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2.始まりの街 6

「坊や、スキルは何をとってるんだい」

 あのあと飽きることなくずっとアクセサリーたちを眺め続けていたところに、おばさんからそう声がかかった。おばさんの言葉に、さっき取ったばかりのアクセサリーに関係する二つのスキル名を口にすると、ふむ、と一つ頷いて、おばさんは小さな箱をカウンターから取り出す。

 ……このカウンター、下にいっぱいもの置いてあるんだろうか。さっきもいっぱいアクセサリーが出てきたし。

 おばさんが取り出した箱は、おおよそ二十センチ四方くらいの、正方形の形をしたプラスチックのような質感に見える素材の箱だった。ふたには小さな持ち手がついてて、高さは十五センチくらいか、その中心は切れ目が走っていて、おそらく上下に開くことができるんだろう。こちら側に向けられた横面には、切れ目にまたがって宝石箱を想起させるような鍵がついていた。

「これはアクセサリー制作キットの初級セットさ。金属やガラスのような火を扱って加工しなきゃいけないもの以外、おおよそ手のひらサイズ以下のものなら作れる程度の用具が入ってるよ。もし、用具のサイズが扱ずらいなら、中級セットの方がいいけどね」

 いいながら、おばさんはキットの箱を開けて中から手のひらの中に収まりそうな小さなペンチをそっとこちらの手を取ってその中におさめる。

 男としてはそこまで大きくない手(体格もそうだけど、筋肉もそんなにつかないし手も足もさしてでっかくならなかったのは、小さかった父親の遺伝のせいだと思いたい)だけど、このペンチは確かに小さかった。軽く握りこめてしまうから。

 でも、これが小さくて使いづらいかどうかは、たぶん今はわからないと思う。

「こういうの、初めて触った」

「そうかい。じゃあしばらくそれを使ってみて、使いづらいようなら変えな。坊やはまずは工具やら素材を触るのになれるところからだろうしね」

 そもそも、こういうものにサイズがあることを今知った。まあでも、たしかにデカい手で小さいものを持ったり、小さい手でデカいものを持ったりっていうのは、どっちでも大変なことはあるというからそういうものなんだろう。

 おばさんの用意してくれたキットを受け取り、いくらなんだろうと尋ねると、おばさんはもう一つカウンターから小さめの冊子を取り出す。

「こいつもセットにして5,000ベギーだよ」

「……この本は?」

「初心者向けの入門書さね。坊やはまずこれを見て素材の扱い方を覚えるといいよ」

 なるほど。それは助かる。おばさんの好意に甘えて、入門書とキットで5,000ベギーを払おうとして、どうやって払えばいいのかと首をかしげてしまった。

「支払いってどうすればいいの」

「ああ、坊やはやっぱり“ユーバー”なんだねぇ。じゃあ、これでどうだい」

 おばさんはそういいながらカウンターで何かを操作するようなしぐさをする。すると、目の前に半透明のウィンドウが現れて、そこに「支払い」「5,000ベギー」「問題がなければOKを推してください」の文字と、「OK」「NO」というボタンが一つずつ。

 特に拒否する必要もないので素直に「OK」ボタンを押すと、チャリンという甲高い金属音が聞こえてびくっとしたが、おばさんは気にしてないので聞こえてないのか、さっきの音が当たり前なのかどっちかなんだろう。ちらっとステータスを見れば所持ベギーが半分の5,000Bに減ってるので、ちゃんと支払いはできたんだと思う。

「はい、確かに頂戴したよ。もし道具が足りないなんかあったら遠慮なくお言い。この店は完成品も取り扱ってるけど、工具類もそれなりに取り揃えてる自信があるからね」

「うん」

 おばさんの言葉にうなずいて、渡された箱と本を受け取る。これはどうすればいいんだろうと思えば、意識がすっと右腰にひかれる。すると、知らなかったが右腰にはウェストポーチがついていた。これは初期から持ってるのかな。気づいてなかったけど。

 ずっと手に持ってて落とすのが嫌だから、ウェストポーチのふたを開いてその中に箱と本を入れてみる。サイズ的にぱつんぱつんになりそうだなと思ったけど、思ったより大きいらしくするりと二つとも入っていった。

「そういえば坊や、素材は用意済みなのかい?」

「ううん、まだ。採取とか、採掘とかするっていうのは知ってる」

「おやおや。練習用なら品質が低めの素材でもいいだろうし、街の外である程度集められるはずさ」

「そうなんだ」

「そうさ。街の東口から出たところなら植物系の素材が、西口から出たところなら鉱石系の素材が集めやすいだろう」

 なるほど。おばさんの言葉を頭の中でメモに取る。鉱石系はたぶん、素材そのままじゃ使えなくて、そこからさらに加工しないと使えなさそうな予感がする。たしか、金属って掘り出したそのままじゃなくて、えっと、鋳造? だっけ、とりあえずなんか加工してインゴットとかにしてたはず。

「ありがとう。まずは植物の方から行ってみるよ」

「そうかい。街の外壁近くなら魔物も少ないだろうけど、気を付けるんだよ」

「うん。ありがとう」

 おばさんにそう答えて、とりあえず目的の第一歩としての制作用の道具は入手できたから、素材を取りに行くことにする。……どうやって使うのかとかはよくわかってないけど、まずは集められるものを集めてから、手に入った素材で作れるものを入門書から探してみよう。逆だと、素材が手に入らないからって変に固執しちゃってもアレだし。できるものから作ってみるのがたぶん一番いいと思うんだよね。別に「これが作りたい」って決まってるものもないんだし。

 会釈をしてからお店を出たら、外は結構暗かった。もしかして、周りにお客さんがいなかったのって、お店の閉店時間すぎてたからだったりする……? そうだとしたら申し訳ないな……。次にこの雑貨屋さんに来るときにお詫びしないと……。

 お店を出た後、おばさんに教えてもらった通り街の東口に向かって進み始めると、地図の上に小さなポップアップが表示される。えっと、「「雑貨屋アメリー」をお気に入り登録しますか?」……? 雑貨屋アメリーって、さっきのおばさんのお店の事かな。

 お気に入り登録ってのをするとどうなるんだろう。わかんないけど、次に来たいときに来やすくなるといいなという気持ちで、お気に入り登録するを選択する。そうしたら、地図の、今しがた後にしてきた雑貨屋のある場所が薄い紫色に染まった。後でHELPで確認してみよう。

 おばさんと話して大分ログイン時間を使っているから、もう少しでログアウトしなきゃいけなくなると思う。ログアウトしたら、今日はもうログインできないと思うから、少しでもやれることをやらないと。

 外壁に沿って地図に案内されるままに東口へと足早に進む。十数分くらいあるいて、ようやく目的地にたどり着いた。この街結構広いね……。まあ、最初にいたのが南口近くだったからっていうのもありそうだけど。

「もうすぐ夜ですよ」

 たどり着いた東口には、若干物々しい感じに武装した兵士が二人立っていて、そう声を掛けられる。

「外壁近くならあまり危なくないって聞いたから、少し採取したくて」

「なるほど。明かりはお持ちですか?」

 兵士のその言葉に、ハッとする。そういえばもうだいぶ暗くなってるじゃん。明かりもないのに採取するものを見つけられるのか……?

「おそらくユーバーの方と見受けられますが、それでも夜の採取は大変だと伺っています。差し支えなければ、翌朝にでも改めた方がけがもないと思いますよ」

 丁寧な兵士の言葉はまっとうだった。兵士の言葉にうなずき、東口から少し離れた場所でログアウトすることに決める。少し残念だけど、夜が明けるころにはログイン制限時間だ。どっちにしろログアウトしなきゃいけないんだからと、早々にログアウト操作をした。

 主治医からログイン回数は一日二回まで、早めにログアウトしてもそれは変更なしと指示されている。これは、いまいち自分では意識していないけれど、病んでる自分がゲームに依存することで生活を破綻させないようにする措置らしい。リハビリ扱いじゃないんかい、と主治医に突っ込んだけど、事実似たような経歴でオートラヴィーダじゃないけど、似たようなフルダイブ式VRを使ったリハビリをした患者がVR世界に依存して生活が破綻した前例があるらしいから、まあ仕方がないのかも。

 出された味気ない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。それから、やることがないからギシっときしむベッドに横たわり、上かけをかぶって目を閉じる。

 明日も、オートラヴィーダをやってみよう。明日のことを考えられるようになっている自分の変化に気づかず、とろりと訪れた眠気に身を任せた。

書き溜めはここまでになります。

次回からは書きあがったら翌日の10時に投稿します。


ここまでのステータスは以下になります。


PC名:カナカ

身体状況:五体満足/所持金:5,000/所持品:初級アクセサリー制作キット/アクセサリー作成入門書

拠点:なし

所属:なし

未使用SP:22P

取得済みスキル:歩行Lv5/視線察知Lv6/格闘技術Lv2/蹴術Lv1/アクセサリー制作Lv1/アクセサリー鑑定Lv1

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