その四 「空媛尊社」
一行4人と老人は目的の祠に向かっていた。ここは愛媛県内では四国カルストと呼ばれる地域で石灰岩の地層が広がり、鍾乳洞もおおくあり、隣の高知県と接する地域だった。そのため人の出すノイズもなく、鳥のさえずりや風の音しか聞こえてこなかった。
弥生は越智から渡された本を大事そうに読んでいた。このような本があるなら来る途中に見せてほしかったと思っていた。しばらくして弥生は色々と質問した。
「これって空媛尊社と呼ぶのですか? 」
「ああ、そうだ。なんでも太古の昔、天空から落ちてきた天女の空媛尊を祭ったもので、地元の伝承では日本に仏教が伝来する前の話になっている。正確にはわからないけど」
「そんな昔からあれば、少しは大きな神社のはずなのに、何故祠といっているの? 」
「なんでも祠は参拝のためで、大祭は祠の奥の洞窟で行われていたというのだ。でも集落でも極一部の人間しか洞窟の大祭に参加できなかったし、そこに入った巫女さんも何をしたかを語ってはいけなかったそうだ。ただ120年に一度の大祭ではしゃべってもよかったそうだ。でも120年目の大祭の記録は失われているし、当然知っている人も生きていない。それで30年前の最後の大祭のことを知っている人を探したのだけど、唯一さっき言っていた松前さんだけ見つけたのだけど、お話は祠でするというわけだ。それと出来れば若者を二・三人連れてきて欲しいということだった。だから君たちに来てもらったのだ」
「それじゃ、あたしたちは何か手伝えというわけなの? 嫌になっちゃうよ」
「でも、それで謎が解ければ君らにとってもいいことだろうし、手伝えば何かご利益あるはずだ」
そう話していたところ、小松昭三が横槍をいれた。
「あんたら、そんな心構えでは、空媛尊のお役に立てないぞ! まあ祠につけばわかることだけどさ」
すると、先ほどまで青空が広がっていたのに急に大粒の雨が降り出した。弥生は越智の本が濡れないようにビニール袋に入れていた。一行は一目散に祠に向けて駆け出していた。