6.25 遠距離物理担当 れるん。の場合
いつもと変わんないけど、いつもと違うサバイベはなんか思ってたより面白いことになってる気がする。
渡された地図と実際の地形を確認しながら、想定している通りのルートをたどれるかを頭の中でシミュレート。地形の起伏の具合、地層の具合、どこまで通すのか、溜め池の位置、本流へと戻すルート。
ぼくらの当初の予定通り、厨二病上等の拠点周辺は完全にお濠みたいな形にするし、橋は四月朔日が開発した跳ね橋でアホが拠点に入り込めないようにするのは変わんない。
それにプラスして、万華鏡とアリスブルーの要望を聞いて、南北二キロ地点まで伸びる支流をそれぞれ一本ずつ、両ギルドの拠点際を通過するように、幅一メートルで。
「どないやろ、いけますやろか?」
「うん、まあ悪くないんじゃない? 掘削失敗がなければ問題なさそうな計画にはなってるよ」
「せかせか、安心したわ」
地図を渡してきた本人がホッとしたように笑ったから、そんなに不安になるような内容だったかなって思ったけど、そういえばこの人は今までのサバイベでは見たことないなぁって思い出した。確か万華鏡だって名乗ってたけど、もしかしたら初めて治水計画をしたのかもね。
「午後から実際に掘削予定だけど、厨二の雷鳴は出してもらえたりするかい?」
アリスブルーの人からそう言われて、鸞瑪は「ん~」と言葉を濁す。生姜のことだから、お昼には拠点に一回帰ってくると思うけど、カナカくんと最中の二人にはできないから悩んでんだろうねぇ。最中野放しはぼくも怖いしなぁ。
「生姜本人の予定を確認してかな。朝から採取に行くって聞いてるから」
「わかったよ。可能なら、ウチの掘削担当に雷鳴の仕事を一度見せてやりたくてね」
「あー、わかるわかる。雷鳴さんの掘削って本当にお上手ですよね」
アリスブルーの人たちが生姜をほめちぎってるけど、まあそうだよねって感じ。アイツの掘削はぼくが満足するように育ててやったんだから当然だよ。ま、さすがにOVではアイツも難儀してたけどね。
「あ、お待たせしました。予定地の伐採は終わったっすよ」
大き目の斧を肩に担いだ織夜がそう言いながら近づいてくる。イベントマップを開きなおして更新すれば、織夜が軒並み伐採してきたらしい場所から森のマークが消えてる。相変わらず、服飾職人のくせに広域伐採のスピードが速いんだよなぁ、コイツ。
「なんか橋にできそうな木材あった?」
「エポスとフェゲフェゥアーがありましたよ。あと、イベ限っぽいウゥンシュってのもありましたね。ウゥンシュはちょっと硬いらしくて加工しづらいみたいですけど、水属性らしいんで、エポスと組み合わせやすいと思いますけど」
「へぇ? 織夜は加工できそうなん?」
「俺っすか? ……まあ、細かい装飾しないなら?」
へぇ、結構難易度高そうなんだ。だとしたら、ウチの拠点周りの橋だけにした方がよさそう。どうせ他所鯖の拠点群が実装されんだろうけど、それはそれとして、あと一週間以上使う場所なんだから、ぼくらの利便性も必要だしさ。
「んじゃ、ウチの拠点周りの橋はその木材でやってみよ。もしよさそうなら、次のサバイベに持ち込んでもいいし」
「それはアリっすね。その時は次までに木材加工スキル上げときます」
「そうして。万華鏡とアリスブルーは木材加工系のスキル持ちどうなの?」
「今回は見習いしかおらんのですわ。別鯖にはおりますよ」
「こちらは中級くらいまでなら加工できるはずだね。ただ、基本イベ限素材は普及素材よりも数段加工しづらい傾向にあるから、そこを加味するとギリギリだと思うな」
万華鏡とアリスブルーの人にも話を向けると、それぞれの組織事情が出てくる。まあ、街の治安維持系の団体やってると、どうしても戦闘と治水系補助の両方が必要になってくるよねぇ。特定の街にいるわけじゃないウチにもたまに話来るし。
「とりあえず、今生姜いないし、そっちから出せる人で軽く掘削調整してみようよ。使い物になりそうなら、昼からがっつり工事すればいいしさ」
「せやな。アリスブルーさんとこはどないです?」
「かまわないよ。鷹の目、チェックは頼めるかい」
「モチのロンよ。ぼくは厳しいぞ~~」
「あはははは、お手柔らかにね」
ぼくらと付き合いの長いアリスブルーの人はカラカラと笑い飛ばすけど、万華鏡の人はぼくの言葉に少しだけビクっと震えたのが見えた。うーん、自業自得ではあるんだけど、そんなに怯えなくってもいいじゃんねぇ。別にぼくらは無差別殺戮を繰り返してるわけじゃないんだしさ。
ちらっと織夜を見たら、織夜はもう伐採した木の繊維で作れそうな布のことに集中しててこっちの事なんて頭から消え去った様子で明後日の方向を見ながらぼんやりしてる。傍からみたら変なとこ見てぼーっとしてるただの変な奴だよね。
「そういえば、他のところはどうなっていらっしゃいますか? 初日はまったり板に書き込みがございましたけれど、拮抗状態ですか?」
暇を持て余していたらしいカチュがそう言いだす。そういえば、今回はカナカくんがいたから襲撃もしないし、いいかと思って情報共有のまったり板見てないや。どっかめんどくさいとこいんのかな。
カチュの質問に、万華鏡の人が青ざめた顔をする。ありゃ、これは分が悪い感じかぁ?
「我々のいる東側には黒いケーキと処女厨がそれぞれ北側と南側にいるね。向こうもまだ拠点を準備してる最中みたいでいざこざはないよ。ただ、南にいる処女厨側は、そろそろ万華鏡に古参がいないのに気づきそうだから、今日の夜辺りから夜襲があってもおかしくないね。後は、下流域でドラブレがイキって暴れてるらしいが、ドラブレも三軍以下しかいなくて虚勢張ってる感じだから、そのうち討伐しておくよ」
ふんふんと聞いてたら、げぇっと織夜が嫌そうなうめき声をあげた。
「処女厨のやつらがいんのかよ……。拠点に戻ったら、俺の女神に絶対に南側に行かないように伝えなきゃ……。女神が処女厨に穢されちまう……」
「織夜、アウトー」
鸞瑪の、ほっそいのに見かけによらず頑強な剣の柄が織夜の頭に叩き込まれる。ほんと、織夜ってマジキモイなぁ。大体、カナカくんって男の子じゃん? 処女厨のやつらが見境ないのはかわいい系のアバターにした女の子にであって、カナカくんはその範疇に入るわけないじゃん?
もともと、自分の美的センスに合致する容姿のアバターの子の固執しがちな面はあったけど、カナカくんと遭遇してから、わかりやすくキチガイになったよね、織夜のやつ。こんなのに執着されて、カナカくんマジ可哀想……。
「えぇっと、厨二にそんな人おらはったやろか?」
「あぁ、あの子だね。でも、あの子は疊鴼の庇護下の子だろう? それがわかってて処女厨が手を出すとは思えないけどね」
「新しい人でも入らはったの? 把握しとらんかったわ」
「ううん、今回だけの可能性がある子だから知らなくても当然だよ。確かにかわいいけど、あの子男の子だから」
「……」
「……鷹の目はんは純粋やねぇ」
「??」
なんだなんだ、万華鏡とアリスブルーの人から生ぬるい目で見られてる気がする。ぼく、なんかへんなこと言ったかぁ?
「れるん。はある意味箱入りですからね……。あなたの認識で間違いありませんよ」
苦笑するカチュにそう言われても、若干いらっとすんだけどぉ? 一発入れたろうかなと思うけど、何気に前線にも出るカチュは堅いからあんまダメージ入れらんないんだよねぇ。この女に効く攻撃とか、最中の毒くらいしかないもんよ。
「れるん。? 何か失礼なことを考えてますわね?」
「カチュぶっ殺すなら、最中の毒が一番効くよなって」
「ふふ、そのために物防魔防両方盛りに盛ってますもの。そう簡単に抜けると思わないでくださいまし」
こういうとこ、カチュのぶっ壊れてて好きなとこだなぁ。普通真正面から自分のことを殺す方法を考えてるって言われたら、そこで青ざめて後ずさってる万華鏡の人みたいな反応すんだよね。
そういう意味では、厨二の面子はみんな大体に対応な反応だからやりやすいんだよ。なんで現実通りのイイコチャンをゲームでもやんなきゃいけないのさ。殺意をぶつけて来てるやつに及び腰になる必要なんてない。殺意をぶつけ返して殺し返してやればいいのにね。それをやっても許されるのがゲームなのに。変なの。
ま、他人に強要しちゃぁいけないさ。だからぼくは厨二にいるってだけだし。
「厨二は相変わらずだねぇ。さすがに鳴きだしちまうから、ウチの子らの前ではやめとくれよ」
「「はぁ~い/もちろんですわ」」
アリスブルーの人の釘さしにうなずいてから、ぼくはカチュと二人で笑いあった。




