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不老不死に

挿絵(By みてみん)

腹に暖かく濡れた感覚を覚えた。

何か鋭利な物を差し込まれたとわかった瞬間、強烈な激痛が全身を走る。

目の前の、今まさに僕に体当たりしてきた鼻息の荒い男は、ゆっくりと僕の体から血濡れたナイフを引き抜いた。

随分深く刺されたみたいで、赤い染みは灰色のシャツの上で面積を大きくしていく。

僕が腹を抑えて、地面に落ちるように倒れ込んだのを確認すると、ナイフをその辺に捨て、走って夜の暗闇に消えていった。

恨みを買ったような覚えはないし(それどころか人との関わりさえほとんどなかった。)僕は汚い身なりをしたホームレスな訳であるから、金銭目当ての強盗というわけでもないだろう。

となると、ホームレスを狙った通り魔か何かだろうか。

男は何やら興奮した様子だったから、通り魔で間違いないか。

そうこう、どうしようもないことを考えているうち、視界はぼやけ、意識が遠のいて行った。

小鳥の鳴き声につられ、次に目を覚ましたときには朝になっていたのである。

場所は刺された場所と同じ、廃工場跡の倉庫裏だ。

試しに腹を触ってみた。

血はとうに乾いており、シャツに汚い赤茶色の染みを残している。

無論、傷口などはない。さすがに自分がいかに化け物であるかを自覚する。

「しかし久々に痛い目にあった。」

等とどうでもいい事をつぶやいて、大きく伸びをした。

固いコンクリートの上で寝ていたからか、体のあちこちが痛い。

何よりまともに寝れてないわけで、一刻も早く、河川敷の僕の寝床の、ドロドロの毛布にくるまってもう一眠り行きたいところである。

しかし、そこまではなかなか遠いのであって、どうも腰が上がらない。

そもそも昨日、こんな辺鄙なところに、深夜来てしまったことが失敗だった。

まあ僕が、あえて理由を付けるとしたら、退屈な毎日に刺激を生もうと思い立ったことに原因があり、僕自身に落ち度があったのではあるが。

面倒くさくなって、もう一度地面に寝転んではみたものの、コンクリートを伝う冷たさが嫌に心地悪く、すぐにおきあがってしまった。

ずっとここに座っている訳にも行かないので、僕は立ち上がらなくてはならない。

何より、腹が減った。

食わなくても何ら困らないというのに、半端に空腹があるのがいけない。

ポケットの中に手を突っ込むと、幾らか小銭があった。

大分眠気も醒めたことだし、まずは腹を満たそうと思う。寝るのはその後で良い。

さすがにこのままでは目立つので、前を開けていた上着のボタンを全部留めて、血がしみこんだシャツを隠す。

面倒事は避けたいので、ナイフを拾い上げ、その辺の土で血の跡を隠した。

僕がここに伸びてる間に人がこなくてよかった。不幸中の幸いといったところだ。

取り敢えず、廃工場跡の柵をこえて、駅の方に向かう。

駅前の小さなファストフード店に入ると、テイクアウトでハンバーガーを一つ買った。

並んでる間、店員や客から渋い顔をされたり、冷酷な視線を向けられることには慣れっこだった。

もしもこの上、僕が年老いた醜い男のなりをしていたら、入店拒否さえ受けていたかもしれない。

20代の自分の姿に感謝する。

近くの小さな公園のベンチにすわって、ハンバーガーをかじる。

美味しい、とか、まずい、とかは、最近感じない。

あまりに多くの物を食べ過ぎて、味覚が鈍ってしまったのか。

あるいは舌に付着物が多すぎて、感じるに至らないのか。

僕はここ三十年、歯磨きというものを一切行っていなかった。

飽きてしまったし、何より虫歯にならないので、する必要がなかった。だからやめた。

不老不死の体になってから、よかった事なんて一つもない。

どうして不老不死なんかになってしまったんだろう。

初投稿なのです。

よろしくお願いいたしますぞ。


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