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13 セクハラは炎に消える

「じゃあ出発しましょうか」


 なんとか無事に合流して、俺たちは任務に向かうことになった。俺はよそ者であることもあり、移動中彼らが重要な情報を伝えてくれることはなかった。


 せめてセクハラでもしてくれればなぁ……そう思っていると案の定、セクハラ男がフィオナにちょっかいをかけだした。


「なぁ、ダルクもいないし良いだろ?」


よし来た、セクハラ男はフィオナの腰に手を回す。フィオナは嫌がっている。羨まし——間違えた。


 本当なら今すぐにでも助けに行きたいところだが、俺はこらえて少し離れた位置にいる真面目男に声を掛けた。


「あの、あれって?」

「あー、いつものことだから気にしなくていいよ」


 真面目男はあきれながら首を振った。


「あの2人は家がかなり親密に結びついていてね、うかつに首を突っ込まない方が良いよ」


 その流れで俺は真面目男から、2人の家についての情報を細かく聞き出すことに成功した。また、いつからセクハラが起こっているのか、パーティーの仲についても真面目男は事細かに話してくれた。


 どうやら相当ストレスが溜まっているらしい。もう関わることのないであろう俺には言っても良いと思っているのかもしれない。



「はぁ、着いちまったぜ」


 セクハラ男がため息をつくように言い捨てた。俺たちは、武器の素材があると言われる林にたどり着いた。以前俺が行ったスアロの森とは異なる場所で、雰囲気も安全そうだった。まぁ、油断は禁物だが。


 俺はここで、第2の作戦を実行することにした。少し進んだところで、トイレと適当な理由をつけて席を外す。ストレスを溜めないように3人は先に進ませておく。


「……これでよし」


 俺は懐中電灯と黒い型紙、スピーカーを用意した。3人がちょうど来たタイミングで仕掛ける。


「……カサッ」

「ん? なんか聞こえないか?」


 葉っぱの擦れるような音に真面目男が首をかしげる。


「グルルル……」


 間髪入れず、何かの鳴き声が聞こえてきた。


「そう? 何も聞こえないけど」


 フィオナにはギリギリまで知らないふりをしてもらった。その方が驚かせることができるからだ。え? 何がって? こういうことだよ。


「グアァァァァァ!!!!」


 俺が懐中電灯のスイッチを入れると、3人の前には大きな魔物の影が現れた。


 ちなみにこの録音した声は本物の魔物の声だ。ランスが冒険者をしていたころ、たまたま録音していたものらしい。より臨場感も増すぜ。


「うわぁぁぁ!!」

「助けてくれぇぇぇ!!」


 セクハラ男と真面目男は、自分の保身を第一に考え散り散りになった。よし、作戦通り。


 俺はフィオナとアイコンタクトをして、隠れているように指示した。そして、まずはセクハラ男の方へ向かった。



「はぁっはぁっ、何だよアイツ……」

「おかしいですよね」

「どわぁぁぁあ!!」


 いきなり背後に俺が現れたので、セクハラ男は気絶しそうになっていた。ここまで驚かせるつもりじゃなかったんだけどな。


「なんだ……お前か。脅かすなよ」

「すいません、緊急事態だったもので」


 すでに夕方、恐怖を演出するにはちょうど良かった。俺とセクハラ男は、仕方なく火を焚いて一晩明かすことにした。道も分からないところで闇雲に探すわけにもいかない。


「まぁあの2人も冒険者だ。問題は無いだろう」


 実はこれも作戦だ。非常食を食べ、落ち着いたところで俺は口を開いた。


「さっきの魔物、この辺りには本来いないものですよ」

「確かにな。俺もここは何回も来てるがあんなの見たことねぇよ!」

「僕、このパーティーに入ったときから気になっていたんです。1人、女性の方がいますよね」


 俺はわざとらしく言った。


「あぁ、フィオナのことか」

「彼女が魔物を呼んだ可能性があります」

「は!?」


 セクハラ男は動揺を隠せないようだった。俺は畳みかけるように、話をつづけた。


「おそらく、彼女が意図的に呼んだわけではありません。ただ、僕にはわかるんです。彼女はおそらく、魔物に好かれる性質を持っている」


 木々が騒めく音だけが静寂を破る。本来だったらかなり無理のある理屈だが、雰囲気も相まってセクハラは完全に信じ込んでいるようだ。


「……で、でもアイツが意図的に呼んだわけじゃないなら別に……」

「問題はそこじゃありません。昔、聞いたことがあります。魔物に好かれる人間の心を読み取って、魔物は動くと」


 焚火が揺れる。風が徐々に強まっていく。


「もしも……彼女が誰かを殺したいと思っていたら、魔物は間違いなく殺しに来るでしょう。もしかしたらそれがさっきの魔物……」


 俺が言い切る前に強い風が吹いて焚火が消えた。


「うわぁぁぁぁ!!!」


 セクハラ男はパニックになっている。まぁ、ここまで全部フィオナが起こした風のお陰なんですけどね。ふとフィオナの方に目をやると、必死に笑いを堪えているのが見えた。


「まぁ、今のはあくまで噂ですが」


 俺はそっと火をつける。火の光にあぶられるように、震えるセクハラ男が姿を現した。


「全然怖くねぇ……全然怖くねぇよ」


 よし、仕上げだ。


「あれ、まだ声が聞こえるな。俺、様子見てきます」


 待ってくれよぉ、と情けない声を出すセクハラを置いて、俺はその場を後にした。もちろん火はフィオナに消してもらった。後ろから悲鳴が聞こえるが、俺はその足で真面目男の方へと向かった。



「なんなんだアイツ……おお! 来てくれてよかった!」


 セクハラと同じく真面目男もかなりおびえているようだった。俺はさっきと同じ手口で、真面目男を脅した。


「セクハラしている本人だけじゃない、もしそれを傍観している人がいたら……僕だったら殺したいと思っちゃいますかねぇ……」


 火が消える。


「うわぁぁあ!! ごめんなさーい!!」


 火が消える直前、音速で土下座をしている彼の姿が見えた気がする。


 真面目男のときは特にまた火をつけて姿を現すこともせず、俺はフィオナと合流した。自分には関係ないと思っている真面目の考え方がムカついたのもある。


 俺も、現世のときはこうだったのかな、という考えが一瞬頭をよぎるがしまい込む。今は目の前の作戦に集中しよう。



「うまくいきましたね」

「まぁ、僕に掛かればこんなもんだ」


 俺、やってること詐欺師と変わらなくないか? まぁこれはフィオナのためだから! 


「あのとき、ちょっと楽しかったです」


 フィオナはやんちゃに笑った。俺はその顔を思い出しながら、気持ちよく眠りについた。



 翌朝、俺とフィオナはそれぞれいい感じのタイミングで合流した。セクハラ男も真面目男も、昨晩は寝られなかったらしくクマが凄かった。その後は無事に任務を終え、俺たちはギルドに帰還した。


「あら、おかえりなさい。遅かったわね」


 顔に葉っぱを付けたままのセクハラ男、足に力が入らず震えている真面目男を見て、ダルクはぽかんとしている。


 その横にいるランスを見ると、ウインクしていた。きっといい情報を得ることが出来たのだろう。俺もウインクで返す。実際はウインクというより、両目をつぶった変な奴になってしまったのだが。


「その、なんだ……すまなかった」

「え? どうしたんですか?」


 フィオナにはあくまで何も知らない演技を続けるように言ってある。これで、フィオナ自身に罪を着せることなくセクハラを防止することが出来るだろう。第一の作戦は完了だ。



「ありがとうございました!」


 事務所に着くやいなや、フィオナは俺とランスに深々と頭を下げた。その背中からは高揚感が溢れ出ているように感じた。


「何言ってるんですか、本番はこれからですよ」


 本命はあくまでもフィオナの家、俺とランスは襟を正して覚悟を決めなおした。


お読みいただきありがとうございます! フィオナを巡る戦いは遂に第二ラウンドへ!

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