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姫様を頼む(後編)

 俺の部屋に入った後、俺はメグを勉強机の椅子に座らせ、俺はベッドに座った。そして、徐に、

「覚悟して聞いてくれ、今朝トラックに当たったのは俺じゃなくて一之助だ。」

と言った。

「ウソ!それで今本山さんは、病院にいるの?」

「いや、それだったら俺だって、お前をすぐに病院に呼ぶさ。消えたんだ。」

「消えたって……」

メグは口に手を当てて震えている。俺は立って、そんなメグの肩に手を置いた。メグは顔を上げて俺をじっと見た。

「どっかーんと上がった打ち上げ花火みたいにさ。おまけに一之助がぶつかった跡がどこにもないしさ。周りにいたみんなも俺一人が助けたってことになってさ、俺はトラックのとこまで行ってないってのに、念のためにって検査されるしさ。」

俺はためいきをついて、それからクローゼットを勢い開いた。

「ここにさ、一之助の荷物全部ぶっこんでたんだぜ。なのにさ、帰って見てみりゃもぬけの空だよ。まるで昨日からのことは夢みたいにさ……」

俺は拳を握りしめ、必死で涙を堪えていた。

メグはその話を茫然と聞いていたけど、

「あ、プリクラ!」

と言うと、突然跳ねるように自分のバッグを漁って自分の手帳を取り出した。そして、必死に一之助と3人で撮ったプリクラが貼ってあるページを探す。

「な、何で? 何でなのよぉ……」

メグはやっと見つけたそのプリクラを見て、ぼろぼろと涙を流してそう言った。

――そこには後ろでしたり顔をして写っていた一之助の姿はなく、ピッタリと頬を寄せ合って照れまくる俺とメグとのツーショットが――

「そうか……こんなとこまで消えなくて良いのにな、あいつ、ホントにバカ野郎だな……」

俺もそこでついに堪え切れなくなって、泣いてしまった。

「ねぇ圭治、じゃぁ、本山さんは何でココに来なきゃならなかったの! こんなの悲しすぎるよ。」

メグはプリクラを握りしめたまま震えていた。そんなメグの頭を撫でながら俺は言った。

「……それだけどな、一之助はたぶん、お前に会いたかったんだと思う。」

「私に?!」

メグは驚いて顔を上げた。

「たぶんだけどな。一之助はもう元の世界でも死んでんだよ。お姫ちゃんを守りきれないことが未練で未練で、お姫ちゃんと同じ名前のお前とその子を助けに来たんだと思う。助けた女の子の名前、亜実ちゃんって言うらしいんだ。亜細亜の亜に木の実の実で亜実。」

「だけど、私の名前は、あみじゃないわ!」

「漢字だ。今、パソで変換して気付いた。お前の名前って、あみとも読むんだよ。だから、同じ名前の亜実ちゃんと同じ漢字のメグを両方助けようとしたんだ。」

「でも、私の何を助けようって言うの?」

もう一人の姫が自分だと聞いたメグはそう言って首をかしげた。

「解んない。でも、一之助の持ってる時間じゃきっとそれは足りなかったんだ。だから、俺のとこに来たんだ。俺にそれを引き継いでもらうためにな。」

「引き継ぐ?」

俺にも、どうしたらメグが助かるかなんて分からなかったけど、俺は俺が出来る事をしようと思っていた。

「なぁ、俺たち付き合わねぇか。」

「本山さんに頼まれたから付き合うの?なら……ヤダな。」

俺がコクると、メグはそう言って瞬殺した。

「そっか……ヤならしょうがねぇか。」

何でもないふりして、俺は返したけど、実際はかなり凹んでいた。結構一大決心して言ったから、俺。ホントの事を言うと、俺はメグの事を小学生のころから好きだった。で、この際だからって思ったんだが、他人の尻馬に乗るなんてやっぱダメか、そう思ったその時……

「義務なんかで付き合って欲しくないわ。だって私、マジで圭治のこと……好きだもん。頼まれてなら、ヤダ。」

そう逆にいきなりメグにコクられしまった。こういうのを『据え膳食わぬは男の恥』とか言う?俺は、

「メグ……義務なんかじゃねぇよ。俺がそうしたいんだ。俺もずっと前からお前のこと……だから。」

俺はそう言って、メグを自分に引き寄せて抱きしめた。なんて言うと余裕こいてるように聞こえるかもしれないが、もう心臓は口から出そうだったし、足はガタガタしてた。

「ホントに? なら付き合う。」

メグはそう言って泣きながら俺の胸に頭を付けた。


 一之助、後は引き受けたぞ。


 ところが、俺たちが付き合い始めてしばらくして、メグの親父さんがアメリカに転勤することになった。親父さんはメグにどうせなら留学するつもりで一緒に来いと言った。メグは散々迷った末、その父親の提案を聞き入れてアメリカに旅立った。

それでも、俺たちは手紙とスカイプで付き合いを続け、8年後戻ってきたメグとその2年後に結婚した。

 たぶん、一之助とのことがなければ、メグとは違う高校に行っていた俺は、メグがアメリカに旅立ったことも知らず、別々の人生を歩んでいただろう。あいつの事を助けるつもりで、結局俺たちが助けられていたんだと今になって思う。





――2025年、夏…――


 庭でもうすぐ4歳になる娘の泣き声がした。

「どうした?アミ。」

「一之助がひっぱるぅ。」

「そりゃ、アミが危ないことするからだろ?」

「アミちゃん危なくないもん!」

すると、アミは頬を膨らませて、そう言った。けどお前、この前も一人でいなくなったばかりだろ。

「一之助、このおてんば姫のお守は大変だな。いつもありがとうな。」

俺がそう一之助に言うと、一之助は満足げに、

「ワン!」

と一声吠えた。


                      ――完――

以上で本編はおしまいです。


ですが、次回……ちょっとしたおまけを用意してます。


よろしければもう少しお付き合いください。

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