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09 ビビりな紙芝居

 とはいえ、何か具体的なプランがあるわけではない。俺はノインの話を詳しく聞きながら、計画を立てることにした。


「仕事じゃなくても、何か好きな事とかある?」

「うーん、本を読むのは好きかもしれません。後は書くのも」


 ほう、小説家か。もしそれで生計を立てることが出来れば何とかなりそうではある。


「昔、自分が書いた小説を小さい子たちに発表する機会があったんです。そのときは楽しかったな」

「あれ、小さい子相手だと緊張しないの?」

「特にないですね。自分が話し手という役割だったからというのもあるかもしれません」


 なるほど、ひとまずノインを知るためにも、俺はある提案をした。


「君の書いた小説、僕も読んで良いかな?」

「え、はい! もちろんです」


 ノインはまた目を輝かせた。やはりうれしそうだ。ノインは宿に帰り、いくつか小説を持ってきてくれた。


「ありがとう。ひとまず読んでみるから、また2日後にでも来てくれ」

「分かりました!」


 こうして俺は、ノインという人間理解の為に彼の書いた小説を読むことにした。



 彼の書いた小説は確かに面白かった。ただ、すでに紙が多く普及しているこの街に小説家は大勢いる。埋もれてしまう可能性も高く、小説家だけを目指すのは厳しいだろうと感じた。


 ただでさえ、昔から魔導書や剣術指南などを紙にまとめてきた文化だ。文字に関しては、おそらく現世よりも発達、普及していた。


 彼の小説を読んで感じたことは他にもある。彼の書いた小説は確かに面白いが、アクションが多く文字だと伝わりにくい描写が多かった。


 例えば剣を振るう動きについて、何度も「ギュイン!」と書かれていて、読んでいると混乱する。


 一方で、挿絵はいい意味で気になった。


 ノインは小説内に登場するキャラの外見や風景などを、現行の隅に小さくメモ程度に書いていた。この絵のレベルはかなり高い、俺はそう確信した。


 ノインの小説を読み終わって、俺の中ではある1つの考えが脈打っていた。これは上手くいくかもしれない……ノインにどう伝えるかが、唯一の課題だった。



 ノインの小説を読んでいる期間、他に何もしていなかったわけではない。もう1つの依頼を解決するため、俺はハーレントの宿を訪れ様子を伺った。


「あら、いらっしゃい」


 ハーレントはいつもと変わらない様子で受付に座っていた。俺は許可を取り、宿の中をくまなく見せてもらった。やはり掃除が行き届いていないこともあり、埃っぽさは変わっていなかった。


「これが最近のお客さんの数だよ」


 一通り回った後、ハーレントが帳簿を見せてくれた。お客さんはノインの1人だけだった。団体客でも入らない限り、基本的に赤字らしい。


 料金を上げようにも、客足が完全に途絶えることは見えているとハーレントは諦めた調子で言った。


「喉乾いただろ、何か飲み物を探してこようか」

「お構いなく」

「何言ってんだい、ちょっと待ってな。……いたたたた」

「大丈夫ですか?」


 立ち上がった瞬間、ハーレントが腰を押さえた。声は明るいのに、腰を押さえる手は震えている。


「もう腰がやられててねぇ。現実的にも厳しいのさ」


 ハーレントは1人になってからもかなり無理をしていたらしい。今までの苦労もたたって、すでに体にはガタが来ていた。


「まぁ、綺麗になった宿をもう一度見られたら嬉しいんだけどねぇ」


 帰り際、ハーレントはそう呟いていた。ハーレントの目線の先には、昔の宿の写真があった。そこでは床も壁もピカピカだったが、何よりも女将と旦那さんの笑顔が輝いていた。



 2日が経ち、ノインがまた事務所を訪れた。ドアを開けるとまたヒィィィ!!とビビっていたが、もう慣れたので俺はあまり驚かなかった。


「小説、全部読ませてもらったよ。面白かった」


 俺が小説の感想を伝えると、ノインは安堵したようだった。昔出版しようと持ち込みをしたが、メッタメタに言われたことがあるらしい。そりゃビビるよなぁ。


「気になったことを聞いても良いかな?」

「はい、なんでしょうか?」

「君、もしかして絵得意?」

「得意かは分からないですけど、小さい頃1人でいることが多いのでよく暇つぶしに書いていました」


 俺はそれを聞いて、ある1つの提案をした。


「絵を使って話を作ってみるのはどうかな?」

「絵、ですか……」


 ノインはあまり理解できていない様子だった。それもそのはず、この世界には一応紙芝居はあるものの、どれも簡易的なもので小説に比べてあまり人気が無かったからだ。


「紙芝居のクオリティを更に上げたものを、君が作るんだよ」


 いわゆる漫画である。俺は現世で漫画を読み漁っていたので、作り方も大体わかるしアドバイスも出来る。もちろんプロのようには無理だが、それでも今よりクオリティを上げることは容易だろう。


「なるほど、じゃあちょっと作ってみます」


 俺はノインと協力して、ひとまず短編の小説を紙芝居として作ることにした。



「ここはどうすればいいですかね?」

「ギュインっていう音を書き込んじゃって良いと思うよ」

「そんな方法が!?」


 現世の知識の受け売りだが、相手はそんなことなど知らない。俺はとても頭が良い奴として、ノインに崇められた。


 そんなこんなで数日かかって無事に完成し、そのクオリティはかなりのものだった。


「セリフがついてる紙芝居なんて初めてです。これは面白いですね!」

「足りないところは補足して説明もできるしね。子どもたちも喜ぶはずだ」



 翌日、俺とノインは試しに街で紙芝居を披露してみた。すると何人か子どもたちが集まってきて、その反応は上々だった。


 特にバトルシーンでは子どもたちは拳を握りしめ、「やれー!」と声をそろえて叫んだ。ノインだけでなく俺も嬉しさに満ち溢れていた。


「めっちゃ面白い!」「僕他のも見たい!」


 しかしノインが2作目の希望を子どもたちから聞いていると、街を裂くように突如大きな怒鳴り声がビリビリと響いた。


「おめぇら! 誰に許可取ってここで紙芝居なんかしてんだ!!」


 なんか怖いおっさんに追いかけられた。どうやらこの世界では、私有地がかなりしっかりと設けられているらしい。いわゆるストリートミュージシャンのような存在は忌避されていた。


 まずい、紙芝居が自由にできないとなるとこの計画は頓挫してしまう。


 ひとまず俺たちはおっさんを撒き、事務所へと逃げ込んだ。しかし帰ってきたところで、この問題が解決するわけもなく2人で頭を抱え込んでいた。


ピンポーン。


「邪魔するよ」


 ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴り、ハーレントが来た。俺玄関開けてないのに勝手に入ってきたな。


「あら、あんたも来てたのかい」

「あ、はい」


 ハーレントとノインは、女将と客の関係である。念のため、それぞれの依頼内容を言うことは避けていた。


「実はあんたに謝らなきゃいけないことがあってねぇ、あの宿、畳む予定なんだ」

「そうなんですか……でもそれは仕方ないですね。お体は大丈夫ですか?」


 ノインはハーレントが体を痛めていることも理解していた。


 住む場所が無くなるかもしれないのに、相手の心配をするノインはやっぱり心が美しいな……もし家がない俺だったら、普通に焦ってキレてると思う。


「そういえば、あんたは何の依頼でここに?」

「僕は……」


 2人が話している間、俺は考えていた。


 かなりいいと思ったんだけどな、漫画紙芝居。でも場所がなぁ……。俺はジッとうずくまり思考を巡らせる。きっと何かいい方法が——


(「売るなら綺麗にするのに金と労力が……」)

(「几帳面な性格で……」)

(「お前ら、誰に許可取って……」)


 今までの皆の言葉が波のように頭に入ってくる。しかし、もうすぐで何かがつながる……!その感覚が思考を支えた。


几帳面なノイン+掃除の行き届いていない宿+紙芝居をやる場所


 ……繋がった!ピースがはまった瞬間、頭の中が電流で貫かれる。


「これだ!!」


 俺は急に立ち上がった。ハーレントとノインは頭がおかしくなったのかと怪訝な目で俺を見た。


「ど、どうしたんですか?」


 ノインの問いかけに俺は大きく頷く。2人はまだ俺を気持ち悪い奴として眺めている。深呼吸をして俺は言った。


「この世界に映画館を作ろう!」


お読みいただきありがとうございます! レイジが突如考えた奇策とは!?

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