6.幻獣と加工と調剤と変人 8
「そうだ、先にこれ。砂なら砂で使い道はあるはずだし、この袋にまとめて入れて、拠点で選別してもいいよ」
意識のない最中さんをぽいっと放り出しながら、生姜さんはA4サイズくらいの巾着袋を差し出してくる。最中さんの扱いってそれでいいのかなって思ったけど、僕より長い付き合いの生姜さんがやってるんだからいいんだろうと思いなおし、その袋を受け取った。
巾着袋の口を開いて、とりあえず地面に広がった石屑を両手で掬い上げて袋に流しいれる。さっき山を崩しちゃった所為で、若干量が目減りしてる気がするけど、まあ仕方ないよね。
「最中さんっていつ起きるの?」
「ん~、多分十分もしないで再起動するよ」
「わかった」
ひとまず山になっていた石屑を、掬い上げられる限り掬い上げて袋に放り込み終わって、放り出されたために地面にすごい格好で倒れてる最中さんをみて生姜さんに確認すると、生姜さんは少しだけ逡巡した様子だったけど、にっこりと笑ってそう答えてくれた。
十分あればもう一つ壁から生えてる石を掘れそうだから、僕はきょろりと周囲を見回して、今いる場所から一番近い壁から生えた石へと、足元に放置していたツルハシを握って足を向ける。
その石も、さっき僕が掘り崩した石と同じような形、大きさをしている気がするけど、これって掘ったら採れるものも一緒なのかな。なら、ボシャフトも入ってるのかな。
微かな期待をもって、新しい壁の石にツルハシを振り上げる。カーンと澄んだ硬質な音が響く。さっき初めてツルハシを振り下ろした時よりも綺麗な音に感じるけど、どうなんだろう。ツルハシの先端とぶつかったところは、さっきよりも大きく穴が開いて、そこから亀裂が入っているようにも見えた。
カツーン、カツーン。最中さんのようなすごい音はならないけど、僕なりに力を込めてツルハシを繰り返し振り下ろす。何度も何度も繰り返すうちに、石とツルハシがぶつかったときにやってきた反動のしびれは少なくなった。
ツルハシと当たるたびに、ざらざらと崩れて石屑の山が積み上がるのを見て、落ちてきそうなところに先に袋を置いて、袋の中に石屑の山が直接入るようにした方があとあと楽だったかなと思ったけど後の祭りだ。
素直に壁から生えた石を削り切るまでツルハシを振り下ろし、削り切れたら巾着袋を開いて、両手で石屑の山を掬って流しいれる。新しい石屑の山が巾着袋の中に綺麗に収まったあたりで、最中さんが意識を取り戻した。
「生姜ぁ……ちょっとは手加減してよ……」
「手加減したら暴走状態が続くから却下」
遠慮容赦なく、意識が戻ったばかりの最中さんをベシベシと強くたたいてる生姜さんに、何だろう、最初の感じの生姜さんよりも、最中さんと接してるときの生姜さんの方が素に近いんだろうなと感じた。
「カナカくんもごめんね。今まで欲しくても全然見つかんなかった素材だったからね」
何度となく生姜さんとやり取りをしたのち、最中さんは僕を見てそう謝罪してきた。謝罪はどうすればいいんだろうと少しうろたえたけど、生姜さんが「本人の反省の気持ちの言葉だから、そのまま流してくれていいよ」と言われて、とりあえず頷いて流した。
「ボシャフトはおいておいて、もともとは何の用だったんだっけ」
「調合するときとか、植物はすり潰したり、ちぎったりすることが結構あったんだけど、石の時はそういうのしないのかなって」
「うん? どういうこと?」
「石屑の山を持って帰らないって聞いたんだけど、薬剤を作るときに砕いたりするなら、石屑の山ごと持って帰った方がいいんじゃないかなって」
「あぁ、そういうことか」
最中さんの問いかけに、僕はどうやって説明すると伝わりやすいのかなって頭の中で考えながらしゃべっては見るけど、説明するのって難しい。カササギさんによくいろいろ説明してもらってたけど、あの人の説明はするっと入ってくることが多いから、今度説明の仕方を教えてもらおうかな。
うまく伝わっていないところを付け足して説明すれば、最中さんにはそれでようやく伝わったようで、うんと一つ頷いて僕の疑問に回答してくれた。
「確かに調剤時に岩石系の素材は砕いてある程度細かくしたり、ものによっては粉末状にするよ。そこは間違ってない。そういう意味では採掘時の石屑サイズはちょうどいいんだけど、さすがに不純物が多すぎるんだ」
「不純物?」
「そう。採掘時に出る石屑の中に、調剤で使う素材や、鍛冶なんかで使う鉱石も欠片が混ざってはいる。ただ、そのサイズが小さすぎてそもそも選別に手間がかかること、こういった欠片の場合、採掘スキルなんかで得られた大き目の鉱物よりも周囲に欲しい素材ではないものが大量に付着していて、その不要部分を剥離するのにも結構な手間がかかる。また、この剥離を行うには、それなりの量を用意して行わないと剥離作業に使う燃料や素材を考えれば、非常に非効率なんだ」
「……へぇ」
さっきよりも早口ではないけど、やっぱり若干早口に説明してくれる最中さんに、二度目だけど圧倒されてしまって、それしか口から出てこない。
言われたことも多くて、何が何だか頭の中が混乱するけど、結論として手間に見合わないってことでいいのかな。
「最中、捲し立てるな」
「っ~~~~、いっだぁ……っ」
「カナカくん、大丈夫かい? 最中の言ってることがわからなかったらそう言ってくれていいからね」
「えっと、とりあえず、なんとなくわかったから、大丈夫……?」
相変わらず最中さんは生姜さんに拳を入れられてる。ゴツっと痛そうな音がしたから、本当に痛いんだろうなと思いながら、僕は生姜さんに素直に答えた。
生姜さんは、その答えにひとまず納得はしてくれたのか、「無理はしなくていいよ」とだけ言ってくれた。
「まあ、今回は石屑の山も一回持ち帰って、ボシャフトの見分け方について研究したいから、カナカくんも欲しいもの含めてこの辺の袋に詰め込んでいいよ」
「見分け方の、研究?」
「あぁ。毎回石屑一つ一つを鑑定する方が手間だからね。何か重さ以外に見分け方がないか研究するんだよ。その研究結果をほかの調剤師や採掘士に共有して、このマップや採掘所以外で得られた石屑でも同様の方法で見分けられるかを確認する。それがうまくいけば、今後はNPCだよりにしなくてもよくなるし、だめならだめで再研究する。非常にやりがいがあるよ」
最中さんが、生姜さんが渡してきたのと似たような袋を複数枚渡してくれる。繰り返される勢いのすごい説明だけど、最中さんの目がキラキラと輝いてて、すごく楽しそうだ。
「そういえば、カナカくんは調薬鑑定とか取ってるかい?」
「ううん。アクセサリーだけ」
「もし、今後も調合や調剤をするつもりがあるなら、『鉱物鑑定』か『調薬鑑定』のスキルを取得しておくことをお勧めするよ」
最中さんからの突然の質問に、素直に答えたらそう返された。そういえば、HELPを見た時に調薬鑑定だと薬剤の情報が増えるっていう例文があったのを思い出す。それを考えたら、確かに調薬鑑定を取ったら、薬剤に使えるかっていうのが表示されるし、便利なんだろうというのはわかるけど、もう一つのは何だろう。
「……『鉱物鑑定』?」
「カナカくんは鑑定スキルが大まかに二種類あるのは知ってるかな」
「『鑑定』と『アクセサリー鑑定』みたいなこと?」
疑問を口にすると、生姜さんがそう聞いてくるので、HELPで得た知識を口にすれば、生姜さんはその通りと一つ頷く。
「大体のプレイヤーの中で、前者は「基礎スキル」、後者は「特化スキル」と呼ばれてるんだけど、この「特化スキル」の中でも、いくつか分類があるんだ」
「……分類」
「そ。特化スキルの中に、「生産基礎」と「生産特化」と「素材特化」があって、鑑定で言うなら「鑑定」が「基礎」、「調薬鑑定」が「生産特化」、「鉱物鑑定」が「素材特化」になる。何が違うのかっていうと、基礎は本当に基礎的な部分で、分野全体を網羅するものになる。これとは別に、生産特化は「ついた名称の生産に使えるかどうか」が中心になって、最後の素材特化は「その素材そのものが使用された生産物がなにか」が中心になるんだ。今回で言うと、ボシャフトは鑑定スキルでは「見た目は他と変わらないけど、普通の石より重たい」としか出ない。でも、調薬鑑定を持ってたらそれに「調合の基礎素材として広く用いられるため、調薬師が求める鉱物」って表示される。鉱物鑑定だと、「様々な薬剤の基礎材料であるボシャフト剤の原材料。ハートナキグと合わせることで混合剤にも用いられるため重宝される」って素材自体の情報が出るんだ、生産するうえで情報を集めるのは自分の分野外でmっ、ぐぇっ」
また若干勢いの強い早口の説明がつらつらと流れてくるけど、なんとなく言いたいことは理解できる。僕が取ってる「アクセサリー鑑定」だと、アクセサリーに使えるかどうかが文章に表示されてたけど、もし「鉱物鑑定」を持ってたら、広く頒布されてる実際に使用されているものなんかの情報も出るって感じなのかな。
「まあ、今後も生産をしていくなら、素材系の鑑定を持ってたり、素材系の特化スキルを持ってると便利だよって話かな」
何度目か、生姜さんが最中さんに一撃入れて止めながら、簡単にまとめてくれる。なんていうか、まだこの二人と一緒にいるのは数時間くらいだと思うんだけど、この光景に見慣れて来てる自分がいて、何とも言えない気分になった。




