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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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6.幻獣と加工と調剤と変人 5

 何度か瞬きをすると、真っ白な視界に徐々に色が増えていく。青白いあの空間ではなく、深かったり柔らかかったりする緑が五割、雲と空の青が五割。

 服で覆われてない足や腕の辺りをくすぐるものがあって、鼻の奥に草特有の青っぽい匂いが侵入してくる。あと、なんだか頭がふわふわしている気がするけど、そのふわふわ感はすぐに引いて行ってはっきりしていった。

 で、ここはどこなんだろうと思ったら、元の森の池のところに戻ってきてたみたい。腕に力を入れて上体を軽く起こせば、あの白い石みたいなので囲まれている小さい池が見える。

「あっ、カナカくん起きた!」

 ちょっと離れたところから最中(モナカ)さんの声が聞こえてそっちを見ると、少し離れた場所に最中さんと生姜さんの二人が立っていた。

「カナカくん、大丈夫? どこか具合悪いとかない?」

 軽い足音を立てて近寄ってきた生姜(ジンジャー)さんが、膝をついて僕と視線の高さを合わせながらそう聞いてくる。具合と聞かれて、ちらっと両手両足を軽く動かしてみるけれど、違和感は特に感じてはいないから頷いて見せると、生姜さんはなんだかホッとしたような様子に見えた。

「僕、なんだかよくわかってないんだけど、ニニに言われて池の水を飲んだ後、どうなったの?」

「水飲んだ途端に倒れたんだよ。幻獣くんも見当たらないし、鸞瑪(スズメ)んとこの子って聞いてたから、鸞瑪に連絡してたトコ」

「……そうなんだ」

 カササギさんにちょっと心配かけちゃったかな。でも、僕もニニに言われただけだから何が起きるかなんてわかってなかったんだけど……。

「とりあえず鸞瑪(スズメ)には平気そうだって連絡したよ。何かイベント起きてたの?」

「……イベント?」

 イベントって何だろう。今ここに来てるのがイベントなんじゃないの?

「あ、えーっと、なんていえばいいかな。プレイヤー毎に個別に起きる特殊な演出って言うか、状況っていうか……。今までのパターンとして、同じ場所に複数人いるのに、特定の人だけが意識を失ったりとか倒れたりすると、その特殊な演出が起きてるってことが多いんだよね」

 ほへぇ。そんなことがあるんだ。

 生姜さんの説明を聞いて、確かにあの青白い空間には僕とニニとあの不思議な声しかいなかったと思うから、生姜さんのいう状況に当てはまってる気がする。

「状況からしてイベントに突入したんだとは思ったけど、時々急病で倒れることもあるからね。状況が、池の水を飲んだ直後だったし」

 なるほど。確かに普通だったらよっぽど綺麗なもの以外はそのまま飲んじゃダメなんだっけ。その辺りはあんまり学べてないけど、中学校か高校の時の家庭科か理科でそんな話を聞かされたような気がする。

「ちなみに、このサバイベの初回はひどい水質汚染で病気になって死んだプレイヤーが結構な人数いたよ」

「今回は平気なの?」

「あぁ、水回りは(コウ)真鯛(マダイ)が確認済みだからね。多分、調理用にはちゃんとろ過設備なんかの浄水設備を追加してあるし、拠点で口にするものに関しては心配しなくて大丈夫だよ」

 へぇ、サバイバルって大変なんだな……。

「キュゥイィ……」

 そんなことを考えていると、ちょっと離れたところからニニの鳴き声が聞こえてきた。そっちを見ると、なんだか少しだけうなだれたような姿のニニが、短い足をてぽてぽとさせながらこっちに向かって走ってきている。

 多分乗りたいんだろうなと思って、上りやすいように手を地面に置いたら、素早く腕を登ってきていつもと同じように、いつもよりも若干強い力で首筋に頭突きしてきた。

「もういいよ」

 特に僕の方は何も思ってないことを伝えながら指先で突いてやると、なんだか情けなく聞こえる鳴き声を上げてきたので、さらに突いた。

「で、結局ここって採掘できるの?」

「キュッ、キュキュイ~」

 僕が問いかけると、ニニは大きくうなずいて肩から走り降りて行ったかと思うと、池の周りの石の中で一回り大きい石の前まで進んでいくと、その意思をぺちぺちと小さな手で叩いて見せた。

「この石から採掘できるの?」

「これから採掘できるのは初めて知ったかも。ちょっと掘ってみるか」

 最中さんがそう言いながら、どこからか取り出したツルハシを振り上げる。そのままツルハシの先端が石に触れて、澄んだ硬質な音を響かせる。

 ツルハシが突き立てられたことによって微かにこぼれた石屑と、石全体に走る亀裂。二度、三度とツルハシが振り下ろされるたびに、亀裂は大きく深くなっていく。

 ぽろぽろとこぼれていく石屑って何かに使えるのかな。なんて考えていたら、もうほとんど半分に割れてる感じにあったあたりで、ズズズッと何か引きずってるような、こすれる音が聞こえてくる。

「……これ、なんのぉt……」

 ちょっと離れた場所で最中(モナカ)さんを眺めていた生姜さんに尋ねようとしたところで、ガラガラドサドサと大きな音が鳴って、最中さんの姿が消えた。

 すごい音にびっくりして肩が震えたけど、生姜さんが焦ったような様子が見えなかったから、よくあることなのかと思ってよく見ると、さっきまで最中さんがツルハシで叩いてた石があったあたりが陥没しているように見える。

 小さな池の水がその穴に流れ込むんじゃないかと思ったけど、どういう原理なのか、池の水はそのままその場にとどまってて流れ落ちる様子はない。マジでどうなってんだろう。

生姜(ジンジャー)、想定以上に深いからちょっと縄梯子(なわばしご)かけて」

 少し硬質に反響した最中さんの声が土の中から響いてくる。その声に反応して、離れたところにいた生姜さんが近寄ってきて、そこをのぞき込んで「へぇ」とつぶやく。

「俺は測量系のスキル取ってないけど、4メートルくらいあるな……。最中、けがは?」

「平気。パルクールでも登攀(とうはん)でも、さすがにこれは無理。逆すり鉢になってるから、普通の縄でもキツイ」

「長めの方投げ入れるけど、多分下まではつかないかな」

 言いながら、生姜さんはぐるぐると巻物みたいなものを取り出したと思ったら、それをぽいっと穴の中に放り投げた。でも、手にはその巻物の端っこらしい部分が握られていて、その握ってた物の端っこを穴の端にひっかけて、何かを地面に突き刺す。

 何だろうと思ってそれをじっと見つめると、放り投げたのは最中さんに要求された、二本の縄の間に何本も平行に縄を渡らせた縄梯子で、穴の端に突き刺したのは、その縄梯子を固定するための何かみたいだ。

 あんなので止まるのかなと思ったけど、生姜さんたちは特に気にした様子もなく、話を続けてる。

「おっけ、下まではつかなくても握って上がれる程度までは来てる。実際上がんのむずかったら、改めて長いの持ってくればいいよ。それより、この穴、横穴が開いてんだよね。奥の方みたいから降りて来てくんない?」

「わかった。カナカくん、この縄梯子降りれそう?」

 生姜さんに言われて改めて縄梯子を眺める。細く見える縄でできたそれはふらふらと揺れていて、安定感は全くと言っていいほど見て取れない。これにつかまって降りるのも登るのも大変そうだなとは思うけど、降りれるかと聞かれれば降りれると思う。

 生姜さんの言葉にうなずくと、生姜さんは「よかった。じゃあ俺が先に行くね」と言い置いて穴の中に飛び込む。

 ……縄梯子使って降りるわけじゃないんだ。さっきの質問は何なんだろうなと思いながら、僕も最中さんと生姜さんのところに行くために、穴の淵からのぞき込んでみる。

 さっき最中さんが言ってた通り、中は下に行くにつれて広がっていく形で、穴の狭さに比べて下は結構広い。穴は最中さんと生姜さん並ぶとキツいくらいなのに、下では余裕……なんだったら歩き回れるくらいの広さがあった。

 穴はその空間の、中央部の天井部分に当たるみたいで、縄梯子はその穴から差し込む光で短い影を作ってる。

「……ニニ、つかまってて」

 いつの間にか首筋にしがみついていたニニをてのひらで包んで抑え込むようにしてカバーしながら、僕は穴の中に飛び込んだ。

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