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15 魔法の扉は埃っぽい

「……なんだ、ネズミか」

「チュー!!」

「あっちへ逃げたぞ! 捕まえろ!」


 ふぅー、あぶねぇあぶねぇ。俺はなんとか、持ってきたネズミを囮にして撒くことに成功した。俺が隠れた部屋にも、人は居ないようだった。


「ん? ここは……」

『レイジ君、大丈夫か?』

『ちょっと油断した。以後気を付けます』


 俺は部屋を出て、気を取り直して進む。ランスは俺についているGPSで場所の指示は出せるが、敵の数や配置は分からない。


 GPSや通信機はこの世界には無かったが、魔力を使えば可能ではないかと俺は考えていた。



「通信機、ですか……」

「フィオナさんの能力を使えば、自分の声を決まった相手だけに届けることが出来そうじゃないかな?」

「やったことはないですが、行けると思います」


 フィオナの魔力を俺の小瓶に入れることで、無事連動させることに成功した。ランスも剣の鞘にフィオナの魔力を溜め込み、俺の小瓶と同じように使用すること出来るようになった。


「同じ魔力を連動していれば位置情報も分かるはず、これでGPSの完成だ」

「レイジ君、GPSってなんだい?」

「えーっと、位置情報が分かる仕組みのことをそう呼ぶって聞いたことがあるんだ!」

「ふーん」


 かくして俺たちはこうして上手く連携を取ることが可能になっていたのだ。



 俺はなるべく警備が手薄そうな場所を進んでいく。入り組んだ廊下、俺でなきゃ迷っちゃうね。


『こちらフィオナ、聞こえますか?』


 暫くして、フィオナからの通信があった。人の声も徐々に聞こえるようになってきたので、ここからはフィオナの助言も考慮しつつ進んでいきたい。


『聞こえます』

『レイジさんの現在地から、もうしばらくまっすぐ進んでもらうと広間への廊下になります。そこは警備がウロウロしているので、その前の角を左に曲がってください』


 まっすぐ進んだ先には、確かにフィオナの言う通り警備がいた。広間の前に1人、その周りを最低2人は徘徊している。俺は徘徊している合間をすり抜けて、左へ曲がった。


『よし、そこからは少し入り組んだ道になるぞ』


 ランスの指示に従って俺は迷路のような道を進んでいく。素人には到底たどり着けないような場所だった。おそらくこの屋敷の主人しか知らないのだろう。ここまでくると、警備も逆に手薄だった。


『ここだ』


 ランスに連れられた先は、壁だった。それも本当に普通の壁。


「いや、壁だけど……」

『私も小さい頃、そこまで行ったことはありますけど、何もなかったですよ?』

『ここからが大事なんだ。レイジ、まずは壁にあるヒビを探してくれ』


 ランスの言うように壁を見渡すと、不自然なヒビがあることに気づいた。押してみるがびくともしない。


『あるけど、別に押しても反応しないよ?』

『小瓶を出して、そこに少しの風魔法を吹き込むんだ』


 俺は小瓶からそっと魔力を手に移し、ヒビへと注ぎ込んだ。すると連動するように、扉が浮き出てきた。なるほど、風魔法の一家ならではの方法だ。


『ダルクさんの話によれば、その扉は5分しか持たないらしい。その間に資料を取らなければ、閉じ込められるよ』

『先に言えよ!』


 俺は間髪入れず扉を開け、中へと突っ込んだ。特に人の気配はない。しかし、資料が綺麗に分けられている訳ではなく様々な本やメモがごった返していた。5分間で目的の資料を探すことは不可能に近い……。


『これどうすれば……ってランス? フィオナさんー?』


 そうか、ここは完全に風が流れていない。遮断されてしまっている。ということはお手製GPSも通信機も使えない。


 俺は1人でここから目的のものを持ち出す方法を考えなくてはならないということだった。


「まずいな……」


 すでに1分が経過している。時間はない。しかし闇雲に探していてはすぐにタイムリミットだ。何か方法は……今までの会話を思い出す。


(「私の先祖はずっと、親も含めて暴風でした」)

(「違うから、じゃないか?」)

(「おそらく両親は、そこに書いてある文面をフィオナさんに見られたくないんじゃないだろうか」)


 うーん、会話をさらってみてもあまりヒントになるものは得られないか……。いや、待てよ。違う……そうか!


 思い立った俺はすぐに、本棚を一通り確認していく作業に移った。ただし、確認するのは本の上のみ、である。


「あった!」


 1冊だけ、上に埃が乗っていない本があった。俺の仮説はこうだった。


 もし自分がフィオナの親だったら、誰かに取られていないか不安になって何度もその資料を確認するはず。そうすれば上にある埃は払われるため、他の歴史ある本と比べて分かりやすくなる。


 フィオナの家の歴史が書かれている本。中を開くと、そこには確かに遺言が入っていそうな封筒が挟まっていた。


 後、どれくらいだろう。時計を見ると、既に後20秒を切っていた。俺は慌てて本と遺言を手に、扉へ向かった。


「間に合えぇぇぇ!!!」


 扉に手を掛ける。俺はなんとか滑り込みで、隠し部屋の外に出ることに成功した。振り返ると、もうそこに扉は無かった。


『レイジ君! 無事か!?』

『はい、風の入らない部屋だったので通信が途絶えたみたいです。目的のものは入手しました』

『よし! じゃあさっきと同じ道で一度撤退を』

『だめです!!』


 俺とランスの会話は、突如フィオナによって遮られた。あっけにとられる俺とランスに、彼女は話す。


『私の家は警備員が中に大勢いることもあって、外からの警備は手薄です。その代わり内から、家を出ていくときの警備が尋常じゃないくらい厳しいんです』


 昔、フィオナの家に泥棒が入ったことがあるらしい。その泥棒は家を出る際、入るときには無かった風魔法の罠で体を細切れにされてしまったそうだ。それを聞いた俺は背筋が震えあがった。


『じゃあ、どうすれば?』


 ランスがフィオナに尋ねる。フィオナが言うには、方法は1つとのことだった。


『明日、貴族たちのダンスパーティーがあります。会場は外部なので、家を出る際に私のドレスの中に隠れて出ていく方法が良いでしょう』


 明日まで隠れていなきゃいけないのは億劫だが、フィオナのドレスの中に入れるならそれはすべてチャラだ。


 こんなに素晴らしい作戦があるか? ふふふ……俺は今、全ての男子が夢見るシチュエーションを現実に手にしようとしている……!


 すぐに三つ返事でOKした。そのときの俺の顔がもし見られていたら、きっと全人類が引いていただろう。


『でも、そのためにはフィオナさんと合流しないとですね』

『その近くの部屋に、換気扇の通路があるはずです。それを辿っていけば、私の部屋の上にも行くことが出来ます』


 俺はフィオナの指示に従って、換気扇の入り口へと向かった。うん、狭いし臭い。それでも、幸い高身長に再設計されずに異世界転生してきた俺であれば入れなくはない大きさだった。体中埃まみれだったが。


 鼻をムズムズさせながらも俺は壁を伝って、なんとかフィオナの部屋の上までたどり着いた。


「……フィオナさん!」

「レイジさん! 無事で良かったです」

「そうだ、先に本と遺言を渡しておきますね。フィオナさんも確認した方が良いですし」

「確かにそうですね」


 俺は換気扇の蓋を開けて、本を落とした。フィオナがキャッチする。そして俺も下りようとすると、フィオナが無言でこちらに合図した。


(まだ隠れていてください)


 俺はフィオナの指示に従って少し下がる。すると、フィオナの部屋の扉をノックする音が聞こえた。何かが来る。部屋の外からでもその威圧感がへばりついたように伝わってくる。


「フィオナ、入りますよ」


 ノックした意味がないのでは、というくらい確認も無くフィオナの母親が入ってきた。空気が一瞬で冷え込む。周囲に動くなと命令するような覇気。俺は急いで扉を閉めた。


 フィオナは資料を、遺言を隠せただろうか……ここで何か物音を出せばバレるため、俺は彼女の様子を確認することが出来なかった。


お読みいただきありがとうございます! 次回は遂にバトル!!

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