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夏の花              1

「ねぇ、何か食べない?あたし、お腹空いちゃった。」

買い物を終えた後、メグがそう言った。そういやぁ、もう1時過ぎてる。それで、俺たちはそのスーパーのフードコートに向かった。

「じゃぁ、ソバでも食べる?」

俺は、一之助のカルチャーショックを少しでも避けるつもりでそう言ったが、メグはそれに露骨に嫌な顔をした。

「私、蕎麦屋さんはイヤよ。それならラーメンの方が良いわ。」

「このくそ暑いのに、ラーメンなんか食いたくねぇよ。俺は、ざるそばとかが良いなぁ。」

そりゃ、同じ麺類だけどさ、なんでこのくそ暑いときにそんなもん食わなきゃなんねぇんだよ。それならまだ、ハンバーガーの方がマシだぞ。

「圭治、やっぱり覚えてないんだ、私の事。」

そしたらメグはちょっと悲しそうな顔をしながらそう言った。

「何を?」

「私、蕎麦アレルギー。私を殺す気?」

そっか、そう言やそうだっけ。学校の給食には出ないからそれまでは知らなかったけど、修学旅行の時の蕎麦饅頭事件…試食に置いてあったのを、パッケージ見ずに他の奴がメグに渡した。口に入れる寸前に、買おうとした奴がパッケージ持って「蕎麦饅頭」って文字を声出して読んだから良かったけど。もし食ってたら…良くて入院、もしかしたら死んでたっていう、あの一件…

「…ゴメン、忘れてた。」

「いいよ、フードコートなんだし、みんなバラバラな物食べれば。」

「そう言やそうだな。」

俺はメグの言い分にそう言って頷いたけど、なんか後味が悪かった。それに、結局一之助がたくさんある見たこともない食べ物に興奮し、決められずにメグに右へ倣へしたために、みんなでドーナツを食ったし。

「やはり、甘味は良いな。」

ちょっと気まずくなって少し静かになった俺たちに代わって、一之助が一人はしゃいでドーナツを頬張っていた。


「ねぇ、圭治は何で本山さんと知り合ったの?」

そして、あらかたドーナツを食い終わった後、メグは俺が一番聞かれたくないことを聞いた。

「拙者気がついたらだな、圭治の家の庭に倒れておった。あれよあれよと言う間に服を剥がれ、髪を剃られてな、もう散々じゃ。」

で、俺がどう言おうかと迷ってる間に、一之助がそう言った。

「あ、あれはそうしないと外に出れないからで…!」

俺が慌てて思わずそう口を差し挟むと、メグはくすくす笑い出した。

「何それ、それじゃ圭治、服だけじゃなくて、本山さんの髪まで剃っちゃったの?まさかちょんまげでも結ってたとか言うんじゃないでしょうね。」

「そうじゃ、髷は武士の命とも言うべきものなんじゃぞ。それを簡単に剃りおって。」

メグがそう言うと、一之助はうんうんと肯きながら、俺を横目で見つつそう返す。それを見て、メグはちょっと引いた。そして、俺に近づくと耳元で

「本山さんって、侍口調だけど、マジなり切りなわけ?」

と聞いた。俺はちょっと迷ったけど、

「なりきりじゃねぇよ。こいつマジ侍。」

と答えた。たぶん、メグには隠し通せない。そう思ったからだ。そしたらメグは更に引いた。

「何よ、圭治まで。私をおちょくってんの?」

「おちょくってなんかねぇさ。一之助、アレ、メグにも見せてやってくんない?」

「あれとは何じゃ。」

「ほら、さっきのその…銀判だよ。」

俺がそう言うと、一之助はかばんの中からさっきの銀判を取りだした。メグの目が見開いて固まった。

「これを換金したのがさっきの大金の正体だよ。正真正銘の室町銀判だと。」

「う、ウソ…」

最後まで食べていたメグの残り少ないドーナツがポロリと床に転がった。


俺は、一之助が現れた状況とか、朝からの話を一気にメグに話した。

「でさ、そのお姫様って奴を見つけられたら、こいつ速攻で元の世界に戻れんじゃないかと思うんだ。」

「圭治、見かけによらず、なかなか良いとこあるじゃん。」

話を聞いたメグはそう言った。

「見かけに寄らずは余計だぞ。」

それに対して俺はそう返した。ま、でも本当のところ自分とこで切腹されちゃたまんねぇってのが本当の理由なんだけどな。

「じゃぁ、こんなとこでぐだぐだしてる場合じゃないじゃん。早く探しに行かなきゃ。」

すると、メグはいきなり立ち上がってそう言った。

「探しに行かなきゃって、お前も行く気か?!」

「伊倉殿も一緒に探してくださるのか。」

メグが姫様さがしに参加すると言うと、一之助の顔が一気に綻んだ。服のコーディネートの時と言い、やっぱりこいつ、メグに気があるよな…俺は一之助を睨んだが、あいつはスルーしやがった。

「圭治だってそのつもりで私を誘ったんでしょ?」

「は?!俺がお前を誘った?!」

で、続いてメグから出て来た言葉に俺は目眩がした。いつ俺が誘った!お前が勝手に付いてきただけじゃん。

「ま、良いではないか。仲良く探せばそれだけ早く見つかるやもしれぬ。」

それに対して、一之助はまたにやにや笑いながら、腕組みしてそう言った。大体、お前が姫様を見失わなきゃ良かったんだろーが!俺は、なんか納得できないままスーパーを後にした。


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