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14 盗みも業務範囲内です

「セクハラの件はこっちで無事に解決したよ、特に今後の問題になることは無さそうだ」


 俺はランスに、自分の活躍を若干誇張して話した。ランスはワクワクして聞いている。フィオナはただ微笑むだけだった。イタい奴だと思われていなければそれでいい。


「僕がダルクさんから得られた情報はこんな感じだ」


 ランスが得た情報は、フィオナの家柄や最近の家族の様子、歴史についてだった。意外なことに、その中にはフィオナ自身も知らなかった情報が多々含まれていた。


「そんな歴史があったんですね」


 特にフィオナは、自分の家はなぜ代々風の魔法使いなのかについて知らされ、驚いていた。


「親から聞いたりしなかったの?」

「もちろん気になって聞いたことはあるんですけど、教えてくれませんでした。てっきり文献や資料がないからだと思っていましたが……」

「ダルクさんはフィオナさんの家と繋がりが深い一家らしくてね、結構裏の事情まで教えてくれたよ」


 これほどまでの秘密を相手に喋らせるランスって一体……仕向けた俺が恐ろしくなってきた。


「フィオナさんの先祖、確か名前はフォルトだったかな……」


 ランスはフィオナの家にまつわる歴史を話し始めた。


 遥か昔、剣士としての才に恵まれた一家でフォルトは生まれた。生まれつき魔力が強い子どもだったという。幼少期には風魔法で自分の部屋を吹き飛ばしたこともあるらしい。


「やべぇやつじゃん」

「まぁ、そうとうな魔力があったんだろうね」


 フォルトは剣技にも一定の才能があった。家族は代々剣技を教えていることもあり、フォルトに魔法への興味が湧かないよう仕向けた。


 ……気のせいだろうか、少しランスの言い方に陰りが混じったような気がする。ランスは特に言いよどむことなく続けているので、俺の勘違いだろうか。


 成長し、剣士として冒険者となったフォルトは戦いの中であることに気づく。


『あれ、これって魔法使った方が遠くも攻撃できるし強くないか?』


 そうしてフォルトは独自に風魔法を極め、最強の魔法使いとしての地位を確立した。その後は代々魔法使いと子どもを残し、風魔法をマニュアル化したのだそうだ。


「それが今の暴風なんですね」

「そうらしい。しかしどうして、フィオナにはそのことを教えなかったんだろう」


 俺たちは首を捻った。むしろこういう歴史的継承の事実があった方が辞めづらくなるはずなのに。



 フィオナに関する情報を頭で整理すると、俺の中である1つの仮説が浮かんだ。


「違うから、じゃないか?」

「違う?」


 フィオナとランスはまだ首をかしげている。俺は説明を続ける。


「フォルトは剣士としての家に生まれたが、風魔法が使えた。だからそっちに方向転換をしたんだ」

「そうだね」


 ランスが頷く。


「フィオナさん、君自身のことを考えてみてほしい」

「私自身、ですか?」

「君は風魔法を使えるが、流派が違うと言っていたよね」

「はい、家は代々暴風ですが、私は静風です」


 そう言い切ったところで、フィオナも何か思い当たったようだった。


 そう、フィオナもフォルトと同じく、今までの伝統とは異なった人間。つまり、転換点となる可能性があるということだ。


「なるほど、それで家族はフィオナさんに教えようとしなかったのか……でもそれだけで隠すかな? 一応同じ風魔法なんだし……」


 ランスの疑問に俺は答える。


「ここから先は完全に俺の仮説だけど、おそらくフォルトが書き残した文献はフィオナさんの家にあると思う。そこに遺言のようなものもあるのかもしれない。おそらく両親は、そこに書いてある文面をフィオナさんに見られたくないんじゃないかな」


 ランスや本人の話を聞く限り、フィオナの家は相当大きく財をなしている。家がそこまで成功してきているのなら、伝統を変えたいとは思わないはずだ。


 そこで静風を使い始めたフィオナに歴史を教えないことにして、誤魔化そうとしたのではないだろうか。


「でも、そこまで思っているなら文献はもう残っていないんじゃ……?」

「いや、むしろ残っているだろう」


 家の中での身分が大きくなればなるほど、ごみの処分などを自分ですることは無くなる。そこで急に何かを燃やそうとしたとなれば、疑いの目がいくだろう。


 万が一にも失敗して外部に漏れれば、それこそ意味が無くなってしまう。


「それに、フィオナさんが知らないということは家の奥まったところにあるんだろう。そんなところに行こうとすれば、怪しい行動に思われてしまう」


 それならばずっと隠しておいた方が良い、という判断は正常なように思えた。


「じゃあもしその遺言が見つかれば、親を説得する道具になるってことですね」


 フィオナは感心する一方で、同時に不安そうな顔をしていた。


「でも、どうやって手に入れましょうか……?」

「うん、盗みに行こう」

「はい盗……え!?」


 正直、正攻法で行っても相手が情報を見せてくれるとは思えない。ここはダークに、コソ泥と行こうじゃないか。


 もちろん行くのは俺とランス。フィオナにはその間家の中から指示をしてもらう。


「あの……仮に盗みに行くとして私も場所が分かりませんが」

「そこなんですよね、せめてその文献がある資料室が分かれば……」

「分かるよ」


 ランスがあっけらかんと言った。俺とフィオナは度肝を抜かれたようにランスを見る。


「ダルクさんに教えてもらったんだ。昔、フィオナさんの家で執事をしていた人から聞いたことがあるらしい」


 ランス、強すぎだろ。俺は声も出なかった。なんにせよ、これで潜入の準備は整った。



「ただ今戻りました」

「おかえりなさいませ、フィオナお嬢様」


 まずはフィオナが帰宅する。すぐに召使いが数人、出迎えに現れた。母親の姿はない。召使い達が荷物を持ち、フィオナを部屋へと誘導する。


 誰もいなくなったところで、ドアの裏側から俺ははい出た。


『こちらレイジ、潜入成功』

『こちらランス、壁伝いに左側の扉を抜けて進んでいってくれ。くれぐれも見つからないように』


 俺はランスの指示通り動く。よし、緊張するな……俺、絶対やらかす気がする。少し進んでいったところで、数人の足音が聞こえる。俺は近くの壁に体を沿わせ、彼らが通り過ぎるのを待つことにした。


「はぁ、全くこんなとこの巡回、何度してもなんもいねぇだろ」

「まぁそう言うな、給料は高いわけだし」

「そうだけど、こんな場所に忍び込もうとする奴なんていねぇよ。今日なんてねずみ1匹見てないぜ?」


 どうやら2人組、警備のようだ。警戒のレベルが低いことに安心する。


「なぁ、ゲームでもしないか?」

「お前そんなことしたら怒られるぞ」

「大丈夫だよ誰も見てないし、すぐ終わるからさ」


 こっそり眺めると、1人がもう1人に輪ゴムを渡していた。何をするつもりだ?


「これを使って、決闘でもやろうか」

「決闘?」

「2人同時に反対側へ歩いて行って、10歩目で振り向いて早撃ちした方が勝ちってゲームよ」


 なんか西部劇で見たことありそうなやつだな。俺も気になって、少し顔を出して観戦することにした。


「じゃあここからな」


 2人がスタート位置にしたのは俺の位置からは斜めの場所。2人が進んでも俺の位置は死角となり、バレることは無い。


「じゃあ行くぞ、1、2……」


 2人が離れていく。俺もその様子を、固唾を飲んで見守っていた。


「……8、9、10!」


 そのタイミングで2人が一気に輪ゴム銃を撃った。俺サイドにいる奴が打ったゴムは相手に命中。


 しかしもう1人の打った輪ゴムは暴投され、俺の額にクリティカルヒットした。


「ぐえっ」

「誰だ!?」


 やべぇ普通に声出た。間髪入れず、死角から銃を構える音がする。


 まずい! 足音はどんどん近づいてくる。影が俺の足元にかかったところで――


お読みいただきありがとうございます! 果たしてレイジの運命とは……!

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