黄色い自転車
美根我は、自転車で、富士枝と乗る夢を見た。しかし、現実には、そのような事はしていない。黄平洋戦争が始まると、自転車は、贅沢品になり、軍人以外が所有するのを違法化したからだ。そして、保健室の寝台で、目覚めた。
「お父ちゃん、お早う」と、富士枝似の少女が、挨拶をした。
その瞬間、「こ、これは、夢じゃないのか…?」と、美根我は、両目を見開いた。まるで、富士枝に話掛けられている感じだからだ。
「お父ちゃん! しっかりして! 私は、逗子よ!」と、少女が、名乗った。
「逗子…?」と、美根我は、冴えない表情をした。聞き覚えは在るのだが、妙に、しっくりと来ないからだ。そして、「うう…。頭が…」と、頭を抱えた。急に、頭痛がたからだ。
「頭が痛むの?」と、逗子が、背中を擦りながら、心配した。
「何かを思い出そうとすると、急に頭が…」と、美根我は、告げた。自分の名前だけは分かるのだが、富士枝の事を気に掛けた途端、急な頭痛が生じたからだ。
「無理はしないで。三日も、寝込んで居たんだからね」と、逗子が、口にした。
その瞬間、「み、三日もですか!」と、美根我は、驚嘆した。そして、「風邪か、何かで…?」と、逗子を見やった。理由が知りたいからだ。
「三日前、自転車越しに、校庭の黄桜の傍で倒れて居たのよ。それから、先刻まで、意識不明だったのよ」と、逗子が、経緯を語った。
「なるほど。だから、自転車に乗った夢を見たんですね」と、美根我は、納得した。夢の謎が、判明した。
「きっと、模罹田達に違い無いわ。あいつら、性根が腐ってるからね!」と、逗子が、毒づいた。
「滅多な事を言ってはいけません。例え、そうだとしても、確たる証拠が無いと、返り討ちに遭いますからね」と、美根我は、窘めた。憶測で、決め付けられないからだ。
「はぁ~い」と、逗子が、生返事をした。
そこへ、「お父さん、大丈夫ですか?」と、後頭部の長い男が、現れた。
「林羊史さんに、運んで頂いたのよ」と、逗子が、告げた。
「こ、この度は…うっ!」と、美根我は、顔を歪ませた。今度は、更に激痛だからだ。
「江来さんを呼んで来るわね!」と、逗子が、退室した。
その直後、「現場を見られたから、消えて貰う!」と、林羊史が、豹変して、短剣を抜くなり、振り上げた。
「させないでござる!」と、黄色い自転車が、飛び込むなり、林羊史へぶつかった。
その瞬間、「犯人は、お前だ!」と、美根我は、記憶を取り戻すのだった。




