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変な奴が

 水の流れは、ある程度周期がある。水の流れによってできる波の形は、数回をまたいで同じように繰り返す。朝日の反射も、同じように揺れる。

 ホームレス達は、ばらつきがありながらも、彼らの寝床を出て、「仕事」に向かう。ホームレス達にも仕事はある。とは言っても、スーツをきっちり着込んで、荘厳なビルに向かうわけではない。はした金になりそうな、空き缶や使用済みテレカなどを拾い集めに向かうのだ。

 僕も、気が向いたら同じようにするが、今日はのんびりと河原に寝ころんでいるつもりだ。

 鉄橋を電車が通って、線路と車輪の音が規則正しく鳴り響く。大分この音にも慣れたものだ。ここに来て最初の頃は、きっとうるさくて、夜も寝られなかったのだろう。よく覚えていないが。

 ガサガサと、草を踏んで歩く音がした。大方、犬の散歩か何かだろう。そしてそういう奴はいつも汚い身なりの僕を見ると、遠巻きに怪訝な顔をして、おおまわりに進んでいくのだ。

 しかし、今のこいつは違った。明らかに視界に僕をとらえているのに、一直線に近づいてくるのだ。

 それでもなお僕が無視していると、そいつはなんと言うことか、僕に話しかけてきたのだ。

「今は、暇そうだね。」

ようやく僕が瞼をあけると、金色のツンツン頭をしたごつい男が僕の顔をのぞき込んでいた。

「何か用?」

僕がそっけなく返事をすると、その男は僕の脇に座って、余裕そうな顔をして、まだ僕を見る。

「臭いな」「ホームレスだからね。」

男は鼻で笑って、会話を続ける。

「もう嗅覚が鈍ってるんじゃないか?」

「そうかもね。もう何年もこんな暮らしだから。」

「五十年位かな?」「そんななりに見えるかい?」

「だって、死なないんだろ?」

 僕の体が強ばったのが分かる。なんて事だ。はったりとも思えない。今の会話を思い返してみれば、こいつは確信を持って近づいてきたんだって事がわかる。

「一昨日は驚いたよ。一度腹を深く刺された奴が、朝になったらぴんぴんしてやがる。」

 僕は、半分唖然として男の話を聞いていた。

「普通は死んでるぜ。あの出血だ。それが、数時間寝ただけで回復するとは思えない。」

まさか、あのときの男なのか?俺を差した…。いや、あいつはマスクをしていたが、目も髪色も、体格だって違う。脇で見てたってことなのか?

「あんた、人間じゃねえんだろ。」

目つきが鋭い。確信を持った上で聞いてる。どう言い逃れすればいいんだ?

「……………」

「…………ふふっ」

突然、男は笑い出した。

「いや、悪い悪い。別にお前をとって食おうなんて思っちゃいないよ。というか、同種だしね。」

「同種って…まさか、」

「君も、祠で不老不死になったんだろ。俺もそうだ。」

「祠…あれか……」

「この体だと、色々と不便なこともあるしさ、同士として、仲良くやろうぜ。俺の名前は坂東 勝己。よろしくな。」

男は笑いかけながら、握手を求めてきた。僕は応じるとともに、気になっていた事を聞いた。

「しかしあれか?さっきの話が本当なら、坂東は僕が差される所を見ていたってわけか?」

「そう言うことになるな。」

「偶然?それとも僕をつけてた?」

「いや尾行なんてしてないよ。ホントにただの偶然だよ。」

「よくあんな所にいたな。何もないし、人なんてめったに入らないだろう。」

そういうと、男は顔をしかめ、舌打ちしてからつぶやいた。

「やっぱりそうかよ、くそアマァ…」

「?どうした?」

「あ、いや、実は、学校である女に、あそこの廃工場で待つっていう手紙をもらってだな。嬉々として行ったんだが、だまされたみたいだぜ。」

「…!?坂東は…学校に行っているのか?」

「ああ。かれこれ70年生きてるが、学校を細かく転々としながらな。たまに大学にも行ってるんだが。」

「よ、よくばれないな。」

ああ、と男は苦笑いした。

「実は俺、裏の世界…暴力団やヤクザと繋がりが有ってな。そのツテで戸籍とか偽ってんだ。」

確かに、そっちの方面に関わりが有ると言われても不自然ではない。体格も良いし、髪も染めてて、そこら中に金属片がはめられている。(ピアスと言うらしい)さらに首筋に、刺繍が服からはみ出している。

「と言うことは、ヤクザには不老不死だって事がばれてんのか?」

「そうだ。一部の人間だけなんだが。なにせ70年という間、身体能力ピークの状態で筋トレや喧嘩に明け暮れてるから、常人の十倍は強い。何より死なないから、組の秘密兵器として重宝されてるのさ。」

「はぁ」

ため息しかでない。何より、70年間筋トレ喧嘩を続けているっていうのが、凄いというか、途方もない。目の前にいるこいつは、同種でありながらも、全然違う種類の人間なんだなって事がよくわかる。

「お前はさ、筋トレとかしないのか?」

男は僕の服をめくりあげた。

「げっ!筋肉どころじゃねえ。皮と骨だぜ。もったいねぇよぉ。せっかく死なない身体持ってんのに、鍛えないなんてさぁ。」

「だって、しなくたって死なないし。」

「でもよぉ、鍛えとけば、腹を差されて痛い目みる事なんてないんだぜ。俺は喧嘩しすぎて、痛みを感じなくなっちまったがな。」

「でも筋トレって、苦しいだろ。」

「じきなれるのさ。何十年もやってたら。」

「それまでがいやなんだよ。」

そう言ったら、坂東は少しの間黙って、失礼にも僕の顔を指差して言った。

「そうか、お前、めんどくさがりなんだな!」

「坂東は70年しか生きてないんだろ。僕は120年は生きてんだよ。」

「そこの50年に、そんなに差があるかねぇ。」

「あるよ。大有りさ。」

自分でも何言ってんのかよくわかんない。というか、本質はそこじゃないんだ。

「全ての不老不死になった人が、みんな坂東みたく鍛えてる訳じゃ無いだろう。」

「そうだが、俺の知り合いの不老不死のやつは、戦場に行ってんだぜ。」

「戦場?」

「ああ。いくらでも死んだ振りして偽って入隊できるし、死なないからローリスクハイリターンってわけだ。」

「かしこいな」

「ああ、かしこい。」

僕にはそんな生活できないだろうなと思っていた時、男は僕に提案してきた。

「お前さ、バイト始めてみないか?」



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