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2.始まりの街 7

 朝起きて、出された味気のない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。決められて指示された行動は勝手に体が動いてすべてをこなす。その後、主治医とは別のカウンセラーがやってきて、いろいろ質問をされるけど、ほとんど答えられない。

 これから何をしたい? と聞かれても。決められて指示されたことだけをやってきたのに、いきなり何をしたいかなんて考え付くはずもない。

 主治医はそのあたりがわかっているからこんな無駄な質問をしてこない。答えられないことは聞いてこない。だから、主治医と言葉を投げあうのはとても楽だった。

 そんな午前を過ごして、出された味気のない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。

 そうして決められたことが終わった午後。VRHMDを装着してオートラヴィーダにログインする。三度目でもまだ慣れない背筋のぞわぞわ感はいつか慣れのかなと思いながら、真っ白かった室内とは全く違う色彩の景色に、無意識に止めてた息がほぅとこぼれる。

 最近無彩色の景色ばっかり見ているから、そういえばこんな風に屋外に出るのは久しぶりだったかもしれない。昨日はそれよりもこのゲームの中でやることを探すのに精一杯で、周りなんてほとんど見ていなかった。HELPの画面と地図ばっかりみていて、景色は全く見てないし、壁を背にしたことしか覚えてない。

 さて、昨日最後にやろうとしていたのは街を出たところでの採取だった。そう思って街の出入り口をみると、記憶の中にあるのとはたぶん別の兵士が二人、入り口の端に分かれて立っていた。

「……出ても大丈夫?」

 前回は夜だから止められたとは思っているけど、もしかすると街と出入りになにか許可とかがいるかもしれない。そう思って二人いる兵士の方に近づいて問いかけると、兵士は人好きがしそうな笑みを浮かべて答えてくれた。

「おそらくユーバーの方と見受けられます。外壁周辺は特に許諾は不要ですよ。それ以上はギルド、もしくは連盟に加盟したメンバー証があれば進むことができるようになります」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう、兵士さん」

「いえ、ユーバーの方のお役に立てて光栄です」

 にっこりと笑った兵士の言葉に内心どういうこと??? と疑問符を浮かべながら、そのまま外壁にぽっかりと開いた出入り口をくぐる。そうして一歩踏み出した外の景色は、一面の緑だった。

 街を囲う外壁の周辺は草原が広がっている。「草原」という単語を聞いて思い浮かべるような、そんな草原だ。出入り口から先には道らしきものはなく、一面の草原だ。その奥の方は大分離れたところに森というか、林というか、とにかく木々が生えているスペースがあり、それよりも遠景に緑色の山の形が見えた。

 青臭い風が鼻孔をくすぐるのに、緑がいっぱいあるっていうのはこういう感じなんだな、と初めての感覚が面白く感じた。小学校の頃に林間学校だとかがあったはずだが、両親はそんな無駄な時間があるのであれば受験勉強と習い事をしろと、そういった行事はすべてスキップされたから、こんな緑ばかりの景色は初めて見た気がする。

「……現実もこんな匂いがするのかな」

 外出できるようになったら、こんな光景が見られる場所に行ってみようか。主治医に聞いたら、きっと腹を抱えて笑いながらおすすめの場所を教えてくれるだろう。

「あ、そうだ。採取しなきゃ。……採取ってどうやるんだ?」

 出入り口の真ん前から少し横に移動して、慣れたHELPを開く。「採取」っと。……素材アイテムのうち、植物系の素材アイテムを主に集める方法。斧を使用した木材の伐採行為は「伐採」となるため注意が必要。ツルハシを使用した鉱石の採掘は「採掘」となるため注意が必要。……結局採取ってどうやるの。特に道具が必要っぽくないよね……?

 初めてHELPくんに使えなかった……と残念な気持ちを抱きながら、とりあえず文字通りなら取ると採るだから、ひとまずその辺の草でも抜いてみようかな。

 考えたことをとりあえず実行してみよう。間違ってても別に誰の迷惑にもならないだろうし。

 そう思ってとりあえず壁から少し離れた草原にしゃがみこんで、その辺に生えてる草をむんずと掴んでぐっと上に引っ張った。ぶちぶちっと音がして、掴んでた草がギザギザに千切れた状態で手の中にあった。

 ……なんか、草をむしるの楽しいかもしれない。そう思って、手あたり次第、近くにある草をつかんでは上に持ち上げてぶちぶちとむしるのを繰り返す。幼いころ、習い事の行き帰りに通りがかる公園で、同じくらいの年ごろの子供が草むしりして遊んでるのを「なにしてんだろ」と思って素通りしてたけど、想像してたより楽しい。そっか、あの子供たちは楽しいから草をむしってたんだな。十数年越しに知ったわ。

 手近なところでむしれるものがなくなるまで無心になってむしり続ける。ふと気が付けば、こんもりと自分の隣に山になった無残にも千切れた草、草、草。とりあえずその山を腰のウェストポーチに放り込んで、それからふと思う。

「……どの草が作るのに必要な草なんだ……?」

 とりあえず近場の草はむしりつくしたけど、必要なものだったのかわからない。これはどうすればいいんだろう。もう一回HELPを見てみるか。

 とりあえずHELPを開こうと思ったけど、開けた場所のど真ん中で静止してるのもどうなんだろうと思いなおして壁の近くに向かう。街の入り口から少し離れた、ぱっと見だと目につかない位置で壁を背にしゃがみこむ。

 それからHELPを開いて……何を調べればいいんだろう。えっと、HELP内の検索で、「採取」、「アイテム」、「名前」、「知りたい」で検索してみる。そうすると、「鑑定」というスキルが出てきた。

 「鑑定」……取得したアイテムの名称や性質、品質などの情報を確認できる。……性質? 品質はわかる。傷がついてたり、痛んでたりしたら品質が下がってるというし、それを確認できるんだろう。性質ってなんだ。

 まあいいや。よくわかんないし、SPはほとんど使ってないんだから必要ならスキルを取得してけばいいよね。ところで鑑定ってどういう種類のスキルになるの? あ、HELPから取得画面に移動できるや。スキル取得っと、必要なのは2SPね、問題ないでしょ。

 とりあえず鑑定スキルを取得した。……で。鑑定スキルってどう使うの?

以下現時点のステータス


PC名:カナカ

身体状況:五体満足/所持金:5,000/所持品:初級アクセサリー制作キット/アクセサリー作成入門書

拠点:なし

所属:なし

未使用SP:20P

取得済みスキル:歩行Lv6/視線察知Lv6/格闘技術Lv2/蹴術Lv1/アクセサリー制作Lv1/アクセサリー鑑定Lv1/採取Lv2/鑑定Lv1

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