第一話 嫌な奴
noonpa流短編小説集。
とっとと桃姫及びその他書けって話ですが、まあたまには気分を変えて。
それでは、お楽しみください。
第一話 嫌な奴
私という人間は、一言で表すなら嫌な奴だ。
どういうわけか、世界に形ばかりの善意をばら撒く、そんな行為がとても嫌いだ。産まれた時から、ずっと。
果てしない夢とか希望とかを語る友人には現実を囁き、その砂糖菓子のように甘い考えを唐辛子の悪意でバラバラにする。その時の友人の顔を想い起こすと、変な気分になる。
『あいつは酸素を吸って毒ガスを吐き出す』
そんな事を言ったやつがいた。
そいつは、その数日前、何を血迷ったかこんな私に告りやがったから、私は持てる限り全ての暴言で相手を罵った。
最後の方は男のクセに半泣きになりやがって、でも、そんな彼を見ると、なんかどうしようもない変な気分になって、その場から離脱した。
そんなあいつの言葉は言い得て妙だと思う。
私の息を吸ったら、もがき苦しんで、死ぬ。
そんな私の吐息を、毒と言わずしてなんて表現しようか。少なくとも、私の少ないボキャブラリーの中には代替え案が浮かばない。
私は嫌な奴だ。
気がつけば私は一人だった。
近付こうとするやつ、みんなに毒ガスを振りまいていたら、当然のように一人になった。当然。当然。
このまま一人寂しく歳を取るんだろうなあ。
このまま一人寂しく寿命を迎えるんだろうなあ。
このまま一人寂しく、ずっと寂しく──
「よお。毒ガス女。久しぶりじゃん」
────…………
蓼食う虫も好き好き。
ちなみに、この蓼というのは…………私にもわからない。けど、きっと私のような奴なんだろう。
私は人生二度目の告白なんかされてたりする。
しかも、そんな勇者というかドMなことをしてるやつも見覚えがある。あの時の再現──というには、少しばかり肌に張りが無くなってたりするけれど。
私は嫌な奴だ。
こんな私を好きだとかいうありえない変態に、どうにか最高に嫌な想いをさせてやりたい。
どうしたものか。どうしたものか。
──ふと、一つ良い案が浮かんだ。
これ以上に無いってくらいの嫌がらせ。
威力最大最強の毒ガス攻撃。
食らえ、このクソ野郎。
────…………
私は世界嫌な奴コンテスト金メダリストだ。
私ほど嫌な奴はこの世にいない。
そんな私の傍で、ニコニコと笑ってる男は、おそらく宇宙不幸な奴コンテスト歴代最強クラスで、そして、そんな私の腹の中にいる奴は…………きっと、私を超える嫌な奴になるに違いない。
人は嫌な奴に誰よりも不幸せになってもらいたいと思うのだろうが、残念なことに嫌な奴を極めた私は誰よりも幸せだった……なーんて。