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「そうじゃ、こうしてはおられん。姫様を探さねば。高橋殿、それではこれにて失礼仕る。」

 俺が心の中でそう念じていると一之助はそう言い、横にあった大ぶりの槍(!)を手に取り、庭から玄関の方へ回って歩き出した。

 しかし、一旦玄関の方まで行った一之助は、すぐさま庭の俺の方に戻って来た。

「本当にここはどこなんじゃ?拙者はどこに行けば姫様に会えるのじゃ。」

そして、おろおろと俺にそう聞いた。

「んなもん知らねーよ。おっ、そうだ本山さん、今年は何年?」

それは俺の方が聞きたいよ。こんな変な奴早く片付けて、宿題に戻んなきゃ。でも、なりきってても案外そういう時代設定とか甘かったりして…俺は侍にマジなりきりしてる一之助をちょっとからかってみるつもりでそう言った。

「今年か…天正八年だが?」

すると一之助は歴史の教科書で出て来た年号を即答した。ああ、そう来る?でも、天正八年って一体西暦で何年だ?ネットで調べてみっか。

「ちょっと、暑いし中入んない?」

 だから、俺は一之助にそう言った。

「おお、ここは焙烙ほうろくで煎られているのような暑さじゃしな。しかし、家の中はもっと暑いのではないか?」

「焙烙って何?」

「焙烙は焙烙じゃ。豆など煎るであろう。」

「あ、フライパンのことね。」

「そのフラなんとか言うものはどういうものなんじゃ。」

「いいじゃん!とにかく、調べてやっから、中入ろうや。」

 もう、いちいちうるせぇよ!俺は一之助を追いたてる様に家の中に放り込み、窓を閉めてクーラーのスイッチを入れ、ウチで唯一ネットにつながっているリビングのパソコンを立ち上げた。

「おお、この家の中は暑くないのぉ。しかし、ちと寒すぎるのではないか?」

一之助は部屋に入って陣笠を外し、クーラーの冷気がいちばん当たる所にいて、そんなことをぶつぶつ言っていたが、やがてパソコンのディスプレーを見てわなわなと震えだした。

「た、高橋殿! 箱、箱が光っておる。ば、爆発するぞ!」

「爆発?! 普通に起動したぐらいで、爆発なんかしねぇよ。」

俺は震えている一之助を尻目に余裕の笑みでそう言ってやった。

「真実か?」

「ウソなんて言わねぇって。」

俺はそう言いながらキーボードを叩いて、天正八年を検索した。そうか、1580年…と言うと、今から430年前か…


 それにしても、ちょっとこいつ臭くねぇか。締め切ってクーラーなんぞかけたからよけいなのかもしんないけど。

「なぁ、本山さんよ、前に風呂入ったのっていつだ?」

「風呂か?城を出たのが十六夜の月じゃったから、久しく入っておらんの。」

 十六夜の月ってのが一体何日なのか分かんないけど、かなり長いこと入ってないのだけは充分俺にも分かった。だめだこりゃ、まず、風呂に突っ込まなきゃ俺、長時間こいつと一緒にいる自信がない。

俺は一之助を風呂場に引っ張っていき、シャワーを浴びせかけ、シャンプーを頭にぶっかけた。

「うわぁ、いきなり何をする。」

一之助は叫び声を上げたが、俺はそれには答えず、シャンプーを振りかけた頭をごしごし擦る。ダメだ。ちょんまげって、油で固めてんだったな。泡立たねぇ~。それに崩してしまったちょんまげは既に修復不可能……それで、俺はこれが一之助自身の地毛だ言うことを再確認する。もしかしたら、こいつホントにホントなのかもな。


「ええい、ままよ!」

俺は父さんの一発深剃り四枚刃の剃刀を手に取ると、

「あとで、俺で解る状況は全部説明してやっから、とにかく今は俺の言う通りにしてくれっ!!」

そう言いながら一之助の髪を一気にそり落とした。

「動くなよ、動くと頭切れっぞ!!」

「姫様を見失った拙者に、出家しろと言うのか!」

見ると一之助は半泣きになっていた。ちょっとかわいいとこ、あんじゃん。

「そんなんじゃねぇよ。俺の頭見ろよ。今時そんな頭してる奴なんていねぇんだよ。人探しするんだろ?それなら目立つとやりにくいんじゃないのか。」

俺がそう言うと、一之助は黙って俺を睨んだ。俺がやったんだが、スキンヘッドの奴に睨まれると、半端なくコワイ。

 いつのすけ、俺のが、泣きそうだよ。


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