12 潜入はマッチョに遮られ
翌日、俺はフィオナを事務所に呼び出して作戦を説明した。
「……という訳です。協力してもらえますか?」
「ええ、私はもちろん。ただ、最初の時点でうまくいかない気がしますが……」
俺たちがたてた作戦はこうだ。最初にパーティーの攻略と情報収集、これに限る。親の攻略はこの作戦が終わった後に立てるとして、ひとまずフィオナ周りの状況をより丁寧に把握しておきたかった。
まず俺がギルドのオタスケサービスに登録する。オタスケサービスは先着順だ。自分の前にいる冒険者の名前を覚えておけば、自分がいつごろ呼ばれるかを推測することはたやすい。
そして、俺が呼ばれる少し前のタイミングでランスがフィオナのパーティーに話しかける。もちろん初対面だという前提で、だ。
フィオナのパーティーは4人構成。セクハラ男に、男女ひとりずつ。しかもその二人は婚姻関係なし、家格も下。つまり、攻略の余地ありだ。
ランスが女性にアプローチし、デートに誘う。そして出発前に1人が欠けたフィオナのパーティーは、オタスケサービスを使わざるを得なくなる。
え、なんで俺がアプローチ役じゃないのかって? 他にやることあるからだよ、決してランスが俺よりイケメンで優しくて色気に溢れてるとかそういう理由ではない。
そこで俺がパーティーに参戦することで、より内部から情報を聞き出し、パーティー内の雰囲気を理解することも可能になるのだ!
「でも、やっぱりうまくいかない気がします」
フィオナが不安を口にした。
「大丈夫。ランスが女性に声をかけて、フィオナのパーティーを欠員させる。その後で俺が助っ人に入る。完璧だろ?」
俺の勢いに押されて、フィオナは渋々承知した。後は俺とランスの腕次第だ。
「じゃあ、オタスケサービスに登録してきます」
「あまり無理はしすぎないようにね、フィオナさんにも戦いのときはレイジ君をサポートするように頼んであるから」
なに俺がいないときに2人で話してんだよ、と思いつつも俺はオタスケサービスに登録した。俺の前には5人前後が並んでおり、タイミングとしてもちょうどいい。
その間フィオナはパーティーのメンバーを引き付けておかなければならないため、これくらいの待ち時間がちょうどいいだろう。
「っていう話がありまして……」
「もうその話はいいだろ、出発しようぜ」
まずい、どうやらフィオナは話を繋いでおくのが苦手らしい。このまま出発してしまえば、オタスケサービスを利用しなくなってしまう。
「(ランス、少し時間を稼いだうえで頼む)」
「(了解!)」
俺はランスから距離を置き、遠くから見守る。
「すいません、ちょっといいですか?」
「はい、どうなされましたか?」
ランスが来たことで、フィオナがホッとした表情を見せる。他のメンバーもランスに注意を向けているようだ。
「少し道を尋ねたくて、ここってわかります?」
「ああ、ここは少し入り組んでいてな。分かりづらいんだ」
セクハラ男が地図を見て説明する。しかしランスは全く分からないようなそぶりをする。
「うーん、そうだな……そこの美人なお嬢さん、案内を頼むことは出来ますか?」
ランスはフィオナの隣にいる女性、ダルクに声を掛けた。
「え!? 私!?」
「いや、もう出発の時間が迫ってるからここで抜けられると……」
もう1人の真面目そうな男が止めようとする。
「んーん! すぐに戻ってくるから大丈夫だよ!」
ダルクは行く気満々だ。これにはフィオナも驚きを隠せないでいる。絶対に失敗するだろうと思っていたからだ。
フィオナ君、うちのランスを舐めて貰っちゃ困るよ。彼は俺から見ても、ここ大事ね俺から見ても! 中々のイケメンだ。
そんな彼から美人と言われ、且つ頼りにされちゃあほとんどの女性はイチコロ、付いていってしまうんだよ。
「すいません、彼女を少しの間お借りします」
ランスとテンションぶち上げのダルクは、ギルドを出て行った。
「はぁ、困ったなぁ。これだからダルクは」
セクハラじゃない方の男が呟く。ずれてもいないメガネを掛けなおす仕草から、イラついていることが分かった。
「まぁいいじゃねぇか。なぁフィオナ」
セクハラ男がフィオナを見る。おそらくダルクが居なくなったことでセクハラできるチャンスが増えたとでも思っているんだろう。甘いな。
『~番のパーティーの皆様、出発の準備が出来ましたのでギルド受付までお越しください』
「まずい、呼ばれたぞ!」
時間的にダルクが来ないのは明らかだった。
「じゃあ俺たち3人で出発しちまおうぜ」
セクハラ男が受付へ向かおうとする。それを引き留めて、フィオナが発言した。
「ねぇ、ギルドのオタスケサービス使いませんか?」
「んなもんいらねぇだろ、レベルが高い依頼でもないし、俺たち3人で十分だ」
セクハラは反対する。そりゃそうか、他人でも入ってこようもんならセクハラチャンスが無くなってしまう可能性があるからな。
「……いや、フィオナの言うとおりだ」
2人の口論の合間を縫うように、真面目男が発言した。
「ダルクが抜けたことを考えると、パーティーに穴が開く。もう1人追加するに越した事は無いだろう」
「チッ、分かったよ」
セクハラも渋々納得し、3人はギルドのオタスケサービスへと足を運んだ。タイミングよく、次のオタスケサービスは俺だ。
しかし俺には、もう1つ心配事が生まれていた。もう1組もこちらへ向かっているのだ。しかもフィオナ達よりも早く。
「ねぇ、オタスケサービス使わなぁい?」
フィオナたちがこちらへ向かう1分前、不吉な言葉が聞こえた。
「それはいいな!!! 風邪で一人お休みしてるしな!!!!!」
「……どうでもいい」
ムッキムキの男3人が俺の近くで話しているのが聞こえた。まずい。
「じゃあ、オタスケサービスに行きましょうか」
そう思ったとき、ちょうどフィオナたちの声も聞こえた。
「思い立ったが吉日よ、ダッシュで向かいましょう」
ダッシュすんなよ! 俺は心の中でムキムキたちに叫んだ。こいつらとパーティーを組むのは危険すぎる。それにフィオナを助ける計画がまた1からになってしまう。
なんとかこいつらと組まないようにしなければならないが、受け身の俺に出来る事は無い。もし呼び出しに応じなかった場合、また最後尾に回されてしまう。
既にフィオナたちがこちらに向かっているため、それは作戦の失敗を意味する。
しかし、どうすれば……案の定、先にオタスケサービスへとたどり着いたのはマッチョ3人衆だった。
「男の子をいただけるかしら?」
「あ、ちょうど次の方が男性ですね」
『冒険者のレイジさん、オタスケサービスのマッチングが成立いたしましたので、受付までお越しください』
終わった……ついに俺は呼び出されてしまった。
「ん? どうしたフィオナ?」
「いや、何でもないです」
俺が呼ばれたことに動揺したフィオナは、足を止めてしまった。しかしもうどうすることもできない。仕方なくフィオナも足を進める。
「……レイジです」
マッチョ3人衆は舐め回すように俺の顔と体を見た後、言った。
「この子はいやぁね、顔も格好よくないし」
「なんかひょろい!!!!!」
「……チッ」
うん、ひどい言われようだ。てか1人舌打ちしたよね? 俺は鼻血を出してしまいそうなほどムカついたが、好都合だった。
「また後で来るわね」
マッチョたちはその場を後にしたのだ。そして入れ替わりのようにフィオナたちが来た。まだ俺がいることにフィオナは驚いている様子だった。
「お世話になります、レイジです!」
「それでは行ってらっしゃいませ」
職員に送り出され、俺はなんとかフィオナたちのパーティーに潜入することに成功した。準備中、他の2人にバレないようにフィオナが耳打ちしてきた。
「(あの状況でどうやって断ったんですか……?)」
「(わざと相手が断るように仕向けたのさ、わざとね)」
俺は最大限格好つけて小声で言い放った。何はともあれ、これでフィオナのパーティーを内側から知ることができる。
絶対にフィオナを救出するんだという強い意志が、俺を焚きつけていた。
お読みいただきありがとうございます! 次回、セクハラ男と真面目男の討伐になります! お楽しみに!




