5.プレイヤーとの交流 25
目の前の皿が空になるより早く、ニニの方が食べ終わっていてこっちを応援するように両手をぶんぶん振り回していたのには若干情けない気分を味わったけど、なんとか空にして食事を終えられた。
先に食事をしていた面々の食事が終わるころに、いなかった人たちが食堂にやってきたので真鯛の刺身さんは帰ってきた人へ配膳をするために忙しくしていたので、ニニを連れて工房に上がる。
カササギさんに「この後外には出ないよね?」と聞かれて、それに頷いたら「ちゃんと寝るんだよ」とだけ言われたのは、なんなんだろう。そして、それにニニがうむ。といわんばかりに頷いてたのもなんだろう。ニニは一体何ポジションのつもりなんだ。
さすがに聞いても明確な回答はわからないから、ニニをさっき寝てた作業テーブル端のスペースにおいて、やりかけていた作業を再開する。
真鯛の刺身さんに呼ばれる直前まで花と合わせようと思ってた土台を手に取る。ちょうど年輪の中心近くから切り出したから、花を収めるためのくぼみ部分から年輪が広がるように端の方に年輪模様が入っている。なかなかいいところを使えたなと自画自賛しながら、乾燥棚で乾かしていた花を見る。
今回切り出した土台にした木材であるウゥンシュは、樹皮の黒さとはからは想像ができないくらい白みの強い色をしていて、この土台も比較的白に近い茶色をしている。この木材の色味を考慮するなら、濃い色合いの花を合わせると花の色が強くて土台が違和感になりそうだ。
乾燥棚の花の中から、色味が淡い花をいくつか手元に取る。ほんのりと桃色の花、ほんのりと紫色の花、ほんのりと黄色の花。軽く土台の色と花の色を見比べて、今回は紫色の花じゃないなと思って桃色と黄色の花を土台に充てる。
どちらも茶色に近い系統の色だから両方悪くないなと思うけど、黄色の方は土台の色に埋もれちゃいそうだなと思ったので、桃色の花をそっとくぼみに当ててみる。こっちの方が花が疋田ウキがするから、これで行こう。
一旦花を横において、花を土台に固定する方法を考える。今まではこういう接着するようなアクセサリーは作ってなかったから、自分の知識が足りていない。
「キュイ?」
こっちを見て不思議そうな表情を見せるニニに、そっと土台を見せる。
「ここに花を留めたいけど、どうやって留めようかなって」
説明しながら、かばんに入ってる入門書を取り出してぺらぺらとめくってみる。土台とモチーフが分かれてるタイプのアクセサリーのページを確認する。
さっと読み込めば、やっぱり接着剤で接着するらしいけど、注釈に素材によって使用する接着剤が変わるらしい。接着剤の商材情報があるのかと思ってほかのページも見るけど、種類があるということ以外はほとんど情報がなかった。
「……たしか、最中食べたいさんが薬剤に詳しいんだっけ」
HELPもさすがにこういう細かい内容までは教えてくれないから、やっぱり調べられる用の本が欲しいと思うよね。第二の街だっけ。イベントが終わったら、カササギさんにちょっと相談してみようかな。
で、今必要なわけだけど、延々と森が続くこの場所に本なんてあるわけないよね。なら、知ってるであろう人に聞くしかない。一番詳しそうな人を考えたら初日からポーションを飲んでたあの人しかわかんない。
最中食べたいさんの名前を出すと、怯えたようにニニが震えたのが視界の端に映って、なんで? と思ったけど、そういえば帰ってきた時に拠点前で最中食べたいさんがすごい勢いでぐるぐる回られながら凝視されてたもんね。自分でもびっくりしたし、ちょっと怖かったのかもしれない。
「怖いなら最中食べたいさんの近くにいなくていいからね」
「キュゥイィ……」
若干情けない鳴き声を上げながら、ニニがしょんもりとした様子で頷くので、よっぽど怖かったんだね。まあ、すごかったもんね、勢い。
「まあ、話聞くだけだし、明日のことだから。今日はもうちょっとこの土台を整えようかな。……また見る?」
「キュイッ!」
見るといいたげに頷いたので、ニニをまた作業テーブル端に移動させてやると、嬉しそうに頭をテーブルの端から乗り出して、手でテーブルをぎゅっと掴んだ。
とりあえず落ちそうになかったので、ニニはそのままにして作業テーブル端に放り出されていた大まかに切り出した木材を手に取って、ニニに見えるように背中を丸めて少しずつ削っていく。
食事前と同じように木目模様に合うようにとその得ていきながら、ちょっと色味の違う土台も欲しいなと思う。さっき除外したほんのり紫色の花が生える土台も必要だし、逆にもっと色の濃い土台でもいけるかもしれない。
手元で形を整えながら、頭の中で今日集めた木材の色味を思い出しながら、いいなと思うものと会いそうにないなと思うものをより分けて、次に土台として削り出す木材を決めておく。
さすがにこの後次の木材の切り出しや削り出しができるとは思ってないけど、次に何をするかを決めておけばスムーズに作業を進められる気がする。
そう考えて、花によっては今ある木材では色味が合わないなと感じる色もあるから、余裕ができたら新しい木材がないか探しに行ってもいいかもしれない。
一つ削り終えて、次を削り出そうかなと思ったときに、ふとこの土台からしゃらっと揺れるのがあってもいいかもしれないと思いついた。アメリーさんからもらったアクセサリーアイデア集の中に、用途はよくわからないけど、細いひも状のものが垂れ下がってるデザインがいくつもあった。
大半は複数のパーツ同士をつないでたけど、ごく少数、同じパーツに端っこが両方ともくっついてるのもあったんだよね。なんで? と思ったけど、この土台の一番先端から先端に付けたらいいんじゃないかと感じた。
「ね、ニニ。ここのさ、ここからここに細い紐みたいなのをたらしたらどうかな」
「キュイッ! キュキュイ~ッ」
動物のニニに聞くのもどうなんだと思ったけど、なんかデザインの良し悪しもわかってそうだなぁと思ったから、ニニに指でつけたい部分を示して尋ねてみると、ニニは一瞬きょとんとしたけど、絶賛するように両手をたたきながら鳴き声を上げるから、その方向で考えようと思って、今削り終わった土台を作業テーブルにおいて、デザイン画にこのこと追記する。しないと、なんでつけたかわかんないからね。
デザイン画に追記して、垂らすひも状のものを何にしようか考えていると、ニニが突然人の手に飛びついてきた。
「キュイッ! キュキューイッ」
「え、なに。作業できないから離して」
「キューイッ」
駄目だといわんばかりに頭を横に振るニニは、手にギュッとしがみついてきて離してくれない。今までおとなしく見てたのに、なんで急にこんなことしだしたんだろうと考えてた時に、ふっと耳にボーンと何かの音が聞こえた。
何の音かと思って工房の中を見回すと、工房の壁にかかっていた柱時計の長針と短針が12のところで重なっているのが見えた。もうそんなに時間が経ったのかと驚く。
それから作業テーブルに視線を落とせば、食事の前に作った土台とは別に、三つほど増えていて、そんなに作ったっけ? と思ったけど、実際にあるから削ったのかもしれないと思いなおす。
ニニが突然作業の妨害をしてきたのは、多分時間のことに気づいたからなんだろうな。カササギさんにいわれたときに反応してたし。
まだ作業したい気持ちは合うけど、ニニが離れないから寝るしかないか。作業テーブルの上をさっと見回して、片づけのことが頭によぎったけど、この工房を使うのは自分だけみたいだからいいか。
「ニニ、寝るための部屋に行くよ」
「キュイッ」
ニニにそう声を掛けたら手を離してくれたから、そのままニニを持ち上げて工房を後にする。ニニが一匹で拠点内を歩き回ることはないだろうけど、とりあえず寝るための部屋は三階にあることを口で説明しながら階段を上がる。
そして登ってすぐにある自分の部屋の扉を開ければ、ニニは人の手から床へと飛びえ降りて、室内をきょろきょろうろちょろとしだす。そんなに見るようなものないんだけどね。
とりあえずニニには好きなようにさせながら、ニニを寝かせる場所はどうしたらいいかと室内の改装をするタッチパネルでいろんなページを開く。
内装オプションの中に、小さいペット用のベッドやらの一覧が出てきたから、うろちょろしてるニニを呼ぶ。近づいてきたニニを持ち上げて、タッチパネルが見えるようにして問いかける。
「ニニ、タッチパネルに表示されてるの見える?」
「キュイッ!」
ニニの良い感じの鳴き声に、多分見えてるんだろうなと判断してそのまま確認したいことを伝える。
「この部屋にはニニが寝る場所がないからさ。お前はどれがいい? 好きなの選んでいいよ。あと、お前がほかに欲しい家具があるなら教えて」
「キュイッ!? キュイッ、キュキュッ、キュイ~~~ッ」
良いの!? と言わんばかりの鳴き声を上げたかと思うと、ニニは興奮したようにタッチパネルをのぞき込んで、なんか勝手に操作し始めた。
……動物ってタッチパネル操作も理解できるもんなの? それとも、かーばんくるって種類が頭いいだけなの? なんかよくわかんないなぁと思いながら、ニニが満足するまでそのままの状態で待つことにする。
ずいぶんと集中してタッチパネル操作をしていたかと思ったら、何個かの家具を手早く選んで「キュイッ」と鳴いた。満足そうだったので、もういいの? と確認したら頷いたのでタッチパネルから離れて室内に視線を向けて、何個も増えた家具にちょっと不思議に思った。
ベッドの枕元に小さいかごみたいなベッドが増えてたのは納得できる。でも、丸テーブルと合わせた一人掛けのソファの近くに棚が増えて、さらに……何だろう、上下に高さのあるなんかのオブジェみたいなのが追加されてたり、デスクやチェアなんかの辺りにも大き目の室内灯やデスクラックが増えてたりする。ニニはどこまで選んだんだ。
ほかにも観葉植物が増えてたりといろいろ内装が変えられてたけど、まあ使うのはベッドくらいだし、移動に困るような配置じゃないからいいかと考え直して、ベッドに向かう。
ニニを枕元のかごの中に入れてから、靴を脱いでベッドに上がる。上着とかばんだけサイドテーブルの上に乗せて、そのまま横になる。上掛けを軽く体にかけてかごの方を見ると、かごから上体を乗り出してたニニがおやすみというように手を振った。
「……おやすみ」
ニニに小さくそうかえして、目を閉じる。明日は最中食べたいさんに薬剤について話を聞かなきゃ。そう考えているうちに、自然と眠りに落ちていった。




