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 風呂から上がった一之助に、俺は中学生の妹、雅美のジャージを着せた。176cmの俺のジャージは、160cmあるんだろうかっていう一之助にはがばがばだったからだ。臙脂色のジャージを着た一之助は、初めて見たときより随分若返った。初めて見た時は30歳位だと思ったけど、25歳…もう少し若いか。

俺が、リビングでソファーに座ると、一之助も真似してソファーに一旦は座ったが、沈み込むクッションに弾けるように飛び退き、結局フローリングに直接胡坐をかいて座った。

「俺がこれから話すことを、途中で茶々入れないで聞いてくれないかな。たぶん理解はできないだろうけど、(何せ俺もついていけてるとは正直言えない状態だし)事実として受け止めてくれ。」

「承知した。」

こうなったらどうにでもなれと言わんばかりに、一之助は無愛想に答えた。

「本山さんさぁ、あんたは今、自分の時代から430年未来の時代に居るんだわ。」

「430年未来とな?」

やっぱ解んないよなぁ、と思いつつ無視して俺は先を続けた。

「これを見てほしいんだけど。」

俺はパソコンのディスプレーを指さした。

「これで見ると、天正八年は西暦で言うと1580年になるんだ。そして、今居るのが2010年……あんたが間違いなく天正八年から来たって言うんなら、430年先の時代に居るってことになるって訳。」

「拙者は時を越えたと言うのか?! 信じられぬ。大体、西暦と言うのは何じゃ。」

は?西暦の説明までしなきゃなんねぇの?! まるで日本史の勉強会だよ、これじゃぁ。俺はそう思いながらなけなしの歴史知識をフル稼働させた。

「西暦はまだ一般的じゃないのか。ヨーロッパ…いや、南蛮…あれも江戸時代からの言い方だっけ、ああ、ややこしっ! とにかく異国の暦で、確かイエス・キリストの生まれたのが元になってるとか聞いたけど。」

「イエス・キリスト…ああ、キリシタンの事か。では、高橋殿はキリシタンなのか。昨今キリシタンは雨後の筍の様に増えておる故。430年後ならさぞかしたくさんおるだろう。」

へぇ、そっか…あの頃キリスト教が日本に伝わったんだから。きっと、珍しいもん好きが飛びついたんだろうな。

「別に俺はクリスチャンなんかじゃねぇよ。じゃねぇけど、長い年月を計算するには便利だから、元号も使うけど西暦も使うんだよ。第一元号って年数一定じゃないじゃん。それに、明治以前の元号なんてそもそも知らなねぇぞ。」

ああ、めんどくせぇ。カタカナの言葉はまず間違いなく使えないし、西暦まで使えないって、どうよ…

「とにかく大事なのは、あんたが今、430年先の時代に居るってことさ。」

「何故だ!」

「解んねぇよそんなこと!でも、ここは2010年、それだけは間違いねぇ。」

「そうか、430年先の時代か……して、姫様はどこにおられるのじゃろう。」

ここが430年先の時代だとようやく理解して、一之助は上を向いたままじっとしている。

「その姫様ってのさぁ、元の時代に居るんじゃない?」

「いい加減なことを言うな!」

俺は別に慰めるつもりでもなく、そう言ったら、一之助は間髪いれずに怒鳴った。

「いい加減じゃねぇよ。一緒にタイムスリップしたなら、バラバラのとこに行くなんて考えにくいからさ。」

「タイム……?それは何じゃ?」

しまった! こいつカタカナは一切通じなかったんだよな。解っているんだけど、普通に今まで使ってるから、つい出ちまう。

「時間の壁を越える事を言うんだよ。ずれるように時空に飲み込まれるんだとしたら、一緒のとこに行くだろ、フツー。」

「それはまことか?」

「ああ、たぶん……」

誰もタイムスリップした奴なんか知らないから、確かじゃねぇけどな。

「それで……拙者は元の時代に戻れるのか?」

「解んねぇよ、そんなの。あんたがどうしてここに来たのかも解んないのに。」

「では、姫様はどうなるのじゃ。敵に囲まれても助けて差し上げることもできん。」

 姫様ともはぐれた、それに元の時代に戻れないかもしれないと言うと、一之助はそう言ってわなわな震えた。そして、

「殿、この不肖本山一之助、殿の信頼を裏切り姫様をお守りすること叶いませなんだ。この失態は、詰め腹切ってお詫びを……」

と言って、自分の荷物から脇差を取りだした。おいおい、詰め腹切ってってそれ……切腹じゃねぇかよ!!

「それでは、高橋殿色々と世話になり申した。それでは、御免!」

「ちょっと、ちょっと待ったぁ!!!」

俺は、慌てて切腹しようとしている一之助から強引に脇差を奪い取った。

「何をする!生き恥さらしては、殿に申し訳が立たぬではないか!」

「ここは俺んちだぞ!こんなとこで死なれちゃ俺が困るんだ!!」

「それでは拙者の……」

「だから、ここで死ぬなってぇの!!」

俺、もう限界だぁ~!!

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