どっかーん!!(前編)
朝、俺はいつもより早く起きると、新聞を隅々まで(特に三面記事を)読んで、テレビのニュース(ケーブルテレビのももちろん)見たが、お姫様らしき女の子が保護されたという情報はどこにもなかった。
「お姫ちゃんはやっぱこっちに来てないんじゃない?三つ四つのガキ……いや、お子ちゃまがさ、新聞にもテレビにも載らないなんてことあり得ねぇよ。」
俺は、父さんと母さんを仕事に送り出した後、早速息巻いて姫様を探すとギャーギャー言う一之助に言った。俺の発言に一之助は黙ってものすごい顔で睨んだ。
「睨むなよ、もうちっとしたらメグから連絡も入ってくっから、そしたら出かけようぜ。」
それをなだめるつもりで俺は言ったんだが、その言葉に一之助がキレた。
「では何故、拙者はこの時代に紛れ込んできたと言うのか!その方らの戯言に付き合うためか?!」
俺も、いい加減どうして良いのか解んなくて、一之助のその言い分を素直に聞けなくなっていた。
「戯言?! 何だよその言い方! お前がタイムスリップしたのは俺のせいじゃねぇだろうが! こっちだって宿題しなきゃなんねぇのも横に置いといてお前と一緒に行動してんだぞ!!」
「では、もう頼まぬ。拙者一人で探す故、色々と世話になったな。」
そう言うと一之助はつかつかと外に歩き出して行った。
「おい、待てよ。」
俺が追いかけようとすると、携帯がなった。メグからだ。
『あ、圭治、待ち合わせ何処にする?』
「今、一之助が勝手に出ちまってよ。ちょっと一之助、待てってんだよ!! ゴメン、後で連絡するから。」
俺は一方的にそれだけをメグに言った後、携帯を切って一之助を追いかけた。
「待てったら!!」
一之助は俺の声に返事もせずにどんどん歩いて行く。
「言い過ぎた、あやまるから。けどよ、無闇に探したって見つかるってもんでもないだろ。」
続けてそう言った俺の言葉に、振り向いた一之助は泣いていた。
「しかし、探さねば絶対に見つからん! 姫様は今頃見知ら世界で泣いてるやも知れぬのだぞ。拙者一人がぬくぬくと他人の世話になっている間も!!」
あの時代の男が人目を憚らず泣くってことは相当な事だっては俺にも解った。でも、解ったってどうすることもできない事だってある。俺はぐっと唇を噛みしめて俯いた。
――ああ、どうしたら良いんだよ、まったく……
でも、――俺が一之助から目を離した――その時だった。
「姫様!姫様!!」
突然一之助がそう叫んで走り出した。見つかった?! 一之助が走って行く方向を見ると、三~四歳の女の子がボールを追いかけて今まさに、大通りに出てしまう所だった。しかも、向こうの方に大型トラックがいる!!
「危ない!!」
一之助は間一髪で女の子にたどり着き、抱き上げると、
「圭治、姫様を頼む!」
と、後から追ってきた俺めがけてその女の子を投げてよこした。俺は慌てて何とかその子を受け止めた。
そして……
ダメだ!トラックに轢かれちまう!! 俺がそう思った瞬間、一之助の姿は光が弾けるように消えてしまったのだった。