6.幻獣と加工と調剤と変人 9
結局のところ、生姜さんと最中さんのド突き合いが落ち着くまでの間、僕はニニと一緒に壁から生えてる石をツルハシで石屑の山にする作業に没頭した。
壁から生えてる石は、思っていたよりもいっぱいあって、地下色ころから順番に削っていく。最初はツルハシと石が接触した時の反動で手がしびれていたかったけど、徐々に慣れてきて、五つ目くらいの石を削り切ったところで、ほとんどしびれなくなった。
その代わり、ツルハシを振り上げる腕のしんどさはすごかったけど、これは木の伐採を始めた当初の斧と同じような感覚だから、多分慣れればそこまで気にならなくなると思う。慣れるまでは、時々腕を休めないとツルハシを取り落とす可能性もあるから、石を二つ削り切ったら一休みして、腕のしんどさが薄くなったらまたツルハシを持つことにした。
僕と違って、生姜さんと最中さんはツルハシをずっと持ち上げてても腕がしんどくならないらしい。らしいっていうのは、僕が一休みしてるのを見て、最中さんにまた詰め寄られて発覚したことなんだけど。
どうも、スキルを使うと腕がしんどくなったりはしないらしい。少なくとも、二人は今まで一度もそういう感覚を採掘で感じたことはなかったって。
「こうやって俺たち自身の手でツルハシを振るっても、今のところそういう感覚はないなぁ」
「そもそも、ボクらはスキルレベルが上がってるから、それもあるんじゃないかい」
「……スキルレベル」
全く想像もしていなかったところの話をされて、僕は自分のスキル一覧を開いてみる。すると、採取の下に「採掘」というスキルが追加されていて、採掘スキルのレベルは19になっていた。
確かにいつの間にか採掘スキルが増えてるし、レベルも上がってるや。採取とかも気づかないうちに増えていたし、僕が今まで慣れたなぁって思ってたところは、このスキルレベルが上がったっていうのことなのかな。
今まで考えもしなかったことに、今後、定期的にこのスキル一覧を見てみたら面白いのかな。今までやってこなかったことも、やってみるべきかもしれないということを、少し考えてから、かばんの中に入ってるメモ帳の端っこにメモしておく。
一瞬、このメモもあのマップのピンみたいに文字入力できるのかもしれないけど、自分の考えこととかをメモするメモ帳に活字が表示されるっていうのはなんだか不思議なものに見えるから、自分の手書き文字でいいかと思って、文字入力は試さなかった。
「そういえば、カナカくんが欲しいのって何だっけ」
いつの間にかガッツンガッツンと中央の石にツルハシを叩きつけてた最中さんが、ふとそう声をかけてくる。
「木材の接着剤と塗料」
「あー、そうだったそうだった。それなら、ボシャフトも必要だけど、ジェスチャワルズとかフルチェイサム、メランカリシャとかル・エインなんかもあるといいかも。あと、もし持ってるならセンスクト草やフリューデ草も調整剤に使えるよ、それ以外にm……」
「最中、黙れ」
もう恒例みたいになってる、最中さんの早口に生姜さんの一撃が入る。いや、ほんとに最中さんが説明してくれる時、立て板に水ってくらいすごい勢いで説明してくれるから、一瞬何言われてるかわかんないんだよね……。
えっと、なんだっけ。とりあえず、ボシャフトが必要でしょ、それ外には何だっけ。じぇ、じぇす? とふる? なんとかと、これは聞き取れたけど、メランカリシャとル・エインね。この二つは、アメリーさんの店にもあったから、何とか聞き取れた。
それから、センスクト草とフリューデ草だっけ。これも聞き覚えがあるっていうか、自分の拠点にはあった気がする。かばんに入れて持ってきたかは覚えてないけど、むしった記憶だけはある。
イベントに参加してからむしったかはわかんないけど、結構見たことある草もむしってたりするし、もしかしたら拠点の工房に放置してきた中とかにあるかもしれない。
「ほんっとカナカくんごめん。後で最中に素材とレシピは紙面で提出させるようにするから」
「え、あ、うん。……?」
生姜さんが本当に申し訳なさそうにそう言ってくるけど、僕は何に対して謝られてたんだろう。よくわかんない。まあ、聞き取れなかった素材についてはそのメモで答え合わせすればいいかな。
今砕いてた石屑の中にもそれがあるのかなぁと思いながら石屑の山を袋に流し込んでると、今までと若干違う感触があって手を止める。
掬い上げていた石屑の中に、なにかごろっとした、大き目の石塊が入っているのに気づいて、これが原因かと、その石塊だけ避けて、それ以外を袋の中に流し込む。
ひとまず石屑の山を袋に流し入れ終えてから、少し大きめの石塊を手に取ってみた。大きさは、最初気づかなかったのはなんで? と思うくらいには大きくて、僕の人差し指と親指をくっつけて作った円と同じくらいだから、直径だと5センチはありそうだった。
その石塊は、少し強めの明かりで透かして見ると、濃い色のついた透明色で、きれいに磨いたらキラキラしそうに感じる石だった。ガラスではないと思う。重さもそこまで重たくないように感じる。
この石、宝石みたいに研磨したらすごくキラキラしそう。通した光が周囲に蝶の鱗粉みたいにキラキラ光って見える気がするから、そんな感じでアクセサリーにできないかな。
頭の中に浮かんできたものを、かばんから取り出したノートに簡単に描きつけていく。耳に着けるイヤリングと、それと紐でつながってるイヤーカフなんてどうだろう。イヤーカフの方の形を、耳に蝶が止まってるみたいにして、イヤリングにはこのキラキラの石を使って、花を作って。
前にデザイン図案集をパラパラ見ていた時に見かけたものを参考にして、そこから石から受けたイメージを合わせて描いていく。多分、これは木製じゃ合わない。金属で透かしたような作り方をした方がいいと思うから、金属の扱い方もちゃんと学ばないと。四月朔日さんにも聞いてみようかな。
初稿のラフを書き終わったら、ノートと一緒に石塊を忘れずにかばんに入れる。忘れて帰ったら、せっかく書いたラフがむなしいものになっちゃうもんね。
かばんに入れてから、今の石塊を鑑定してなかったことに気づいたけど、まあ拠点に戻ってからか、次に同じ石を見つけたら鑑定すればいいか。
そう思ってから、そういえば鑑定ってどんなのとれるんだっけと思って、取得可能スキルを表示してみる。
相変わらずとんでもない量のスキルが表示されるけど、検索で鑑定で絞り込目が、20個くらいに表示数が減った。……減って20個くらいあるってどんだけ種類があるんだろ……。
取得に必要なSPは十分足りてそうだし、最中さんが言ってた「鉱物鑑定」と「調薬鑑定」をとる。それから、「植物鑑定」と「生物鑑定」も取得する。ほかにもあるけど、とりあえず今の僕が持ってて使えそうなのはこれくらいかな、と思う。
次に鑑定するときはもっと表示が増えてるのかな。この後気になったのがあったら鑑定してみよう。そう考えて、次の壁から生えてる石にツルハシを振り上げた。




