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07_光って弾ける  作者: μ
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光って弾ける

— 製品紹介 —


ラグジュアリーインテリア ”Jeweletta”


そのボディは、職人の手によって宝石から作られています。


地球にて、古来より人々は宝石に魅了されてきました。

そして月面で、宝石は新たな姿を得ます。


アクセサリーではなく、

息吹を帯びたオーナメントへと。


ジュエルガールは、あなたを映します。

鏡ではなく、万華鏡のように。


あなたの孤独な夜に。

美しい一杯を、Jewelettaから。



Moon Valley Location

Jewel Art Shop “Moonlight Stone”

In the dark.


“Refill.”


The hair radiates greenish blue.

The body reflects the light.

The eyes are like firefly.


“Please wink.”


The air varies.


Flicker.


――Crack.






「あ、レニ」

「ナオキ、今日はキマってるね」

「だろ?僕の一張羅」

古着屋で4000ルカ、とナオキはウインク。

ナオキは小ざっぱりとしたグレースーツに、カーキのジャケットを羽織っていた。ギャルソン姿より、ずっと様になっている。


イースト・ノース街7丁目。

21世紀月面開拓時代からの建造物が積み重なって潰れたコンテナのような街並み。その59番地に、ナオキの経営するセカンド・ハンド・ショップがある。


木や紙でできた骨董品の調度品や文房具。1世代前のウォッチや、アンティークなリニアバイク、カスタムされたミニマムカーなどが、位置を定めて展示されている。


「11:00と12:30に客が品物取りに来る。札があるから、番号で探して」

促されるまま、レニはレジの前に立つ。

「2時間頼むよ。この後予定は?」

「今日はフリー」

「商談が長引いたら延長するかも。遅くなる時は連絡する」

「了解」

ナオキはウォッチを操作しつつ、店内の物の配置をレニに伝える。

「レニ、ランチは?ある?」

「ない」

「パントリーのスナック、適当に食べていいから。ウォーターも」

「ありがと」

「じゃ、店番よろしく」

「いってらっしゃい」

リニアバイクが音もなく出立した。ところどころ音が飛ぶ本物のレコード音の中、レニはレジの紙雑誌を慎重に捲る。





Product Name: Fluorite Girl


Flavor: Sweet and Sour

Polishing form: Straight

Emotion Content: 12%

Raw Ingredients: Tungsten and Fluorite

Voice tone: Glass harp

Category: Radiation of light


Serving Suggestion: Room Temperature in the dark night






「ごめん、レニ。長引いた」

「おかえり。問題ない」

14:30にナオキが戻った。

「はい、コーラ」

「サンキュ」

ボトルはよく冷えている。キャップをひねると、プシュ、と小気味良い音がした。


ナオキがレジ横のボトルクレートに腰を下ろした。彼もコーラを飲んでいる。

「ジュエレッタだった」

「へえ」

「フローライトの子」

「ほお」

「エメラルドちゃんといい、なーんか最近、因縁があるな」

レニは誰にも、モリーのことは話していない。ナオキに他意はないだろうが、レニは内心どっきりだった。

ナオキとナオミくらいにはいつか話そう。そのうち。多分。気が向いたら。

「で、割れててさ。ヒビくらいの深さだけど」

「どこが?」

「顔。額から顎。右目は粉々」

「うわ」

「左目は開いたままで、再起動で動かなかった」

スプラッタな連想に、レニは顔を顰めた。

ジュエレッタは知性も感情もない工芸品だとわかってはいるが、だからこそ胸が痛む。ナオキも似た心境らしく、下がり眉で口を曲げた。

「直すにしても、僕には無理だ」

ナオキは腕のいいメカニックだが、宝石加工は専門外だ。

「ムーンライト・ストーンへは?」

ジュエレッタを製造販売している宝石店。

通称"月の石"は、6区イースト8シティビル街の一画にある。

「帰りに寄って聞いてきた。210モニカってバカ高い修理代。新品を買う方が安い、まである」

モリーが280モニカ。新品で安価な物は200を切る。1モニカ10万エンのEEDの通貨に換算すると、2100万エン。家と車と、4人分の第1区滞在ビザが買える。

「店主さんは、直したがってたけどな。この店にそんな金ないよ」

そんな金額で中古の宝石女を修理し所有する人間は、第3層には1人もいない。

「レニは、今の仕事どんくらい?」

「3年目」

「へー。なんで?」

「やめる理由はないし」

「そうじゃなくて、なんで今日来てくれたのかなって」

レニが首を傾げ、ナオキは瞳をぐるりと回した。彼の瞳は鳶色だ。

「こないだのキャンディ・バーもそうだけど。僕やねーちゃんが頼む仕事、安いだろ?そっちに比べりゃスズメノナミダだ。馬鹿らしくならない?」

「毎日依頼があるわけじゃない。派遣だし」

レニはコーラを煽る。シュワシュワとした黒い液体は砂糖と添加物があまりに濃くて、冷たくなければとても飲めない。

「殺しの依頼なんて、たまにだよ。3ヶ月に1回あるかないか。荷物運びや清掃業務、誰かの代行が、月に10回くらい不定期にあるだけで。それはそんなに稼げない」

ナオキもコーラをごくごく飲んだ。結露が彼の腕を伝う。

「それでも、暮らしに困る給料じゃなくない?いつもレニは働いてるだろ?選り好みせずにさ。不思議だなーって」

「仕事を選んでないわけじゃないけど」

コーラが空になっていた。軽く握ると、ボトルの赤いロゴが歪む。

「旅行資金を貯めてるんだ」

「へえ。どこ?」

「地球」

「あー、納得。そりゃ金がいる」

空のボトルを放り投げる。壁際の屑籠にイン。こういう遊びを、小さい頃によくやっていた。

レニは立ち上がる。

「コーラありがと。帰るわ」

「今日はサンキュー。報酬は1時間以内に振り込むよ。また頼める?」

「仕事がなければいつでもどうぞ」

「了解。またな、レニ」







“I’m home. Mory.”


“I saw Fluorite Girl.”


“It didn’t move. But it emitted light.”


“I wonder.”


Cracked face.

Misaligned right and left.

Like humans.


“Refill, Mory.”


“The best song of the earth.”


Mory stands up.

The smiling face is symmetrical.


“As you like, Leni. It’s my best memory on the earth.”


Voyager Golden Record.

ざっくり設定ですが、舞台は西暦2250年くらいの月面都市で、多民族の階層社会が根深い観光都市です。


レニは日系の祖先が3代前くらいに移民してきたムーンチャイルドです。スラム街ではないけれど、貧困街の生まれ育ちで2人の兄弟は月病で亡くなりました。


天涯孤独になった14歳からアンダーグラウンドで殺し屋稼業をしている女の子です。モリーとの出会い時点で17歳です。


体術や銃火器の扱いは貧困街の元マフィアの盲のおばあちゃんに習いました。その人ももういませんね。

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