6.幻獣と加工と調剤と変人 4
その池みたいなのは、綺麗な白色の丸みのある石で囲まれてる。大きさはそんなに大きくなくて、大体2㎡くらいだとおもう。深さはぱっと見じゃわからないけど、水の色がすごい綺麗だから、そこそこ深いんじゃないかと思う。
周辺には生き物の気配もなくて、すごくシンと静まり返ってる。静謐って言葉がぴったりな空間がそこにあった。
「……綺麗なところだね」
生姜さんが囁くような小さい声でつぶやく。拓けてるから池には光が降り注いでて、それが水面ではねてキラキラと光ってる。
「きゅ~いっ、キュイ、キュイ」
あってよかったと言わんばかりのニニの鳴き声に、ここってないこともあるのかなと疑問がわくけど、ニニが直接答えてくれるわけじゃないからそのまま池に近づいてみる。
近づいてみれば、池の水自体がなんだかキラキラしてる。この水って、持って帰れないのかな。すごくキラキラしてて綺麗だと思う。瓶詰とかにしたらすごくいいかもしれない。
でも、さすがに瓶はもってないよな。かばんの中のものを思い出してみるけど、液体を貯めて置けるような器は持ってなかった。瓶とか作れるのかな。後で確認してみよう。
「今までこんなとこ報告出てた?」
「いや、こんな静かなところは報告に上がってないな。特殊な水場の報告はあったけど、ただ単に池って聞いてるし、あってもこんな作られた池っぽいものじゃないらしい」
生姜さんは何かの画面を開きながらそう教えてくれる。きっと何かで調べてくれたんだと思うけど、そっか、情報がない場所なんだ。
そっと池の水に手を入れてみると、その冷たそうな色とは異なってほんのりと暖かい。そのままちょっと掬ってみると、手の中でもほんのりと青みがあるように見えた。
「キュイッ、キュキューイ、キュィッ」
ニニがそのまま水を飲めを言わんばかりに鳴き声を上げる。え、これ飲んでも良いの……? 一瞬悩んだけど、ニニは僕を促すように小さい手を口元に当てて頭をくいっと傾けるのを繰り返すから、よっぽど飲んでほしいみたいだ。
……まあ、ゲームだし大丈夫だろう。意を決して僕は手に掬った池の水を煽った。
「えっ、カナカくん!?」
少し遠くで生姜さんの声が聞こえたと思ったら、周辺の景色が変わった。そこは、さっきの森の中の拓けた小さな空間じゃなくて、広々とした、昨日ニニに連れていかれた場所のような、淡く青白く光っている木々に囲まれた綺麗な空間だった。
昨日の場所と違うのは、昨日は木々が通路のようにずっと奥へと続いていたのに対して、今回は中央部分がぽっかりと空いていて、そこからはびっくりするくらい暗い空が見えている。今見えてるのは木々が光源になってるからだと思う。
それから、木々の中央の地面には、ここに来る前に見た小さな池と同じような池があって、その池はさっきの池よりももっと、なんていうか、のどのあたりがぐっと押さえつけられるような感覚があって、反射的に口の中にたまっていた唾液を嚥下した。
「キュイ~、キュキュイ」
僕の腕をすべるように地面に降りて行ったニニが、池のほとりに進んでいく。そして、どこか親し気に鳴き声を上げながら、ペチペチと手で池の水面を叩いた。
[なんです、騒々しい]
すると、四方八方から反響しているような声が聞こえてきた。どこか威圧的な、上から見下ろしてるようなその声は、反響しているだけじゃなくて、なんだか機械で加工されてるような感じで、男女の判別もつかない。
「キュイキュ~イッ、キュイキュイ~ッ!」
[おや、カーバンクルウラルトではありませんか。人間嫌いのそなたがなぜ人間といるのです?]
「キュ~。キュキュイ、キュイ~」
[それは何とも珍しい。確かに、そなたの言う通り、資格を得られそうな人間ですね]
反響してる声と、多分ニニは会話してるんだと思う。何度もやり取りをするように手や頭を動かしながら鳴いてる。あと、かーばんくるうらるとって何だろう。かーばんくるはニニのの種族名でしょ? そのあとの「うらると」は「Uralt」のことかな。
もしかしてニニって普通のかーばんくるじゃなかったりするのかな。でも、確かにニニって僕の言葉を理解してるっぽいし、知能が高いタイプのカーバンクルなのかもしれない。ほかのかーばんくるを知らないけど。
[そなた]
うーん、動物図鑑とか、やっぱり知識を得るために本を見たい。確か、図書館は僕が今いる街の次の街にあるんだっけ? このイベントが終わったら図書館に行くために次の街ってトコに行こうかな。
今まで街の外に出た時には魔物ってのと遭遇はしなかったけど、別の街に行くときは危険だってハンナが言ってたし、カササギさんにそのことについては聞いてみようかな。
[そなた、そこの人間]
あ、そういえば採掘ってどうすればいいんだろう。なんかニニに促されるままにこの場所に来たけど、ここで採掘ができるのかな。
でも、そもそも採掘ってどうやってやるんだろう。採取用の刃物を買ったときに、「どうせ採掘もするだろう」ってアメリーさんがツルハシとシャベルもセットで売ってくれたから、多分これを使うんだろうとは思うんだけど。
さっき生姜さんが採掘ポイントって言ってたから、採掘できる場所がどっかにあるんだと思うけど、どんな感じって言ってたっけ。池の端っこの石碑みたいな岩? だっけ。あと、池の中にもなにかあるって言ってた気がする。
[そこの人間。反応なさい]
そう思って池をじっと眺めてみるけど、池は波紋すらない、綺麗な水面がほんのりと青白く発光してる。池の中は澄んでるように見えるけど、全く見えない。
これは底が深いからなのかな。それともこの池が特殊だから底が見えないのかな。どっちだろ。
……そういえば、生姜さんと最中さんがいないんだけど、どこに行ったんだろ。はぐれるような距離でもなかった気がするんだけど、周囲を見回しても誰もいない。
反響する声の人もいないし、どうしようかなぁ。ニニ持って、もっかい水を飲んだら生姜さんたちがいるところに戻れるのかな。
「キュキュッ、キュイイイッ」
「……? ニニ、何?」
[人間、わたくしの声が聞こえませんか??]
「……あ、もしかして僕のこと呼んでたの?」
[そなたは人間ではないのですか……?]
「どうなんだろう。人間なのかな?」
僕って人間なのかな。どうなんだろう、よくわかんないや。
「それで、なぁに?」
[……まあいいです。そなた、名前は?]
「僕? カナカって名前かな」
[カナカですね。カナカ、そなたにこちらを差し上げましょう]
「……?」
反響する声がそう言ったのと同時に、僕の目の前に何かが落ちてきた。とっさにそれをニニをつかもうと考えて持ち上げていた手で受け止める。
冷たい感触に手の中を見ると、まるで氷みたいな向こうが透けて見える薄水色の宝石みたいな石があった。一応手のひらで握りこめるくらいの大きさで、これはどうすればいいんだろう?
[そなたが必要な行いを続ければ、感情石は色を取り戻すでしょう]
「……エモーションステイン……?」
なんか英語っぽいけど、これって多分EmotionとSteinだよね。感情の石って意味がわかんないんだけど、何に使うのかな。
「これ、どうすればいいの」
[そなたが所持している限り、感情石はそなたの行動を感知し、必要な行いがあれば色を取り戻していきます]
「何色になってくの?」
[この感情石は深い青色になっていくことでしょう]
「ふぅん」
指先でつまんで光に翳してみると、キラキラと光を反射するのはすごくキレイだと思う。この石を中心にして、周りに似た系統の色の石をいっぱい配置した髪飾りとかよさそう。でも、おっきいから重たくて髪から落ちちゃうかな。
大事そうな石だから、半分とかに分割したらダメかな。分割したら耳飾りにしてもよさそうだな。
[感情石が色を取り戻したのち、感情鍵を作りなさい。そうすれば、そなたたち渡来人の使命が進むでしょう]
「……? そうなんだ……?」
ユーバーの使命って何だろう。ユーバーって確か、僕みたいなゲームをしてる人のことだよね。これもカササギさんに聞けばわかるかな。
[さぁ、帰りなさい。そなたがいるべき場所へ]
反響している声がそう言うのが早いか、僕の視界が真っ白に染まる。何が起きたのかわかんないでいると、背中が何か柔らかいものに包まれたような感覚がした。




