その二十六「霧が晴れると」
その時、二人は謎の金属像の中に閉じ込められていたはずだが、空媛尊の声を聴いている時は何故か身体の感覚はなかった。そのかわり深い霧の中を意識が浮遊しているという感覚であった。どうも魂だけが別の空間で漂っていたと言った方が正しいのかもしれなかった。
祠が崩壊、と聞いたときからその深い霧が晴れ始めた。弥生と詩織は自分の姿が見えるようになった。閉じ込められた時と同じ鮮やかな赤と白の巫女装束を纏っていた。しかも空間に対し本当に浮遊していたのだ。そしてもうひとつ姿を現したモノがあった。そう空媛尊だ、しかしその姿は意外なものだった。
「あんたって、さっきの女?」
二人が見たのは天女のような鮮やかな衣装に身を包んだ・・・妙子のようだった!
「あなたたちが言いたいことは分かります。この姿はあくまでイメージですよ。私のオリジナルの身体は遠い昔に朽ち果てて消滅しておりますから。私はあなたがたの文明が言うところのコンピューターのプログラムみたいなものです。どういった存在なのか話せば長くなりますし、本当なら喜多先生が一番知りたかったことでしょうけど。
実は私は祠の下の空間に閉じ込められていたのです。三十年ごとに女性の身体が必要だったのは、私の意志を故郷に送り続けるためだったのです。元々は女性の身体を人身御供にすることで作動して星々を渡り歩く空船に私の身体は収められていたのですが、いまから1800年前にこの地に墜落したのです。
その時、空船の多くの機能が失われたのですが、その一つが人身御供の私の身体です。意識だけは辛うじて機能として残ったのですが、木っ端みじんになって失われたのです。そのあとは、空船に乗っていた人々はこの地の人間と交わり、ある程度の文化水準を持った村落を形成したのですが、知識階級の者が殆ど生き残っていなかったので数世代のうちに失われてしまったのです。唯一残ったのが空媛尊の信仰だけでした。それで三十回目の巫女大祭が今行われていたのですが・・・」
長々とした空媛尊の説明に二人は唖然としていたが、どうも遠い昔に四国のこの地に墜落した宇宙船の航行管理システムの意味ではないかというのは分かった。しかも嘘だと思った超古代文明があったのは事実だという事も知った。
「空媛尊さん。分かりましたが、どうして崩壊なんですか? 今になって?」
詩織は尋ねてみた。それにしても女の身体を必要とする航行システムの宇宙船を生み出した地球外文明というのは意味不明だとも感じていたが。
「それは・・・自己修復システムといえば分かってくれると思いますが、長い年月の間に空船の機能が回復したのですよ! この星にあってはならぬ存在なので故郷に戻らないとならないという訳です。しかし、問題がありますわ」
ためらいがちに空媛尊が言った言葉が衝撃的だった。
「いままで巫女として選ばれた事のある女の二人の身体が必要なんです。もしなければ・・・この空船はこの地で木っ端みじんになりますわ!」




