6.幻獣と加工と調剤と変人 3
エントランスには、若干物々しい雰囲気の格好をしたれるん。さん、カチュさん、カササギさんとあの服をくれた変な男がいた。ぐるりと広めのエントランスを見回すけど、ジンジャーマンクッキーさんと最中食べたいさんの姿は見えない。
「生姜たちはもうちょっとしたら来るよ。俺たちも出てくるから、なんか面白そうなものがあったらお土産に持ってくるね」
「ん」
カササギさんの後ろで悶えてうずくまってる変な男は見なかったことにしてカササギさんに頷くと、カササギさんは変な男の頭に持っていた刃物の柄をめり込ませると、「行ってくるよ」と言って男を引きずってれるん。さんとカチュさんと一緒に玄関を出て行った。
あの男はほんとに何なんだろう。服くれたのはうれしいけど、何したいのかよくわかんない。
「キュキューイ、キュイィ?」
「ん? あの男? よくわかんないけど、今着てるこの服をくれたんだよね。でも僕と会うたびにあんな感じだから、よくわかんないんだ」
「キュゥイィ……。キュッ、キュイイッ」
「まあ、近づいてこない限りは無視していいと思うよ」
若干しかめっ面にも見える表情をしながら、ニニはたぶん「あいつ大丈夫なの?」と言いたげに鳴く。だから、とりあえず今着てる服を作ってくれた人だってことと、ニニに会う前からあんな感じだって教えたら、「絶対危ない」と言わんばかりの鳴き声を上げる。
……あの男、ニニにまでおかしなヤツ認定されてるけど、大丈夫なのかな。
「幻獣くんが鳴いてるけど何かあった?」
その時、食堂の方からやってきたジンジャーマンクッキーさんが不思議そうに声をかけてきた。
「キュキュイ~っ、キュイッ! キュ~~~ッ」
「えっと、さっきカササギさんと一緒にこの服くれた、あの……」
「あぁ、織夜?」
「たぶん、そいつ……その人? がいたんだけど、こっちみて挙動不審で」
「……あぁ、本当にごめんね」
「で、朝一の、食堂行く前にもそんな挙動不審な感じで、ニニが「あの男に近づいたら危ない」って鳴きだして……」
そこまで伝えたら、最中食べたいさんはいつものことじゃんと言いたげだったけど、ジンジャーマンクッキーさんは頭痛を覚えたのか、顔をしかめながら頭を押さえた。
「織夜って服飾デザインは神なこと多いけど、中身本当に気持ち悪いもんね」
「万が一手を握ろうとかしてきたら、遠慮なく殴り飛ばして、鸞瑪に連絡してね」
「……? うん」
なんでそんなこと言われたのかはよくわからないけど、とりあえずジンジャーマンクッキーさんの指示に頷けば、ジンジャーマンクッキーさんはほっとしたように息をついた。
「それじゃ、遅くなったけど行こうか」
ジンジャーマンクッキーさんに促されてエントランスから拠点の外に出る。それから、ジンジャーマンクッキーさんは手元に見たことがない地図を一枚取り出して見せてくれた。
「それじゃ、今回の場所なんだけど」
そう言いながら、ジンジャーマンクッキーさんが指したのは地図の端っこに近いところだった。
ただ、この地図はすごく不思議な形になってて、まず中央にたぶん切り立った崖みたいなところがあって、そこから東西南北に川のようなものが流れてる。その川の流れていった先は、地図の用紙一杯のところで円が描かれていて、そこから先は真っ白だった。
その地図の、東側の川の中腹くらいに、川からちょっと北に行ったところに小さな窪地みたいな場所があって、そこに丸っとした鳥のアイコンが描かれていた。
その鳥アイコンから円に近い川下の方が、ジンジャーマンクッキーさんが指した場所だったけど、そこには特に目立ったものはないけど、石みたいなアイコンが描かれてて、よく見たら同じようなアイコンが地図の中のあちこちに描かれてた。
「すでに見つかってる採掘ポイントが、拓けていて花畑になっておらず、広場の中央部が若干へこんでいるところの、へこみを掘ると採掘洞窟が出現するらしいんだ。あと、池があったら、そこの端っこに石碑みたいな岩がいくつか並んでるらしいんだけど、そこも採掘ポイントだそう。それから、池の中に岩があることもあって、その岩を採掘するとイベ限鉱石が取れるらしい」
つらつらと説明されることに、すごいなぁと思う。言われた景色を見た記憶あったかなと思い返すけど、僕は見た記憶はなかった。というか、このアイコン僕らがいる東側だけじゃなくて、西南北の分もある。どうやって調べたんだろう。
「これって、ジンジャーマンクッキーさんが調べたの?」
「ん? ああ、俺は知り合いが多いから、知り合いから教えてもらったんだよ。それと、ジンジャーマンクッキーって長いから、生姜でいいよ」
「あ、ボクも最中でいいよ~」
「ん」
カササギさんは採取場所とかは共有するかは選べるって言ってた気がするけど、結構みんなオープンに教え合ってるのかな。一先ず、僕らはジンジャーマンクッキーさん……生姜さんのアイコンだらけの地図をもとに採掘場所へと歩き始める。
ニニは、歩き始めた当初こそ最中食べたいさん……最中さんを警戒するように、最中さんがいる側とは反対側の首筋にへばりついて、最中さんを観察してたけど、最中さんが暴走してどこかに走っていこうとするたびに生姜さんが力づくで止めている様子を見て、徐々にその警戒も収まっていったように見えた。
最中さんはニニに近づいて来ようとする気配はあったけど、そのたびに気づいた生姜さんが止めて呉れれたから、それは正しいんだと思う。かーばんくるってそんなに珍しいのかな。
採掘場所は、拠点からはちょっと離れてた。昨日の花畑よりも、最初にやってきた場所よりももっと先にあって、たどり着くまでに結構な時間がかかったけど、その間に最中さんが教えてくれた調合の話は面白かった。
実際に使うかはわからないけど、集中力が上がるポーションってどんなのなんだろう。集中力が上がったら、もっとうまく作れたりするのかな。作り方も、最中さんに聞いた感じだとそこまで難しくもなさそうだから、どうしてもうまくいかないときに試してみるのはいいのかもしれない。
途中で出てきた魔物(今回も昨日見たのと同じイノシシだった)は、生姜さんが倒してくれた。生姜さん、遠距離魔法担当だって聞いてたけど、聞き間違いだったのかな。杖みたいな棒をくるくると器用に回しながら、イノシシの脳天に棒を叩きつけてイノシシの頭をベッコリとへこませてた。
「生姜、サブの格闘術のために筋力が上がるスキルを軒並み取得してる怪力ゴリラだから気を付けてね?」
そう僕にぼそぼそっと囁いた最中さんは、直後に生姜さんに頭を鷲掴みされて、「誰のせいでそんなステスキル取る羽目になったと思ってる?」って凄みのある笑顔を向けられてた。
……たぶん、生姜さんは苦労人なんだと思う。っていうか、そんな怪力の生姜さんに頭を鷲掴みされたのに、「痛いいいいっ」って騒ぐだけで、怪我してる様子のない最中さんは一体何なんだろう。
なんかよくわかんない二人だなぁ。そんなことを考えながら、先導してくれる生姜さんの後についていくだけでよかった。
「カナカくんが気になるものがあったら採取してもいいから、声をかけてね」
そう言ってくれる生姜さんは優しいと思う。まあ、うん。
「ひゃっほぉぉぉいっ! フェゲフェゥアーげっとおおおおおっ」
「最中ぁぁっ!! カナカくんもいるんだから勝手に採りに行くなって言ってるだろうが!!!」
「あっちにボシェットだ! ポーションポーションポーション」
「あ、こら! そっちじゃない! 行くな、戻れ、最中ぁああああああああっ!!!!」
……すっご。肩に乗っかってるニニと顔を見合わせながら、僕はその光景を眺めるだけだ。さっきから、最中さんは視界の端に、たぶん、ポーションの素材と思わしきものが入るたびに奇声を上げて走っていくし、生姜さんは怒鳴りながらその最中さんを追いかけてく。
僕とニニが進行方向が分からなくて立ち止まってる前を、右に左に行ったり来たり、二人ですごい勢いの追いかけっこを繰り返してる。何がすごいって、毎回生姜さんに頭に拳骨を落とされてるのに、一瞬でまた次の素材のトコに走ってくんだよね。何回繰り返すんだろうね、これ。
「キュイ?」
「ん? ニニ?」
その時、ニニが何かに気づいたように小さく鳴き声を上げる。どうしたのかとニニを見れば、ニニは最中さんが駆けていったのとは違う方向をじっと見てる。
「何かあるの?」
「キュイ、キュィ」
問いかけると、ニニはちょっと自信なさげだけど、小さくうなずいて見せる。そこに生姜さんが最中さんの襟首をつかんで引きずって帰ってきたので、声をかける。
「生姜さん。あっちに何かあるかもしれないってニニが」
「そうなのかい。俺には連絡が来てない場所だから、一緒に行ってみようか」
当初の目的地からはずれるのに、生姜さんは僕の言葉にうなずいてすぐにニニが指した方向に歩き始める。え、いいのかな。そう思いながらも、最中さんも生姜さんについていく。
僕が伝えたんだけど、本当にいいのかな。そう思いながら、時々ニニに方角を聞いて確認しながら十分くらい進んでいくと、拓けた場所に出る。
そこには、昨日見かけた花畑とは違う、小さな澄んだ水色の池のようなものがあった。




