その参 「老人」
大輔が見つけたのは大きなリュックだったが、それには細い手が付いているように見えた。一同が近づくと「おーい! そこにいる誰か? 起こしてくれーい! 」としゃべるではないか。
「三島君、起こしてあげなさい! 人ではないか」大輔が見つけたのは大きなリュックを背負った老人が躓いて起き上がらなくなった姿だった。その老人は酷くやせこけていて、手足が細くリュックが背負っているような感じだった。何故か老人は大輔にだけ話しかけた。
「そこの若いのありがとよ。あんたらこんな山奥に何のようだ? 」
「私たちはこれから、この先の祠にいくのです。みんなで調査しようというわけです」
「調査? ああ、君らひょっとして松前妙子さんの招きなのか」
「招きではないと思いますが、彼女に会う予定です。それがどうされました」
「ははーん、あの女狐め、大祭のために・・・まあ、行ってみれば判ることだ。悪いが、あんた力があるのだろ? ワシのリュックを持ってくれないか? 上まで行ったらあんたらの目的に役立つはずだ」
大輔は老人のリュックを背負ったが、一体何が入っているのかみたくなるぐらい重たかった。病み上がりの大輔は息をきらせながら上がっていった。
「三島君、重くない? あなたってずっと病気で入院していたのでしょ」
「そうですが、死ぬことを考えたらたいしたことないですよ詩織さん。それよりも君こそ足の方は大丈夫ですか」
「大丈夫ではないけど、もうすぐ祠でしょ? あそこに崖が見えてきましたから」
一行の前に祠があるという断崖絶壁になった山肌がみえてきた。あの麓に祠があるはずだ。そう思うと一行の足取りは軽くなった。
「あっ、朽ち果てた鳥居がある。ここからが祠の境内というわけね。でもなんか霊気のようなものを感じるな」と、弥生は変な事を口走った。一行は松前妙子にあって話を聴いてから祠を調査すれば、今日の日程は終了だと考えていたが、それはまちがいだった。この時、許しが無ければ後戻りできない領域に入ったからだ。