョップするように構えた。


「はっ!」


 という声とともにアウィスは右手を振りおろす。

 次の瞬間、岩は真ん中から裂けていた。

 と同時にアウィスは消耗しすぎたのか膝をつく。

 イツキはアウィスの肩に腕をまわし、何とか立たせようとする。


「そんなに無理しなくてもいいじゃないですか?」

「天狗の魔法は一撃必殺がモットーだからね。一撃で消耗するんだ」


 そこでイツキは考察する。


(一撃で消耗すると言ってはいたが、わたしの魔法具を使っていたら自然に使えていた。これは何を示すのだろう。天狗は日常的にすべての魔力を消費するようなことをするのだろうか?それに天狗の魔道具も魔力を想定以上に吸いだそうとしていた。体質とそれに応じた魔道具を作ったのか?)


「アウィスさん、わたしの杖を使うときどのように魔力操作していました?」

「魔力操作?いつもと同じようにどーんとやったら杖に滲みこむ感じがして、その滲みこんだのを風にして飛ばしてたの」

「魔法の訓練ではどうでしたか?初級魔法から習うと思うのですが?」

「使えても倒れてばっかりだったわ。こんなこと聞いてどうするの?」

「戦場では一撃撃ってはいさよならとはいきませんよ。何とか倒れない方法を見つけないと」


 歩けない兵は死ぬしかない。

 イツキは前世でそう教わってきていた。


「……ありがとう」

「お礼は解決法を見つけてからにしてください。可能性の話ですが、世界樹の枝を使えば、その滲みこむ感じになるかもしれません。僕の故郷に世界樹があるのでそれを使ってみましょう」

「でも、遠いんでしょう?船の到着予定は三日後よ。素材を取って魔道具にしてなんて難しいんじゃない?」

「うーん、こういうときは他の人の知恵を頼りますか」


 そうしてイツキとアウィスは祖父アーディンのもとを訪れた。

 まず、アウィスの魔道具羽団扇をテストしてもらう。

「これが天狗の魔道具か」


 そう言うと海に向かって振るう。


「うぉっ!」


 という声を出したアーディンはその所見を言う。


「確かに自分の考えた以上の魔力を引き出そうとするな。これではあの戦争の時、1回で嵐が止んだのも納得がいった」

「恐らくなのですが、取っ手のこの木が魔力を引き出すのだと思います。世界樹製のわたしの魔法具ではちゃんと制御できていたので、世界樹の枝に付け替えることができれば大丈夫だと思います。しかし今から枝を取りに行くのでは船に間に合わない可能性がありますので何とかならないかと相談に着た次第です」

「ふむ。実は閣下が世界樹の枝を集めることをおれに指示していたことがあってな。もしかすると余りが残っているかもしれない。今から出ればお前の力ならば日暮れ前に閣下の家に着くだろう。行くか?」


 可能性があるならそれにかけるのが人だ。


「行きます。アウィスはどうする?」

「自分の羽団扇の話です。着いていきます」

「ということなので、今日はドゥクス閣下の所でお世話になりますね」

「おう、急いでいけ。夕食の人数が減ることはこっちで連絡しておく」


 そうしてイツキとアウィスは宿を飛び出した。


お読みいただきありがとうございます。

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