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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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6.幻獣と加工と調剤と変人 2

 僕の頭痛が引くよりも早く、それまでいなかった人たちも食堂に顔を出して、配膳のためにやってきた真鯛(マダイ)の刺身さんも「どしたの?」とこっちを不思議そうにしていた。

「とりあえず配膳だけしちゃうから、食べれそうなら食べてね」

 真鯛の刺身さんはそういいながら、僕の頭からちょっと離れたところに何枚かのお皿を配膳してくれたようで、陶器が置かれる振動が響いてきた。

 ニニはまだ気にしてるのか、何度も何度も僕の頭の腕で手を往復させてる。普通に食べモノ食べられるんだから、先に食べててもいいのにな。

 ああ、でもほかの人が食事するテーブルにずっと突っ伏してるのも不衛生かな。まだ若干残ってる痛みは無視して体を起こせば、ニニが「キュイキュイッ! キュイキュイッ!」と鳴きながら胸辺りに突進してきた。

 たぶん、謝ってるんだろうな。だから、「大丈夫だよ」とニニの頭に指をおいてぐりぐりと押してやる。すると、ニニはどこかホッとしたように、ぎゅっと頭に置いた指にしがみついてきた。

 すでに食事を始めてる周りから、なんか歓声みたいなのが聞こえる。カササギさんをちらっと見たら、「無視してご飯食べな」と言われたので、真鯛の刺身さんが少し離しておいておいてくれたお皿を引き寄せる。

 お皿の上には小さめの籠やカップが載ってて、その籠の中に小さく切られたトーストが数枚。小さなカップにはたまごサラダやバター、ジャムなどがいくつも並べられていて、残ったお皿のスペースに少しだけ温野菜が載ってた。

 僕の皿の隣には、小さくて背の低い籠に、同じようにトーストとちょっとばかりの温野菜に、木の実っぽいのが詰め合わせになっていて、これって思ったら、真鯛の刺身さんから「幻獣ちゃん用だよ」と教えてくれたので、ニニのところに寄せてやる。

 二には、自分用に用意された籠の中を覗き込んで、食べていいの? と言わんばかりに「キュイ?」と鳴いたので、いいよと返してやれば、ほとんど籠の中に体を乗り入れて、中身をもしゃもしゃと食べ始めた。

 ニニが食べ始めたから、僕も食べようとして、トーストを手に取る。たぶん、四角いのを四ツ切(よつぎり)にしたと思われる大きさのそれは、まだ暖かくて、一枚を持ち上げて、ひとまずそのまま口に運んだ。

 厚みが二センチくらいありそうなそのトーストは、茶色くなった表面はカリっとしてたけど、中はすごくやわらかくて、力いっぱい噛まなくても大丈夫だった。パンを噛んでるうちに、口の中にほんのりと甘みが広がるのが不思議だった。

 端っこの部分は少し強くかむ必要があったけど、それでもお肉よりはよっぽど楽に咀嚼できた。一枚目を食べきって、二枚目に手を伸ばす。今度は、せっかく用意してもらってるんだから、やわらかい黄色に白い粒の混じっている、たまごサラダを取る。カップの中のたまごサラダは、小さなトーストに朝護載るくらいの量で、そのまま全部手に取ったトーストに載せて口に運んだ。

 たまごサンドは、なんどか食べたことはあるからどんなものなのかは知ってる。知ってるんだけど、何だろう。このトーストに載せたたまごサラダは、なんだか今まで食べたことがあるものとは別物に感じた。でも、何が違うのかはよくわからない。ただ、飲み込みづらさなどはなかった。

 それから、バターも、ジャムも、食べたことがないわけじゃないのに、記憶の中にあるものとはなんだか違って、これは何だろうと思う。結局のところ、違うところが全く分からないまま、僕は温野菜まで食べきることに成功していた。

 籠の中もお皿の上も何もなくなったところでニニを見ると、ニニが満足そうにおなかの辺りをぽんぽんとたたいてる。かーばんくるもこういう仕草するんだね。

 ほかの人たちは、僕のよりも二回りくらい大きいお皿一枚を空にしたうえで、中央に置かれてるお皿には、相変わらずカットされたお肉が山のようにのっかってるのをすごい勢いで自分の取り皿に移して口に運んでいた。朝から食欲すごいな。

「……ニニってお肉は食べるの?」

 そんな周りの様子を見ていて疑問がわいたので、ニニに聞いてみるとニニはふるふると頭を横に振る。一応肉食ではなくて草食でいいみたい。このリスみたいな見た目で肉食って言われたらちょっとびっくりするけど。

「ごめん、最中(モナカ)がまだ食べてるからもうちょっと待ってもらっていいかな」

 ニニと僕が食べ終わったのに気づいたのか、ジンジャーマンクッキーさんからそう声がかかって顔を上げると、向かいの最中(モナカ)食べたいさんが頬を頬袋かといわんばかりにパンパンに膨らませているのが見えた。……人間の頬ってあんなに伸びるんだね。

 ニニが最中食べたいさんを見て楽し気に「キュイッ、キュイッ」と鳴いてるのは、何を言いたいんだろう。かーばんくるもリスみたいに頬袋とかできるのかな。でも、あれって確か食料を確保するためにやってるんであって、実際の食事のときに膨らんでるんじゃなかったよね。

「相変わらずエグい量だ事。カナくんもあれくらい食べれるようになるといいね」

「……カササギさんは僕の胃を破裂させようとしてる?」

「あっはは、胃が破裂する前に顎疲れて噛めなくなるでしょ」

 カササギさんにそう言われて、自分でもそう思うので、反論できずに口を噤んだ。

みょぅ(もう)ひゃべひょはっは(食べ終わった)

「口ン中のもの飲み込んでから言え!」

 相変わらず頬をぱんぱんに膨らませたままに最中食べたいさんがもごもごと声を発すると、素早くジンジャーマンクッキーさんがその頭にこぶしを落とす。若干暴力的だけど、最中食べたいさんの行動はそれくらいやらないと止まらないってことなんだろうな。

 周りもいつものことと言わんばかりに気にした様子はない。ちょっとだけニニがびっくりしたみたいだけど、自分を怯えさせてた最中食べたいさんがやられている様子は気分がいいみたいで、嬉しそうにしてた。けっこうイイ性格だね、ニニ。

「カナカくん、先にエントランスに行っててくれるか。すぐに最中に準備させて向かうから」

 まだ口をもぐもぐと動かしている最中食べたいさんに一つため息を吐きながら、ジンジャーマンクッキーさんがそう言う。いいのかな。隣のカササギさんを見れば、「準備しといで」と指示してくれるので、僕はちょっとポッコリ膨れたように見えるお腹を満足げにぽんぽんと手で叩いていたニニを持ち上げて、一度工房に向かう。

 工房に入って、一先ず広げたままになっている作業テーブルはそのままに、工房の素材格納棚に入れられるだけかばんに入っていた、昨日採取した素材を押し込む。

 十分な容量があるかばんだから大丈夫だとは思うけど、念のために壊れやすい花なんかの植物素材は工房においていく。さすがに丸太なんかは置く場所がないからかばんの中に入れっぱなしだけど。あと、容量はあるとはいっても、石類を入れたらカバンの中で花がつぶれちゃいそうな気がしてなんか良い気分はしないからっていうのもある。丸太と一緒だったのに問題なかったんだから平気だろうけど。

 結構な量があったけど、花なんかの素材はなんとか素材格納庫に収めることができたけど、その代わり素材格納庫は満杯になっちゃった。隙間もないよ。むしろイベント期間で使いきれるのかなってくらいむしってた。

「キュイ~」

「ぎゅうぎゅうになるくらいむしってたみたいだよ。びっくりしちゃった」

 満杯になった素材格納庫を見て、ニニが驚いたような鳴き声を上げるから、それに答えながらかばんの中を確認する。丸太以外にもまだ少しだけ(つる)(つた)類が残っていたけど、それでもかばんの使用容量は一割くらいまで減った。これなら、採掘でかばんがいっぱいになることもないだろう。

「よし。ニニはなにか準備することある?」

「キュ~イッ」

「ん、じゃあエントランスにいこっか」

 特にないと言いたげなニニの鳴き声に、僕はニニを手に持ったまま工房を出て、エントランスへと降りた。

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