6.幻獣と加工と調剤と変人 7
「どうしたの? 何か困ってる?」
肩を叩かれる感触とほぼ同時に、生姜さんの声が降ってくる。声の方を見上げると、生姜さんがツルハシ片手にこっちをのぞき込んでいた。僕よりもでっかくてガタイのいい生姜さんと、僕が持ってるくらいのサイズのツルハシがミスマッチに見える。
「これ、どうしたらいいかなって」
ちょうどいいやと生姜さんにそう問いかければ、僕の後ろから僕の足元に広がる石屑の山を見て、「あぁ、なるほど」と納得したように頷く。
「石屑に関しては、基本的に捨ててる人が大半かな。含まれてるのもあまり価値のない、ただの石がほとんどだし、価値ある鉱石類が含まれてても、小さすぎて使いづらいことが多いからね」
「そうなの? 薬剤にするなら、細かい状態の方が使いやすいんじゃないの?」
「……ちょっと最中を呼んでくるね」
生姜さんの説明に沸いた疑問をそのまま投げ返すと、生姜さんは考えもつかなかったみたいに目を丸くして、まだ中央の岩に奇声を上げながらツルハシを叩きつけてる最中さんの方に走っていった。
でも、そうじゃない? 大きい鉱物をそのまま使うわけじゃないだろうし、液体に溶かすにも、他の素材と混ぜるにも、小さい方が溶けやすいし混ざりやすいよね。
「キュ~キュイ、キュ~イィッ」
「……? 何か欲しいのでもあるの?」
おとなしくしてたニニが突然鳴きながら小さい手をバタバタさせる。その手の先が石屑の山を指してるように見えたから尋ねてみるけど、ニニが何を要求してるのかはよくわからない。何かを主張してるのはわかるんだけどね。
ニニをつかんで石屑の山に近づけてやると、ニニは砂埃が舞うのも気にせずに石屑の山を小さい手でかき分ける。サクサクと山を崩しながら一直線に進んでいく様子に、やっぱり何か欲しいものがあるのかもしれない。
「なにしてるの? 幻獣くん」
後ろから聞こえてきた声に振り替えると、じっとニニの方を見つめる最中さんがいた。その横には生姜さんもいて、二人ともニニの行動が気になるみたいだ。
僕も気にはなるので、「ほしいものあるんじゃない?」とだけ答えてじっとニニの様子を眺める。さほど時間をかけずに、ニニは石屑の山の中から、ニニの両手で十分持てるサイズの灰色の石を掘り出して頭上に掲げてた。まぁ、短くて頭の上前は届かなくて、ニニ自身の鼻の辺りまでしか上がってないけど。
「なぁに、それ」
僕がニニに問いかけると、ニニはなんだか恭しくそれを僕に差し出してくる。受け取って眺めるけど、ただのその辺にある石と見分けがつかない。鑑定をかけてみるといつもと同じように文章がポップアップする。
ボシャフト
性質:雷属性 品質:E 平均売価:10B
とある地域でしか生成されていない鉱石。
見た目は多数ある岩石と変わらないが、一般的な岩石よりも若干重みがある。
ふぅん? なんかいつもより表示されてる文章が少ない気がするなと思ったけど、よく見れば、いつも文章の最後の方にあった「アクセサリー職人の~~」っていう部分がない。
この石はアクセサリーには使えないってことなのかな。どうなんだろう。まあ、パッと見た感じ普通の石っぽいし。使い道はないのかな?
「見たことないなぁ。最中さん、これ知ってる?」
後ろにいる最中さんにそう言いながら石を差し出す。最中さんはニニにじーっと視線を向けたまま、「ん-?」と手を出してきたので、とりあえず手のひらの上に石をのせた。
「うぉっ!? びっくりした、想像より重たいね、これ」
のせた直後、最中さんの手が大きく下に引っ張られて、最中さんが少しだけよろけた様子を見せて、目を丸くしながら石を見る。そんなに重かったかな、と思いながら、最中さんの回答を待っていると、生姜さんも「普通の石っぽいね」とつぶやいてた。
「キュ~。キュキュ、キュィィ」
「んん?」
最中さんたちを見てると、足元でニニが鳴いたのでそっちを見れば、ニニは若干不満げな表情で両手をバタバタとさせている。最中さんに渡したのが気に食わなかったのかな。
とりあえずニニをつかんで肩口に乗せれば、また頭を僕の首筋に頭突きを繰り返し始める。若干痛いけど、機嫌が悪そうだからそのまま受け入れてると、「うぇっ!?」という最中さんの悲鳴が聞こえた。
なんだと最中さんに視線を戻すと、最中さんがさっきの石をつまみ上げてじっと観察しているのが見えた。
「これ、ここで採れる奴だったんだ……! え、ここ限定なのか、それとも他の採掘所でも採れるのか……」
なんかぶつぶつ言ってる。なんだろ、このボシャフトってなんか珍しいのかな。まあ、特定の地域でしか生成されないってあったし、いつもの街がある場所じゃ採掘はできないんだろうけど。
「ね、ニニ。さっきくれた石ってまだあの山の中にあるの?」
もし珍しいなら、後から必要になるかもしれないし、集めてもいいかも。だから、最初に見つけてくれたニニに尋ねると、ニニは頭突きをやめて大きくうなずいた。あるんだ。
石屑の山を見下ろして、とりあえずその山を小さく崩してみる。でも、さっきの鑑定の文章通り、見た目じゃ全然わかんない。僕が作った石屑の山はほぼほぼ灰色の石屑で構成されてて、ところどころにカラフルな小さい粒が見える。
カラフルな小さい粒は、鑑定すれば現実でも見たことがある宝石の名前が表示されていたから、なるほど、宝石はこうやって出てくるんだと納得した。ただ、この小さい粒は原石らしいので、色は確かに名前の宝石のイメージの色味だけど、キラキラさはちょっと少ないかも。
宝石ってキラキラしてるイメージだったけど、原石だと違うのかもしれない。この辺は、まだ触る予定じゃなかったから、ちゃんと調べてないんだよね。せっかく採掘に来たんだし、拠点に戻ったら原石の扱い方について調べてみようかな。
「ニニ、どうやって見分けるの」
「キュキュイ? キュ~、キュイキュィィ!」
崩して小さい宝石の原石粒を拾い上げながら石屑の山を見るけど、やっぱりボシャフトがどれかはわかんない。ニニに尋ねてみるけど、ニニも両手を前に突き出して、その手を上下させて見せるだけだから、多分重量で見分けるしかないっぽい。
でもさぁ、このちっこい粒の重さで確認するの無理じゃない……? どうすればいいんだろう。
目の前に鎮座する石屑の山に困って最中さんをもう一度見れば、無言で発狂してる最中さんを押さえつける生姜さんがいた。
「……何してるの」
どう反応するのが正しいのかわからなくて、恐る恐る声をかけると、最中さんの目がギラっと光って僕を見た。
「カナカくん、これは世紀の発見なんだよ!! どうしてもギルドや組合商店では購入制限がかかりまくって非常に困ってる素材が、実は採掘で手に入るなんて! しかも入手方法がないとみられてたボシャフトだよ!? 興奮冷めやらないよ!!!! ボシャフトはなんだかんだ言いながら調剤に必要な基礎4素材の一つのわりにどうしても第五の街まで進んでも全く採掘される様子もなくて入手方法がNPCからの入手に絞られてて調剤を極めたい我々にとっては目の上のたんこぶ状態だったわけで、さらに言えば今まで入手出来ていたボシャフトはすでに加工済みだったせいかどれだけ鑑定をしても一切の情報が出てこずどんな見た目なのかすらわからない状態だったのが、ようやく加工前の状態を理解できるわけだよ!!!! 歴史的な発見だ!!!!」
めっちゃ早口になんかよくわかんないことを捲し立てられる。息継ぎどうなってんだろう。勢いがよすぎて飛んできた唾を避けながら、どうしようかなと考える。
ニニも最中さんの様子に引いてるみたいで、また僕の首の後ろに隠れてる感触があった。僕から返せる言葉もないし、この石屑の山をどうしたらいいかもわからないし、採掘ってどうしたらいいのかな。
そんなことをぼんやりと考えていると、最中さんを取りうさえていた生姜さんが最中さんを締め落としたみたいで、急に最中さんの声が途切れたなって思ったら、生姜さんの腕の中で泡を吹いて白目をむいてる最中さんがいた。
「はぁ、カナカくんごめんね。再起動するまでちょっと待ってほしいな」
ふぅ、と一仕事しましたと言わんばかりに晴れやかな表情の生姜さん。……何だろう、この人たちって漫才してるのかな。カササギさんのゲーム仲間って、僕が言うのもアレだけど、変な人多いね。




