その弐 「廃道」 <イメージ画像あり>
目的の祠を目の前にして、一行は車を乗り捨てていかなければならなかった。その地点で沢に架かるコンクリート橋が落下していたためだ。地図によれば、その先の祠の手前で行き止まりになっており、祠に行くための道路だったようだ。一行は草をなぎ倒しながら進んでいったが、学生は越智講師にいろんなことを聞きだしていた。
「なんで橋を直していないのでしょうか? ガードレールも錆びだらけだし」
「こんな山奥の祠に行くための道路だから復旧されなかったのだろう」
「そういいますが、先生。こんな山奥に人が住んでいたとは信じられませんよ! 来る途中にあった民家は全て廃屋だったじゃないですか」
「愛媛県古代女神列伝によれば、この付近に小規模な鉱山と林業が盛んだったので千戸住宅があるということだった。しかし鉱山も閉山し林業も衰退したので住む人がいなくなったようだ。限界集落を通り越して消滅集落になったわけだな」
「それにしても、松前さんて方先に祠で待っているのでしょ! どこに車を置いているのよ? まさか歩いて来たとか」
越智は言われてみれば最後の巫女である松前がどうやって此処に来るつもりなのか気になった。彼女とは友人の喜多泰造を介して話をつけてもらったので、直接会ったことが無かった。
「実はな、私も松前さんに会ったことないのだ。喜多先生の紹介なんだ」
「喜多先生? あのトンデモ先生の。四国に超古代文明があったなんてとんでもないことを言っている」
「トンデモとは失礼だよ。一応彼は”南海道伊予國上代神記”研究の第一人者だ」
「でも、あれって古史古伝の一種でしょ? なんでも江戸時代に伊予の某が書いたホラ話を集めたものだと」
「ああ、ホラ話が多いとされているね。でもいくつかは真実らしいというのが喜多先生の見解だ。その見解の一つに今からいく祠の創建伝説があるから、それを確かめにいく。午後から喜多先生も来られるぞ」
「なんか、怪しい話になってきたね。本当に今日中に松山に帰れるのかな。明日遊びに行く約束があるのに」
詩織と弥生は越智の話を信じていなかったので、今日は祠の写真を撮って、元巫女というオバサンが来なくて、夕暮れ時に帰るのだろうと漠然に考えてきた。その時一番後ろを歩いていた大輔が大声を出した。「あれって一体なんですか? 」