棘のないヤマアラシ
棘がないヤマアラシ
雪の降る森の奥に、ハリーという名前の小さなヤマアラシが住んでいました。
他のヤマアラシたちはみんな、背中に鋭い棘をびっしり生やしています。寒い夜にはみんなで寄り添って、棘を立てないように気をつけながら体温を分け合います。少し痛いけれど、それでも温かい。みんなそうやって冬を越してきました。
でもハリーには、棘が一本もありませんでした。
生まれたときから、背中はつるつる。ふわふわの毛だけしか生えていませんでした。
ハリーはみんなと一緒にいたいと思っていました。でも近づくと、他の子たちの棘がハリーの体にぐさぐさ刺さります。離れたくないのに、痛くて泣きながら逃げ出すしかありませんでした。
「ごめんね、ハリー……こっちに来ないでくれると助かるんだ……君を傷つけたくはないんだよ」
みんなは申し訳なさそうに言うけれど、結局ハリーはいつも一人で震えて眠るしかありませんでした。
近づけば自分が傷つく。離れれば寒くて死にそうになる。僕はずっと孤独でいるのかな。
ハリーは思いました。
「僕、みんなと一緒にいられないんだ、みんなと違うから。」
ある吹雪の夜、ハリーはもう限界でした。体が冷えきって、動けなくなって、雪の中にうずくまっていました。
そこに、一匹のヤマアラシが駆け寄ってきました。名前はトゲ。ハリーの一番の友達でした。
「ハリー! 生きてるか!?」
トゲは自分の体をハリーにぴったりくっつけて、必死に温めてくれました。トゲの棘がハリーの体に刺さる。でもトゲは離れようとしませんでした。
「トゲ…痛いよ…離れてよ……」
「バカ言うな。俺はお前が死ぬ方が痛い」
トゲは泣きながら言いました。
その夜、ハリーはなんとか生き延びました。でもトゲの体は、傷だらけになっていました。
トゲも身体がボロボロになりました。
翌朝、トゲは森中を探し回って、あるものを集めてきました。
硬い松ぼっくり、木の枝、……それらを丁寧に削って、小さな棘の束を作りました。
「ほら、これを背中にくっつけてやる。」
トゲは木の樹脂で1本1本、ハリーの背中に棘をつけていきました。痛かったけれど、ハリーはじっと耐えました。
全部つけ終わると、ハリーの背中には立派な棘が並んでいました。
「これで……お互い様だな。」
トゲが笑いました。
その冬から、ヤマとトゲオはいつも一緒にいました。
近づきすぎるとお互い痛い。でも離れすぎると寒い。
だから二人は、少しだけ離れて、でもちゃんと温もりが届く距離を探しました。
ときどき棘が当たって「いたっ!」って言い合ったりもしたけれど、それでも笑い合いました。
ハリーは気づきました。
完璧に傷つかない距離なんてない。
完璧に温かい距離もない。
でも、傷つきながらも温め合える距離がきっとある。
棘があっても、なくても。
大切なのはお互いを傷つけたくないと思う気持ちと、それでもそばにいようとする勇気なんだって。
雪が解ける頃、ハリーの背中の棘はもう樹脂ごと抜け落ちていました。
でもハリーはもう、一人で震えることはありませんでした。
トゲがまた新しい棘を作ってくれるから。
他のヤマアラシの仲間も、ドングリを拾ってきたり、尖った石を持ってきてくれました。
みんなはちょうどいい距離で、寄り添って
いつまでも仲良しに暮らしました。
ヤマアラシのジレンマから。




