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25 再帰

「……ん」


 俺が目を開けると、光が入ってきた。周囲がぼやけてよく見えない。あれ、俺どうしてたんだっけ。


「目を覚ましたぞ!」


 男の声が聞こえる。敵か? 俺はすぐに態勢を整える。その瞬間、ぐわんと世界が歪み視界が揺れる。


「まだ起きたばかりなんだから無理しないで!」


 2人の男に支えられ、俺はなんとか周囲の状況を確認できた。


 見慣れない場所、そしてそこには一緒に避難してきた住人たち。それとは別に、知らない人たちが皆を介抱していた。


「あの、あなたたちは?」

「俺たちは隣町のもんだ。噂は聞いてるよ。よく無事だったな!」


 トンネルの抜けた先は目的地の隣町。とはいってもかなり距離はあるため、タツキからの襲撃を受けることも無いだろう。


「……そうだ、ランスたちは!?」


 俺は周囲を見渡すが、ランスの姿はない。グレゴリー、ミゼル、ラウド、ジャムの4人もは行方不明のままだった。


「レイジさん!」

「フィオナ! 良かった無事で……」


 一緒に避難してきた面々は無事だった。しかしそれでも、生き残った人数は全体の3分の2ほどに減ってしまった。


「ランス達の情報は伝わってないかな?」

「先ほどコルアさんが外に出て行ったので何か知っているかもしれないです。ただ、焦っているようでした」


 俺は不吉な予感がして、すぐにコルアの元へと飛んで行った。コルアは軒先で、なんどもギルドカードをいじっているようだ。


「……コルア?」

「あぁ、レイジか」


 コルアはまだギルドカードをいじるのをやめない。俺も横で眺めていたが、暫くして諦めたようにカードを放り投げた。


「……駄目だ」

「コルアは何してたんだ?」

「一度でも同じパーティーを組んだ人なら、ギルドカードで生存確認が出来るんだ」


 その言葉に、俺は息をのんだ。グレゴリーを除く4人はコルアとパーティーを組んだことのある人間だったからだ。


「それで……どうだったんだ?」

「ミゼル、ラウド、ジャムの生存は確認できた。連絡はまだ取れないけど。ただ……」


 そこで言葉を詰まらせて、コルアは喋らなくなってしまった。嗚咽で言葉が出せないのだ。俺もすべての事情を察した。


「じゃあ、ランスは……」


 コルアは静かに首を横に振った。ギルドカードはたとえ相手が洞窟にいても通信が滞る事は無い。可能性を探るが、何も思い当てることはできなかった。


 俺の中で彼との思い出が走馬灯のように駆け巡る。最初に助けてくれてから、助手になり今まで……。涙が止まらなかった。一度はクリアになったはずの視界がぼやけていく。


「……俺たちを逃がした水魔法はおそらくランスのものだ。あいつ、魔術にも長けてたからな」


 ランスの笑顔が頭によぎる。すべてにおいて彼は完璧だった。最初に死んでいい奴じゃなかった。


「……ランス」


 ジリリリリ!!!


 俺が呟くと同時にコルアのギルドカードが鳴った。すぐにカードを拾い、発信元を確認する。ミゼルからだった。俺たちは涙を拭って電話に出る。


『……よかった、無事だったのね!』


 ミゼルの声は明るかった。しかしどこかか細くも感じた。息切れも激しい。けがをしているのだろうか。俺たちはひとまず、多くの人が無事に避難できたことを伝えた。


『そう、ランスのお陰ね』


 ミゼルはため息交じりにそう言った。後ろではラウドが大泣きしている声が聞こえる。


「ミゼルさん、いったい何があったんですか?」


 俺は意を決して聞いた。ランスが俺たちを逃がしてくれたなら、知っておく必要がある。彼の最後の勇姿を。


『私たちも彼に救われた。あのとき、誰もが死ぬと思っていた。ランスのとっさの判断で、私達は生き延びることが出来たのよ』



 ミゼルは敵の攻撃で気を失い、その間に何があったのかはあまり覚えていなかった。しかし、グレゴリーに担がれたことで意識を取り戻す。


 グレゴリーの背中越しに見えたのは、滝つぼのような大きな水流。そしてその中心にいるランスだった。何を話しているのかは聞こえない。しかしタツキが焦っている顔が見えた。



『私が知っているのはそこまで。グレゴリーさんによれば、火と水の魔法を組み合わせて水蒸気爆発を起こしたらしいわ』


 そんなことをすれば自分の命はない。ランスはそれをわかって全員を逃がしたんだ。


 グレゴリーは違う方向に飛ばされたジャムを探しに行っているが、生存反応もあるし問題は無いだろう。


「ランスは最後まで、俺たちを考えてくれてたな……」


 コルアが泣きじゃくっている。俺もつられて涙を流すが、いつまでも泣いてはいられない。


「早く行かないと」

「行くって、あそこにか!? せっかくランスが逃がしてくれたのに」


 現場に向かおうとする俺をコルアが必死に止める。しかし、タツキの遺体を確認しないことには安心できなかった。それに、ランスが最期に俺に伝えたこと、「まだ小瓶は使うな」の意味を再確認したかった。


『私たちが行くから! レイジ君たちは来なくていいよ!』

「ミゼルさんも怪我してますよね? 声がかすれていますし、他のメンバーもかなり重症なんじゃないですか?」


 俺の質問にミゼルは口をつぐんだ。あれだけの戦い。きっと全員が満身創痍だったに違いない。だからこそランスは、自分を犠牲にして他の皆を逃がそうとしたんだ。


「俺は1人で行きます。ミゼルさん達は回復次第、すぐに隣町へ向かってください」


 俺はコルアに皆の指揮を任せて、準備を整えた。



「私も行きます」


 街を出る寸前、俺を呼び止めたのはフィオナだった。


「なんで……」


 コルア以外誰にも言っていなかった。心配を掛けたくなかったからだ。


「裏に隠れて、話を聞いていたんです。コルアさんの様子がおかしかったし、レイジさんも何かを察していそうだったので」


 フィオナは風魔法の調整を行いつつ、こちらへと歩みを進める。周りには誰もいない。


「俺はあなたに死んでほしくないんです」


 本心からの言葉だった。タツキが死んでいるとは限らない。何かの力を使って耐えている可能性だって考えられる。


 倒さなければ危険は消えないし、アーノルドたちの行方も知りたい。俺は自分のために行くんだ。


「言っていませんでしたが、俺は転生者です。この世界に来て、ランスを含めたたくさんの人達に助けて貰いました。俺がもし死んでも、この世界は何も変わらない」


 俺がそう言い切った瞬間、フィオナが手を振った。その風圧で、俺は叩かれるように吹っ飛んだ。


「いった……フィオナ?」

「バカじゃないですか? あなたが死んで悲しむ人は大勢います! 転生者とか関係ないです! 私はその可能性を少しでも下げたいから付いていくんです!」


 フィオナは力の限り叫んだ。声が外部に漏れないように風のバリアを張っているところはさすがだ。俺は返す言葉も無かった。彼女たちの気持ちを考えていなかったからだ。


「私のほうがよっぽど独りよがりですよ。これでも文句ありますか?」


 フィオナはそう言うと笑って俺に手を伸ばしてきた。本当にいいのか、俺の心は揺れ動いた。しかし目の前のフィオナを見ると、彼女の事を信じたくなった。


「分かった、行こう」


 俺はフィオナの手を取り、ランスのいる元へと立ち戻った。タツキの手下か弱ったタツキ本人か、まだ終わっていないのは予想がついていた。


 しかし、俺の想像はちっぽけであったことを突き付けられるのは、現場についてすぐだった。


「……暗いですね」

「もう少しで着くはずだ」


 俺は小瓶で松明を作り進んでいく。魔力の消耗は極力抑えたいので火は小さめだった。水浸しになった地面をゆっくりと進んでいく。あるところで、足場が急に硬くなった。


「なんだ、これ……」


 暗いとよく見えない。地面に手をつけると冷たい感触が残る。氷だった。


「なんですか、これ?」


 フィオナは氷の存在を知らないようだった。そんなことがあるのか? 俺は疑問を感じるが、今までを思い起こすと確かにこの世界で氷を見た事は無かった。


 気候が一定だからだろうか。それとも氷という概念がないのか。


「これは氷。水の温度が下がって変化したものだ。触ると冷たいし、滑るから気を付けて」


 俺は先導して進む。フィオナも歩いていくうちにだんだん慣れてきたようだった。


「……止まって」


 俺はフィオナに忠告する。何かが聞こえた。フシュ―、フシュ―と呼吸のような音が洞窟全体に反響する。


「何だ、あれ……」


 俺たちの先に見えたのは、大きな氷の塊だった。近くに人の姿はない。もちろんランスも。氷に近づいていく。


 すると、ピキッという音が洞窟に小さく響いた。暗くても分かる。そこには何かがいた。氷の塊に、ヒビが入る。


「あーあ、やってくれるなぁ」


 ヒビが広がっていき、中から出てきたのはタツキだった。それも、無傷。外に出てすぐ、タツキの目は俺たちを蛇のように捉えた。


「あれ、君たち逃げたんじゃなかった?」

「ランスは……?」

「あいつには困らされたよ、なかなか切れる奴だったね」


 氷の塊が大きな音を立てて崩れる。タツキの威圧感と相まって、皮膚に冷たい空気が突き刺さる。


「君たちホントに邪魔だなぁ、手加減しないよ?」






お読みいただきありがとうございます! 最終決戦はここから。果たしてタツキを倒す方法はあるのか...。

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