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クーラーが聞いたスーパーを出ると、一気に暑さが押し寄せて来た。
「あっちー!とは言うもんの、どこから探したらいいんだ?」
「とりあえず、圭治の家に戻ってみる?」
「うーん、それしかないかな。」
それで、俺たちはバス停に向かって歩き出した。行きにも通った道なので、一之助が先頭を切って歩いていた。その一之助の足が止まった。
「見事な花じゃ、まるで花嫁の様じゃ。」
よく見ると、道の奥の家の庭に白い花をいっぱいに咲かせている木があった。
「ああ、槿の木ね。槿っていう由来も白無垢着ている花嫁さんって意味だもんね。」
するとメグがそう言った。こいつなんでそんな事知ってるんだろう。そう思いながら俺は先を行こうとしたんだが、一之助の足が動かない。名残惜しそうにずっとその木を見ている。
「どうした?行くぞ。」
「お、おう…」
俺が急かすと、一之助はやっと歩き出した。
「ねぇ、あの木になんか思い出でもあるの?」
「いや、初めて見た。だが、ちと思い出したことがあってな…拙者、秋には祝言を上げる予定じゃった。嫁になるはずじゃった女の事をな…」
そう言った一之助の目は遠かった。
「へぇ、結婚すんのか、おめでと。」
その時、俺は考えもなしにお祝いの言葉を吐いた。そしたら、メグに思いっきり腕をつねられた。
「痛ってぇなぁ。」
「バカね、お姫様を逃がさなきゃならない状況なのよ、考えなさいよ!」
あ、それってお姫様を逃がすのが精一杯だったってことだよな。じゃぁ、奥さんになるはずだった人ってもう…
「ゴメン。」
「気を遣わんでくれ。時は戦乱の世、何が起こっても致し方ござらん。」
俺が謝ったら、一之助は無表情でそう言っただけだった。
ズーンと重い気持ちになって、俺たちがまた歩き始めた時、今度はいきなりメグが言った。
「そうだ!プリクラ撮ろう!」
「プリクラ?何で。」
「こんなことなんかもう、2度とないじゃん。だから、記念撮影よ!」
ま、戦国時代の奴とのスリーショットなんて、絶対あり得ねぇけど。今、一之助の格好ってもろ現代人だぜ?!後で誰かに見せたって、信じてもらえないもん撮ってどうすんだ。そう思ってメグを見た。こころなしかメグの目が少し潤んでる。そうか、メグなりに盛り上げようってんだろうな。
「ま、2度とないってか、2度とゴメンだな。」
「そうと決まれば早速戻ろう、スーパー!」
「な、何じゃ戻るのか?忘れ物でもしたのか?」
メグは全く理解していない一之助の背中を押して、今来た道を戻り始めた。
狭いプリクラのブースに3人で入る。
「さてっと、ここにお金を入れてっと…」
そう言いながらメグがお金を入れようとした時、
「金か、それならば拙者が払おう。」
一之助はいきなりそう言いだした。
「良いわよ、私が誘ったんだから、ここは私が払うよ。」
メグは笑顔でそう返した。だけど、それに対して一之助は真顔で、
「いいや、拙者に払わせてくれ。この本山一之助、女子に金を払わせたとあっては男の名折れじゃ。」
「男の名折れって、大袈裟~!」
そうやって、メグと二人どっちがプリクラの料金払うか揉めだした。全く…喫茶店での中年のおばさんじゃあるまいし。時間かかってしょうがないじゃん。俺は息を吸い込むと、
「ちょっと待ったぁ!ここは俺が払う。メグは俺が誘った。俺は男だ。何か文句あるか!」
と言った。
「ござらん。」
「な、ない。」
と二人がほぼ同時に答えた。
「よし、決定!!」
俺は料金を投入口にぶっこんでため息を漏らした。
「一之助、光るけど爆発しねぇからな。」
「先ほどのと同じような箱じゃな。拙者も同じ様なものにいちいち驚いたりせんわ。」
それで、撮る段になって俺が一之助にそう言うと、一之助はそんな風に余裕こいていた。だけど、いざフラッシュがたかれた時、
「か、雷!!」
と予想通り素っ頓狂な声を上げた。俺とメグは大爆笑。
「だから、光るって言ったろ。」
それに対して一之助は、なんか意味のわからない文句をぶつぶつつぶやいていた。
『コノ写真でヨロシイデスカ。』
機械がモニターを映し出す。
「やっぱ、逃げてるよ。」
一之助は何とも言えない怯えた表情になっていた。それを見た一之助は怒るかと思ったら、
「そっくりの絵が!こんな短い間に誰が書いたんじゃ。」
とビックリして目を瞠っている。この写真で決定すんのはちょっとかわいそうかも。そう思って、俺はリセットボタンを押した。
「圭治、何故消した。」
慌てる一之助に、
「コレ、3回までなら撮り直しが出来るんだよ。」
「撮り直しとな?」
「だから、もっかい光るぞ。」
そう言った途端、フラッシュがまた光った。今度は一之助完全に俺の方を向いている状態。
「あ、こりゃダメだ。」
俺は再びリセットボタンに手をかける。
「圭治、ちょっと待て。拙者後ろに回ろう。」
一之助はそう言うと、すばやく俺たちの背後に回り込み、フラッシュがたかれる刹那、やにわに俺とメグの首を掴んで、俺たちの頬と頬をくっつけさせた。
「きゃぁ、何すんのよ!」
「一之助、何しやんだよ!」
俺たちが同時に叫んだ。
「記念なのだろう?では男女は寄り添うが良かろう。」
「だからってどうして私が圭治と…。」
それは俺の台詞だ!とは言え、もうリセットは出来ない。
頬をピッタリくっつけて驚いて真っ赤になってる俺たちと、その後ろでしたり顔で笑う一之助のプリクラが、40秒後取り出し口から現れた。